32 / 53
32.付き合うことになりました①
しおりを挟む
階段を上がり、二階にある一室に案内される。
まさか、伊沢の部屋に入れるなんて、思いもしていなかった。
大樹はそわそわとしながら、伊沢の部屋に足を踏み入れた。
部屋は洋室で、伊沢からイメージできる通り、きれいに片付いた余計なものが置かれていない部屋だった。
本が詰まった本棚と、参考書などが置かれた勉強机。その上にはノートパソコンが置かれている。クローゼットの前にはベッドがあり、シーツもきれいに伸ばされていた。布団をくしゃくしゃにしたまま出てきた大樹とは大違いだ。
勉強机の上の参考書にふと目を止め、大樹は手に取った。
「これ、大学入試の…?」
伊沢は三年生だ。ただでさえ学年が違うから会えるのは少ないというのに、来年の春には卒業してしまう。その現実を突きつけられた。
「大学はどこ行くんですか?」
伊沢のように優秀な人間なら、国立などいくらでも上の大学を狙える。地元を離れて、有名大学に進学するのかもしれない。
そうなると本当に会えなくなってしまう。かといって、大樹には追いかけるほどの高い偏差値はない。
「別に、拘りがないから普通に地元の大学だ」
「……」
みどりから離れたくなくて地元を選んだというのが拘りなのでは、と思ったが大樹は口にしなかった。
大樹に分からないとでも思っているのかと、内心呆れる。
参考書をぱらりとめくり中身を見て、苦い顔をして大樹はページを閉じた。
来年には大樹も、こうして勉強をしなければならないのかと思うと憂鬱だ。
机の上に参考書を戻した大樹を見て、伊沢がぽつりと話し出した。
「姉さんを大学中退させておいて自分が行くわけにはいかないと、最初は進学しないつもりだったんだ。でも、姉さんからも大学に行くように勧められたから……。先生からも何度も大学進学を勧められて、最近やっと……進学することに決めた」
罪の意識から、進学を諦めて苦悩する伊沢の姿が思い浮かぶ。大学に進学できることになって、良かった。
大樹はほっとしたような表情で伊沢を見た。
「……まあ、そんなわけだ」
視線が合った伊沢は、自分からそんな話をしたことに気付き、少し戸惑いの表情を浮かべた。
机の前に立ったままでいると、適当に座れと言われたので、大樹は部屋を見回してから奥のベッドに腰を下ろす。
伊沢が勉強机の椅子に座ろうとしたので、大樹はベッドの自分の座る右側をぽんぽんと叩き、伊沢を呼んだ。
少し躊躇いを見せてから、伊沢は大樹の隣に腰を下ろした。
つい先日も、こうして隣に座って伊沢と話をした。
あの日は教室に戻ると、生徒会長に連れて行かれるなんていったい何をやらかしたんだと、皆に問い詰められて大変だった。
まさか伊沢の部屋でまた並んで座ることがあるなんて、あの時は思いもしていない。
二人の間に沈黙が流れる。
好きな人の部屋にいるということで大樹はそわそわしていたが、伊沢もどこか少し落ち着きがない様子だ。
さっきのみどりの発言のせいかもしれない。
だが、大樹も浮かれてばかりいるわけではなく、緊張していた。
その沈黙は悪いものではなく、妙に気持ちを高揚させた。
まさか、伊沢の部屋に入れるなんて、思いもしていなかった。
大樹はそわそわとしながら、伊沢の部屋に足を踏み入れた。
部屋は洋室で、伊沢からイメージできる通り、きれいに片付いた余計なものが置かれていない部屋だった。
本が詰まった本棚と、参考書などが置かれた勉強机。その上にはノートパソコンが置かれている。クローゼットの前にはベッドがあり、シーツもきれいに伸ばされていた。布団をくしゃくしゃにしたまま出てきた大樹とは大違いだ。
勉強机の上の参考書にふと目を止め、大樹は手に取った。
「これ、大学入試の…?」
伊沢は三年生だ。ただでさえ学年が違うから会えるのは少ないというのに、来年の春には卒業してしまう。その現実を突きつけられた。
「大学はどこ行くんですか?」
伊沢のように優秀な人間なら、国立などいくらでも上の大学を狙える。地元を離れて、有名大学に進学するのかもしれない。
そうなると本当に会えなくなってしまう。かといって、大樹には追いかけるほどの高い偏差値はない。
「別に、拘りがないから普通に地元の大学だ」
「……」
みどりから離れたくなくて地元を選んだというのが拘りなのでは、と思ったが大樹は口にしなかった。
大樹に分からないとでも思っているのかと、内心呆れる。
参考書をぱらりとめくり中身を見て、苦い顔をして大樹はページを閉じた。
来年には大樹も、こうして勉強をしなければならないのかと思うと憂鬱だ。
机の上に参考書を戻した大樹を見て、伊沢がぽつりと話し出した。
「姉さんを大学中退させておいて自分が行くわけにはいかないと、最初は進学しないつもりだったんだ。でも、姉さんからも大学に行くように勧められたから……。先生からも何度も大学進学を勧められて、最近やっと……進学することに決めた」
罪の意識から、進学を諦めて苦悩する伊沢の姿が思い浮かぶ。大学に進学できることになって、良かった。
大樹はほっとしたような表情で伊沢を見た。
「……まあ、そんなわけだ」
視線が合った伊沢は、自分からそんな話をしたことに気付き、少し戸惑いの表情を浮かべた。
机の前に立ったままでいると、適当に座れと言われたので、大樹は部屋を見回してから奥のベッドに腰を下ろす。
伊沢が勉強机の椅子に座ろうとしたので、大樹はベッドの自分の座る右側をぽんぽんと叩き、伊沢を呼んだ。
少し躊躇いを見せてから、伊沢は大樹の隣に腰を下ろした。
つい先日も、こうして隣に座って伊沢と話をした。
あの日は教室に戻ると、生徒会長に連れて行かれるなんていったい何をやらかしたんだと、皆に問い詰められて大変だった。
まさか伊沢の部屋でまた並んで座ることがあるなんて、あの時は思いもしていない。
二人の間に沈黙が流れる。
好きな人の部屋にいるということで大樹はそわそわしていたが、伊沢もどこか少し落ち着きがない様子だ。
さっきのみどりの発言のせいかもしれない。
だが、大樹も浮かれてばかりいるわけではなく、緊張していた。
その沈黙は悪いものではなく、妙に気持ちを高揚させた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
こんなはずじゃなかった
こどちゃ
BL
在り来りなBL小説です
是非読んでみてください
過激なシーンも入ると思うので苦手な方は、回れ右してください。
暇な時に息抜きとして書くので投稿期間は、バラバラ
です。
長編になると思われます
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!
きよひ
BL
ぼっち無愛想エリート×ぼっちファッションヤンキー
蓮は会話が苦手すぎて、不良のような格好で周りを牽制している高校生だ。
下校中におじいさんを助けたことをきっかけに、その孫でエリート高校生の大和と出会う。
蓮に負けず劣らず無表情で無愛想な大和とはもう関わることはないと思っていたが、一度認識してしまうと下校中に妙に目に入ってくるようになってしまう。
少しずつ接する内に、大和も蓮と同じく意図的に他人と距離をとっているんだと気づいていく。
ひょんなことから大和の服を着る羽目になったり、一緒にバイトすることになったり、大和の部屋で寝ることになったり。
一進一退を繰り返して、二人が少しずつ落ち着く距離を模索していく。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる