セマイセカイ

藤沢ひろみ

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24.月曜日

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 梅雨の間の束の間の快晴が訪れた週末、大樹は姉と一緒に買い物に出掛けた。

 四歳年の離れた姉とは、子供の頃から仲が良く時折一緒に出掛ける。
 大樹の着る服は、だいたいが姉の見立てだ。夏服を買い、本屋に寄って一緒に少女漫画を選び、楽しんだ。

 伊沢姉弟のことを考えることのない週末を過ごしたのは、久しぶりだった。



 週明けの月曜日、いつものように大樹は学校へ登校した。

 時間はかかるが通えない距離でもないので、普段は自転車で通学している。
 最近は雨のせいでバスを利用していたが、月曜日もまだ晴れが続いていたので、大樹は自転車で通学した。天気予報では、また火曜日からは雨がしばらく続くということだ。

 学校に着くと駐輪場に自転車を停め、教室へと向かった。大樹の通う高校は二足制ではないため、上履きに履き替えるという時間のロスがない。

 予鈴まであと五分ほどという時間だ。二年生の教室がある二階への階段を上り始めると、教室へ入らずに喋っている生徒などの姿が増え始め、にわかに賑やかになる。

 しかし今日は、いつもと様子が違うように感じる。
 階段を上りきり二階に着くと、いつもと違う空気が満ちていた。女子も男子も数人で集まり、ひそひそと話したりテンション高くはしゃぐ者もいる。

 何かあったのかと思いつつも、大樹は人の隙間を縫って自分の教室へと向かう。
 教室のすぐ傍まで来ると、それまで数人ずつの人の集まりだったものは、壁となって大樹を阻んだ。
 教室へ入ろうと、声を掛けながら人垣を潜り抜ける。
 そこでようやく、何が起こっているのか大樹は知った。

「会長!?」

 二年四組の教室に向かって、廊下の窓際に背を預け腕組みをしながら立つ伊沢の姿があった。
 大樹の声に、伊沢が振り向いた。

「遅い!」
 大樹を目視して、伊沢が一喝した。
 つられて周りの生徒の視線も大樹に注がれる。

 何故遅刻したわけでもないのに遅いと怒られるのか、そもそも何故伊沢が大樹の教室前にいるのか、意味が分からずぽかんとする。

 伊沢は大樹に近づくと、左腕を掴んだ。
「え? え?」

 掴んだ腕を引っ張られたと思ったら、自分が来た方向へと体が動く。
 大樹の周囲は自然と人が避け、伊沢と大樹の通り道を作った。

 周りの生徒たちが呆然とした顔で、伊沢に引っ張られる大樹を見送る。その中に佐藤たちの姿も見えた。


 大股で闊歩する伊沢に手を引かれ、リュックも背負ったままで連れて行かれる。

 自分のクラスを教えたのは、つい金曜日のことだ。
 だが、会いたくて来てくれたというわけではなさそうだ。

 通りすがる生徒たちが皆、何事かという目で大樹たちを見る。
 ただでさえ注目される伊沢に手を引かれ連れ歩かれている様は、いったいどんな風に見えているのかと気になる。悪さをして生徒会長に連行されている生徒だと、思われているかもしれない。
 教室に戻ったら、クラスの連中に色々と追及されそうだと少し憂鬱になった。

 そして、予鈴が鳴った。それでも伊沢は立ち止まらない。

 遅いと言われたが、伊沢はいつから大樹を待っていたのだろう。
 自分の腕を掴んで引っ張る伊沢の背中を見た。

「もうすぐ授業始まりますけど、何か急ぎの用ですか?」
 周りに生徒の姿が少なくなってきてからようやく、大樹は訊ねた。
 わざわざ大樹の教室で待っていたのだから、何か用事があったはずだ。
「あんな所にいたら目立つんだから、用があるなら連絡くれれば良かったのに」

「知らない」
 そう返してから、伊沢は顔だけを振り向かせる。
「連絡先なんて、俺は知らない」

 伊沢の言葉に、そういえばみどりとしかメールのやり取りをしていなかったことを思い出す。
 頻繁に会っていただけであって、そもそもそんな関係でもなかったのだった。



 伊沢に引っ張られるまま連れて行かれたのは屋上だった。
 もうすぐ授業も始まるので、当然誰もいない。久しぶりの青空が広がるだけだ。

 屋上のドアを閉めた瞬間、伊沢が振り返る。
 今まで我慢していたのをようやく吐き出すように、大樹に言葉をぶつけてきた。

「姉さんに振られた!」
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