26 / 53
26.伊沢の失恋②
しおりを挟む
「それはそうだけど…」
「………」
「…イツ…、志賀?」
動揺を隠せずに黙り込んだ大樹を、初めて伊沢が名で呼ぶ。
告白して振られたが、ようやく名前を覚えてもらった。その途端に関係が終わるなんて思いもしなかった。
もしかしたら、今こうして会うのが最後になるのかもしれない。
好きだと気付いて告白して振られ、その直後に別れがくるなんて、急展開すぎてショックやら悲しいやらついていけない。
気持ちを切り替えるように大樹は小さく息を吐いて、伊沢を見た。
「俺にも仲いい姉がいるんですけど、たまに凄く機嫌悪くなるんです。まぁ、だいたい何かよく分からない理由なんですけど。そんな時は、姉の好きそうな本やケーキを買って帰るんです。そしたら機嫌直っちゃうんです」
突然姉の話を始めた大樹に、伊沢は理由が分からないまま黙って耳を傾けている。
「女なんてそんなもんなんです。いつも優しくしてくれている男に好きだ結婚してほしいなんて言われたら、そりゃたまらないですって。それまで機嫌悪かったのなんて、どうでもよくなっちゃいますよ」
みどりは、もう普通の生活ができず、普通の女性のような幸せを得られないと思っていただろう。だから、自分を普通の女性のように見てくれる男に惹かれた。
みどりも不安を抱えて辛かったのだから、目の前の幸せにぐらつくのは仕方がない。
そして伊沢に対し、恨みを晴らすような行為はもう必要がないと考えた。
絵を破ったということは、そういうことだ。
「女って、男と違って切り替え早いんですよ」
そういう意味では、みどりと伊沢は分かりやすいくらいに対照的だ。
「そうか……」
伊沢はぽつりと呟き、黙り込んだ。
きっと、色々なことを思い出したり考えたりしているのかもしれない。
どうせ叶わない恋だったのだから、みどりから解放されることをプラスに受け止めればいい。
みどりの障がいに対する原因を作ったことへの罪が消えるわけではないが、みどりが幸せになれば、こうならなければ彼との出会いもなかったと思ってくれるかもしれない。
当人たちではないから、大樹はそんな風に安易に考えてしまうのかもしれないけれど。
伊沢は大きく息を吐いた。ずっと張りつめていた気持ちがようやく緩んだのか、ぼんやりと空を見上げる。
「なんか、気が抜けた……」
しばらくして俯き身じろぎしたかと思うと、伊沢は体を倒し大樹の膝の上にぽてんと頭を乗せた。くるりと体を反転させ仰向けになる。息を吐き、完全に体の力を抜いて寝転がった。
突然の行動に、大樹は面食らう。
初めて経験する膝枕であると同時に、伊沢から近づくようなことをするとは思いもせず、驚いた。
「少し落ち着いた。ありがとう」
大きく深呼吸し、膝の上から見上げてくる伊沢は、表情が和らいでいる。
こんなことをするくらいなのだから、よほど気持ちが楽になったのだろう。
大樹もほっとした。
「………」
「…イツ…、志賀?」
動揺を隠せずに黙り込んだ大樹を、初めて伊沢が名で呼ぶ。
告白して振られたが、ようやく名前を覚えてもらった。その途端に関係が終わるなんて思いもしなかった。
もしかしたら、今こうして会うのが最後になるのかもしれない。
好きだと気付いて告白して振られ、その直後に別れがくるなんて、急展開すぎてショックやら悲しいやらついていけない。
気持ちを切り替えるように大樹は小さく息を吐いて、伊沢を見た。
「俺にも仲いい姉がいるんですけど、たまに凄く機嫌悪くなるんです。まぁ、だいたい何かよく分からない理由なんですけど。そんな時は、姉の好きそうな本やケーキを買って帰るんです。そしたら機嫌直っちゃうんです」
突然姉の話を始めた大樹に、伊沢は理由が分からないまま黙って耳を傾けている。
「女なんてそんなもんなんです。いつも優しくしてくれている男に好きだ結婚してほしいなんて言われたら、そりゃたまらないですって。それまで機嫌悪かったのなんて、どうでもよくなっちゃいますよ」
みどりは、もう普通の生活ができず、普通の女性のような幸せを得られないと思っていただろう。だから、自分を普通の女性のように見てくれる男に惹かれた。
みどりも不安を抱えて辛かったのだから、目の前の幸せにぐらつくのは仕方がない。
そして伊沢に対し、恨みを晴らすような行為はもう必要がないと考えた。
絵を破ったということは、そういうことだ。
「女って、男と違って切り替え早いんですよ」
そういう意味では、みどりと伊沢は分かりやすいくらいに対照的だ。
「そうか……」
伊沢はぽつりと呟き、黙り込んだ。
きっと、色々なことを思い出したり考えたりしているのかもしれない。
どうせ叶わない恋だったのだから、みどりから解放されることをプラスに受け止めればいい。
みどりの障がいに対する原因を作ったことへの罪が消えるわけではないが、みどりが幸せになれば、こうならなければ彼との出会いもなかったと思ってくれるかもしれない。
当人たちではないから、大樹はそんな風に安易に考えてしまうのかもしれないけれど。
伊沢は大きく息を吐いた。ずっと張りつめていた気持ちがようやく緩んだのか、ぼんやりと空を見上げる。
「なんか、気が抜けた……」
しばらくして俯き身じろぎしたかと思うと、伊沢は体を倒し大樹の膝の上にぽてんと頭を乗せた。くるりと体を反転させ仰向けになる。息を吐き、完全に体の力を抜いて寝転がった。
突然の行動に、大樹は面食らう。
初めて経験する膝枕であると同時に、伊沢から近づくようなことをするとは思いもせず、驚いた。
「少し落ち着いた。ありがとう」
大きく深呼吸し、膝の上から見上げてくる伊沢は、表情が和らいでいる。
こんなことをするくらいなのだから、よほど気持ちが楽になったのだろう。
大樹もほっとした。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる