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27.伊沢の失恋③
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「初めて授業をサボった……」
空を見上げ、伊沢が呟いた。
「俺もです。むしろ巻き込まれた感じですけど」
大樹は膝の上の伊沢を見下ろす。
そこで初めて伊沢は気付いたらしい。
「す、すまない。自分のことで頭がいっぱいになって……」
「別にいいですよ」
「よくよく考えたら、教室にまで押しかけるようなことをして、悪かった……」
「めちゃくちゃ目立ってましたしね」
それだけ、みどりのことで頭がいっぱいになっていたということだ。
伊沢にもそんな凡人のようなところがあるのだなと思うと、少し微笑ましく思える。
それに、伊沢が思うほど、大樹は迷惑に感じてはいない。
むしろ、今のこの二人の時間を大事にしたかった。
大樹は伊沢の額にかかる前髪を、そっと指先で梳く。風呂上りでなくとも、さらりとした髪だ。伊沢は大人しく触らせるがままになっている。
いつもの行為を考えると、こんな風に穏やかに触れさせてもらえることがあるとは思わなかった。
きれいな整った顔をこんな近くで見るのも、触れることができるのも、今日で最後かもしれないと思うと名残惜しくなる。
「女はお姉さん一人じゃないですよ。この学校だけで、まだ告白してきてない女子がどんだけいるか。あんたモテるんだから、すぐに次の出会いがありますよ」
だが皆、見た目の良さと、理想が集まった完璧な男という印象だけで、伊沢を好きになっている。
伊沢の表面しか見ていないくせに、伊沢のことを知った気になっている。少し前までは、大樹自身もそうだった。
伊沢が普段見せない弱い部分まで知っているのは、大樹だけだ。
そんな上辺だけに惹かれる女には譲りたくないと思いながら、伊沢が失恋から前に踏み出せるよう、応援するようなことを言ってしまう。
本当は、失恋して弱っているところに付け入りたい気持ちがないわけではない。
ただ、大樹はすでに振られてしまった身だ。
大樹の指に髪を梳かれながら、伊沢は大樹を見上げた。
「女はもういい……」
みどりのことで辟易したのか、少し疲れたように伊沢が溜め息を零す。
「それって、俺とならいい的な?」
まるで男ならいいと言われているように、都合よく受け取ることもできる。冗談半分で訊ねると、呆れた表情を返された。
「どこをどう解釈したらそうなる」
「ですよねー」
軽いノリで返した。
最初から大樹の印象は良くなかっただろうが、初めてセックスした時、伊沢の中で大樹の立ち位置が大きく変わったと感じた。
疎まれる以外のものでなかったのが、あの件以来気を許されているように思える。
それほどにあの出来事は二人の距離を縮めるには十分だった。
振られたのは、嫌いだからではなく好きな人がいるからという理由だった。
嫌いだと言われなかったから望みがあると思ってしまうのは、ただ単に大樹が諦めが悪いからかもしれない。
大樹は伊沢の髪を梳く手を止めた。
「ねえ。マジで俺にしときませんか?」
空を見上げ、伊沢が呟いた。
「俺もです。むしろ巻き込まれた感じですけど」
大樹は膝の上の伊沢を見下ろす。
そこで初めて伊沢は気付いたらしい。
「す、すまない。自分のことで頭がいっぱいになって……」
「別にいいですよ」
「よくよく考えたら、教室にまで押しかけるようなことをして、悪かった……」
「めちゃくちゃ目立ってましたしね」
それだけ、みどりのことで頭がいっぱいになっていたということだ。
伊沢にもそんな凡人のようなところがあるのだなと思うと、少し微笑ましく思える。
それに、伊沢が思うほど、大樹は迷惑に感じてはいない。
むしろ、今のこの二人の時間を大事にしたかった。
大樹は伊沢の額にかかる前髪を、そっと指先で梳く。風呂上りでなくとも、さらりとした髪だ。伊沢は大人しく触らせるがままになっている。
いつもの行為を考えると、こんな風に穏やかに触れさせてもらえることがあるとは思わなかった。
きれいな整った顔をこんな近くで見るのも、触れることができるのも、今日で最後かもしれないと思うと名残惜しくなる。
「女はお姉さん一人じゃないですよ。この学校だけで、まだ告白してきてない女子がどんだけいるか。あんたモテるんだから、すぐに次の出会いがありますよ」
だが皆、見た目の良さと、理想が集まった完璧な男という印象だけで、伊沢を好きになっている。
伊沢の表面しか見ていないくせに、伊沢のことを知った気になっている。少し前までは、大樹自身もそうだった。
伊沢が普段見せない弱い部分まで知っているのは、大樹だけだ。
そんな上辺だけに惹かれる女には譲りたくないと思いながら、伊沢が失恋から前に踏み出せるよう、応援するようなことを言ってしまう。
本当は、失恋して弱っているところに付け入りたい気持ちがないわけではない。
ただ、大樹はすでに振られてしまった身だ。
大樹の指に髪を梳かれながら、伊沢は大樹を見上げた。
「女はもういい……」
みどりのことで辟易したのか、少し疲れたように伊沢が溜め息を零す。
「それって、俺とならいい的な?」
まるで男ならいいと言われているように、都合よく受け取ることもできる。冗談半分で訊ねると、呆れた表情を返された。
「どこをどう解釈したらそうなる」
「ですよねー」
軽いノリで返した。
最初から大樹の印象は良くなかっただろうが、初めてセックスした時、伊沢の中で大樹の立ち位置が大きく変わったと感じた。
疎まれる以外のものでなかったのが、あの件以来気を許されているように思える。
それほどにあの出来事は二人の距離を縮めるには十分だった。
振られたのは、嫌いだからではなく好きな人がいるからという理由だった。
嫌いだと言われなかったから望みがあると思ってしまうのは、ただ単に大樹が諦めが悪いからかもしれない。
大樹は伊沢の髪を梳く手を止めた。
「ねえ。マジで俺にしときませんか?」
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