セマイセカイ

藤沢ひろみ

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1.訪問

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 大樹は携帯電話の地図表示を見ながら、住宅地を歩いていた。
 教えられた家は青い屋根と白い外壁が目印で、そろそろ見えてくるはずだ。

 夕方の七時半前、何故見知らぬ住宅地を目的の家を探して歩いているかというと、数日前に見たゲイの出会い系サイトの投稿がきっかけだった。


 大樹はゲイではない。
 女と付き合ったことはある。しかし、セックスを試したことがあるのはまだ男だけだった。

 年頃の男子として経験はしてみたいけれど、彼女がいるわけでもないのでできるはずもない。それで、顔が良ければ男でもイケるのではないだろうかと安易に考え、試してみたら意外にイケた。

 女に興味がないわけでもなく女とも付き合えるので、バイなのではないかと自分では思っている。
 見た目は悪くはない方だが、どこにでもいそうな普通さでモテることもなく、事実確認をする機会は未だにない。

 ゴールデンウイークの後半、暇を持て余した大樹は、時折利用する出会い系サイトを訪れた。
 そのサイトはゲイ専門で、今まで三回、そのサイトを通じて男と会いセックスをした。

 大樹は高校二年生だが、周りに同じような嗜好の男がいるはずもなく、セックスしたい相手を探すにはこういったサイトを利用するのが手っ取り早い。

 ゲイを選んだ理由も、単に女よりも安易にセックスができそうだというだけだった。女子と付き合ってもいないのに、そういう機会があるはずもない。それで試しに男に手を出した。

 出会い系サイトで恋人と出会いたいとは思っていないし、男の恋人を作ろうという気もない。
 見ず知らずの相手という不安もあるので、セックスがしたくなった時だけ、そういったサイトを利用するようになった。

 そのサイトの掲示板で見たのが、今日会う相手だ。


『弟(イケメン高校生)にフェラチオしてくれる人探しています。薄謝有。AO』

 何だそれ、と思わずにいられない投稿だったが、添付されていた絵に大樹は惹かれた。
 こういった掲示板では、皆自分の体の写真を撮って投稿しているのに、珍しくデッサンされた絵だった。首から腰までの上半身裸の絵だが、十分に大樹好みの細身の体形だということが分かった。

 弟のフェラチオ相手を探しているだなんて、どんな状況かと疑問だったが、場所が大樹の住むエリアに近いことや、イケメン高校生という言葉にも惹かれ、小遣い稼ぎのつもりで投稿者のAOに連絡を取った。

 そして、AOが自宅への訪問を希望した為、大樹はAOの自宅に向かっているというわけだ。

 大樹が高校生であることを伝えると、AOは生徒手帳を見せるようにと指示してきた。
 自宅を教えるわけなのでAOも不安なのだと察し、大樹は生徒手帳と制服を着た写真をAOに送った。それが西高校のものであることにAOは反応を良くし、翌日にはすぐAOとの約束が決まったのだった。



 大樹はようやく、AOに言われた通りの外観の一軒家を見つけた。
 表札には、IZAWAとローマ字で書かれていた。青い屋根に白い壁、そして門扉と玄関ドアの間のスロープの脇には、ピンクの小さな花が咲く植え込みがある。

 約束の時間には少し早いが、大樹は緊張の面持ちでインターホンのボタンを押した。
 見ず知らずの他人の家を訪問するのは緊張する。

「はい」
 しばらくして、男の声がインターホンから聞こえた。

「あの、イツキといいますが…」
 出会い系サイトで使っている名前を名乗る。

 お待ち下さいと返事があり、インターホンが途切れた。

 今のがAOの声だろうか。それとも弟だろうか。落ち着いたテノールの声だけでイケメンだと分かるような、いい声だ。
 まだ上半身裸の絵でしか知らないが、期待できそうだと大樹の胸が高鳴る。

 鍵を開ける音がしてゆっくりと玄関扉が開かれ、長身の男が姿を現した。
 少し襟ぐりの広い白のTシャツにベージュのスリムパンツというシンプルな格好にも関わらずそれだけでキマっているのは、その細身のスタイルや整った顔立ちのせいだ。

 さらさらの髪に、優しげな目元とすっと通った鼻に形の良い唇。
 遠くからしか見たことがない、憧れの人がすぐ目の前に立っていて、大樹は動揺しないでいられるはずもなかった。

「か、会長!?」

 思わず大樹が声を上げると、相手も驚く。
「え? うちの生徒?」
 目の前に立つ青年に向かって、口を開けたまま大樹は頷いた。
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