16 / 53
16.五回目②
しおりを挟む
みどりの発言が信じられず、大樹はただみどりを見返した。
先週の帰りにみどりから届いたメールを思い出す。
大樹が男役か女役かを訊ねたものだった。
単に興味があるだけかと大樹は軽く返事をし、みどりからも軽い返信が返ってきたので特に気にしていなかった。
「いつもイツキくんがするように普通にエッチしてくれたらいいわ。途中でそのポーズで止まってなんて言わないから大丈夫よ」
「で、でも、みどりさん。さすがにゲイでもない相手に、そんなことさせられないですよ」
ようやく焦って返事する。
「そんなのしちゃったら、レイプになっちゃいますって……」
フェラチオをさせる相手なら女でも良かったはずだが、みどりはゲイサイトの掲示板を利用した。
男とセックスさせることが、最終目的だったのではないだろうか。
みどりに垣間見える異常さを感じてはいたが、ここまでとは考えていなかった。
きっと、みどりは本気だ。
大樹の言葉に、ぷっとみどりが笑う。
「やだ、イツキくん。あおは男の子よ。女の子じゃあるまいし」
「男でも、無理矢理したらレイプですよ……」
「そうなの?」
みどりはきょとんと大樹を見てから、残念そうにスケッチブックを抱き締めた。
「てことは、合意だったらいいのよね」
みどりの視線が伊沢へと向く。大樹は一歩前に進み、伊沢の顔を横から窺った。
「あお、出来るわよね」
「………」
伊沢はみどりを凝視したまま黙っている。
いつもみどりにいいようにされている伊沢だが、本気で嫌な時はちゃんと嫌と言うはずだ。
むしろ、言えよと大樹は伊沢を睨んだ。
大樹が断るのでは意味がない。みどりは大樹を切り、別の男を呼ぶだけだ。だから、伊沢から断らなければ意味がない。
みどりが車椅子を動かし、ラグに乗り上げ伊沢に近づき微笑む。
「出来るわよね?」
「………」
黙り込んだままの伊沢に、早く断れよと大樹は心の中で舌打ちする。
だが、震える声で伊沢が漏らしたのは、何故か謝罪の言葉だった。
「……ご…めん。ごめん、姉さん……」
体を震わせながら、伊沢が声を絞り出す。
伊沢の言葉に、みどりは白けたような顔になる。しばらくして、小さく溜め息をついた。
「やるわよね。蒼一郎」
名を呼ばれ、伊沢の体がびくりと竦む。そこにいつもの明るい声色と親しげな愛称はなかった。
入っていけない空気に、大樹は黙って二人の様子を見ているしかない。
しばらくして、小さくこくりと伊沢が頷いた。
えっ、と大樹は声を上げそうになった。
伊沢がゆっくりと大樹の方を向く。
「……イツキ。た…頼む……」
そんな泣きそうな顔で声を震わせて何を言ってるんだと思った。
だが、もし大樹が断ったことで伊沢に降りかかるであろう災難を思うと、やるしかないのだとも思えた。
覚悟を決め、大樹は頷く。
「分かった。ちょっと待ってて」
大樹はダイニングテーブルの方へ行き、手提げバッグのポケットの中からコンドームを手にして戻る。
初日に、あわよくばと軽い気持ちで持ってきていたもので、忘れてそのまま入れっぱなしになっていた。まさか使う日が来るとは思わなかった。
大樹の持ってきたゴムを見て、さらに現実に打ちのめされたように伊沢が少しふらついた。
「用意がいいのね、イツキくん。まさかいつも持ち歩いているの?」
「まぁ、男の嗜みってやつです」
みどりの感嘆の言葉に、適当に返す。
「場所はどこにします? さすがにここじゃ狭いし。それに、潤滑剤代わりになるものがあるといいんですけど」
大樹はいつも伊沢が座るソファを見た。
いつものようにバスタオルが敷かれている。ゆったり深く腰掛けられるソファだが、セックスをするには狭い。
「ソファなら背凭れを倒すことができるわ。乳液でもいいかしら?」
みどりの言う通りに動かすと、ソファの背凭れが倒れベッドのようになる。その間に、みどりが自分の化粧ポーチを持ってきた。
「ソファが濡れそうなので、バスタオルも持ってきたけど」
「使わせてもらいます」
大樹はみどりからバスタオルと乳液のボトルを受け取り、ソファが汚れないようバスタオルを重ねて敷く。そして、伊沢を見た。
伊沢は震えた手でベルトを外そうとしているが、手に力が入らないようだ。顔も青ざめている。
そんなに怖いのに何故断らないんだと、言いたくなった。
みどりに弱みでも握られているとしか思えない。そうでなければ、こんなにも言いなりになるはずがない。
大樹はちらりとみどりに視線を送る。
みどりはいつものようにスケッチブックを広げ、絵を描く準備を始めていた。
先週の帰りにみどりから届いたメールを思い出す。
大樹が男役か女役かを訊ねたものだった。
単に興味があるだけかと大樹は軽く返事をし、みどりからも軽い返信が返ってきたので特に気にしていなかった。
「いつもイツキくんがするように普通にエッチしてくれたらいいわ。途中でそのポーズで止まってなんて言わないから大丈夫よ」
「で、でも、みどりさん。さすがにゲイでもない相手に、そんなことさせられないですよ」
ようやく焦って返事する。
「そんなのしちゃったら、レイプになっちゃいますって……」
フェラチオをさせる相手なら女でも良かったはずだが、みどりはゲイサイトの掲示板を利用した。
男とセックスさせることが、最終目的だったのではないだろうか。
みどりに垣間見える異常さを感じてはいたが、ここまでとは考えていなかった。
きっと、みどりは本気だ。
大樹の言葉に、ぷっとみどりが笑う。
「やだ、イツキくん。あおは男の子よ。女の子じゃあるまいし」
「男でも、無理矢理したらレイプですよ……」
「そうなの?」
みどりはきょとんと大樹を見てから、残念そうにスケッチブックを抱き締めた。
「てことは、合意だったらいいのよね」
みどりの視線が伊沢へと向く。大樹は一歩前に進み、伊沢の顔を横から窺った。
「あお、出来るわよね」
「………」
伊沢はみどりを凝視したまま黙っている。
いつもみどりにいいようにされている伊沢だが、本気で嫌な時はちゃんと嫌と言うはずだ。
むしろ、言えよと大樹は伊沢を睨んだ。
大樹が断るのでは意味がない。みどりは大樹を切り、別の男を呼ぶだけだ。だから、伊沢から断らなければ意味がない。
みどりが車椅子を動かし、ラグに乗り上げ伊沢に近づき微笑む。
「出来るわよね?」
「………」
黙り込んだままの伊沢に、早く断れよと大樹は心の中で舌打ちする。
だが、震える声で伊沢が漏らしたのは、何故か謝罪の言葉だった。
「……ご…めん。ごめん、姉さん……」
体を震わせながら、伊沢が声を絞り出す。
伊沢の言葉に、みどりは白けたような顔になる。しばらくして、小さく溜め息をついた。
「やるわよね。蒼一郎」
名を呼ばれ、伊沢の体がびくりと竦む。そこにいつもの明るい声色と親しげな愛称はなかった。
入っていけない空気に、大樹は黙って二人の様子を見ているしかない。
しばらくして、小さくこくりと伊沢が頷いた。
えっ、と大樹は声を上げそうになった。
伊沢がゆっくりと大樹の方を向く。
「……イツキ。た…頼む……」
そんな泣きそうな顔で声を震わせて何を言ってるんだと思った。
だが、もし大樹が断ったことで伊沢に降りかかるであろう災難を思うと、やるしかないのだとも思えた。
覚悟を決め、大樹は頷く。
「分かった。ちょっと待ってて」
大樹はダイニングテーブルの方へ行き、手提げバッグのポケットの中からコンドームを手にして戻る。
初日に、あわよくばと軽い気持ちで持ってきていたもので、忘れてそのまま入れっぱなしになっていた。まさか使う日が来るとは思わなかった。
大樹の持ってきたゴムを見て、さらに現実に打ちのめされたように伊沢が少しふらついた。
「用意がいいのね、イツキくん。まさかいつも持ち歩いているの?」
「まぁ、男の嗜みってやつです」
みどりの感嘆の言葉に、適当に返す。
「場所はどこにします? さすがにここじゃ狭いし。それに、潤滑剤代わりになるものがあるといいんですけど」
大樹はいつも伊沢が座るソファを見た。
いつものようにバスタオルが敷かれている。ゆったり深く腰掛けられるソファだが、セックスをするには狭い。
「ソファなら背凭れを倒すことができるわ。乳液でもいいかしら?」
みどりの言う通りに動かすと、ソファの背凭れが倒れベッドのようになる。その間に、みどりが自分の化粧ポーチを持ってきた。
「ソファが濡れそうなので、バスタオルも持ってきたけど」
「使わせてもらいます」
大樹はみどりからバスタオルと乳液のボトルを受け取り、ソファが汚れないようバスタオルを重ねて敷く。そして、伊沢を見た。
伊沢は震えた手でベルトを外そうとしているが、手に力が入らないようだ。顔も青ざめている。
そんなに怖いのに何故断らないんだと、言いたくなった。
みどりに弱みでも握られているとしか思えない。そうでなければ、こんなにも言いなりになるはずがない。
大樹はちらりとみどりに視線を送る。
みどりはいつものようにスケッチブックを広げ、絵を描く準備を始めていた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
逃げられない罠のように捕まえたい
アキナヌカ
BL
僕は岩崎裕介(いわさき ゆうすけ)には親友がいる、ちょっと特殊な遊びもする親友で西村鈴(にしむら りん)という名前だ。僕はまた鈴が頬を赤く腫らせているので、いつものことだなと思って、そんな鈴から誘われて僕は二人だけで楽しい遊びをする。
★★★このお話はBLです 裕介×鈴です ノンケ攻め 襲い受け リバなし 不定期更新です★★★
小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。
The officer: ~ラングレーの我儘な恋人~
蒼月さわ
BL
アメリカの諜報機関であるCIAに所属するオフィサー同士のラブストーリィです。
年下イケメン生意気部下×セクシィモデル 系金髪毒舌美形上司。
短いです。
あるミッションを無事に遂行させて帰ってきた生意気な部下に、毒舌美形でマゾ系上司がたっぷりと絡むお話。
Amazon kindleで個人配信中。
表紙イラストはおまぬ様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる