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第15章 南へ
第229話 対峙
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「何人くらいだ?」
「25人くらいいますね。大所帯ですけど、魔導士はいませんね。楽勝です」
アティアスが尋ねると、エミリスは軽く答えた。
それを聞いてウィルセアも胸を撫で下ろす。彼女さえいれば、仮に矢が降り注ごうとも、さしたる脅威ではないからだ。
「野盗の集団だろうな。追い払うにしても、それはそれで後が面倒だな」
「サクッとボスを痛めつけてあげれば帰るんじゃないですか?」
「だと良いがな」
どんな結果になるかはわからないが、話し合いで引くような相手ではないだろうから、何も起こらないということは考えにくい。
他国まで来て面倒ごとに巻き込まれるのは本意ではないものの、降りかかる火の粉は払わねばならない。
何か動物に乗っているのだろう。
人の足音ではなく、もっと大きなものが砂を踏む音が複数、近づいてくる。
ギリギリ声が届くほどの距離だろうか。
足音が止まる。
様子を窺っているのだろうか。
アティアスからは暗くて姿は見えなかった。
「エミーは見えるか?」
「もちろんはっきりと。皆、足の短い馬に乗ってます。リーダーっぽい人は若いですけど、あとは結構良い歳みたいですね」
彼女がぐるっと見渡すように見ている感じから、広く取り囲まれているのだろう。
もっとも、この距離ならばアティアスにも気配はわかるから、何となくその感じはわかっていた。
「面倒ですし、さっさと仕留めちゃいますか?」
「こらこら、用件もわからないうちに攻撃するわけにはいかんだろ」
「えー、わかりきってますよ。ヘンテコな曲がった剣みたいなの持ってますし。弓構えてる人もいるし、明らかにこっち狙ってますって」
「それでも、だ。話が通じるかもしれんだろ?」
「ですかねぇ……?」
エミリスは半信半疑で首を傾げる。
アティアスの言っていることも理解はできるが、正直早く夕食を食べて寝たいのが本音だった。
と――。
「――見慣れない格好だな。お前ら、ここらの人間じゃないな?」
突然、正面から声が聞こえてきた。
テントの近くは魔法で灯りを灯していたこともあり、向こうからはこちらがよく見えるのだろう。
アティアスが答える。
「それはその通りだが、何の用だ? お前たちの縄張りか?」
「そうだ。命までは取らぬ。有り金置いていくがいい」
「断るとどうなる?」
エミリスの話の通りなら、このあと矢が飛んでくるのだろう。
もちろん、彼女がそれを許すわけはないだろうが。
「殺してからゆっくり見ぐるみ剥がすさ。……おっと、よく見れば女は上玉だな。売れば良い金になりそうだ」
下卑た言葉を耳にして、ウィルセアはふたりの後ろで嫌悪を顔に滲ませる。
幸いにして、これまでそういうことに自分は縁がなかったけれど、慕うエミリスがかつて奴隷だったことは知っていて、話も聞いていた。
こういうところから攫われた女性や子供が裏市場に流れるのだろう。
「アティアス様、私の言った通りじゃないですか。もう全員殺してしまっても構いませんよね……?」
ふと、エミリスがそれまでと打って変わって低い声を響かせる。
男の言葉が気に障ったのだろうか。
しかし、野盗の集団とはいえ、他国で大きな揉めごとは避けたいのが本音だ。
仮に自国であっても、皆殺しにするわけにはいかず、捕らえて処罰する必要があった。
「殺すのはダメだ。……それ以外なら許可する」
「……承知しました」
それは殺さなければ何をやっても良いという意味と捉えたエミリスは、スッと目を細める。
そしてゆっくりと3歩前に歩み出て、剣を抜いた。
すぐにうっすらと光り始めたブルー鋼の剣が、暗いなかで存在感を放つ。
「……アティアス様が出るまでもありません。私が遊んであげましょう」
自信たっぷりにエミリスは言い放った。
(むしろ一番ヤバいのはエミーなんだけどな……)
アティアスはそう頭の中で呟くが、もちろん口にはしない。
彼からは見えないが、エミリスの目からははっきりと見えていたリーダー格の男が彼女を見て大声で笑った。
「はははっ!! 面白いことを言うな、女。その細腕で何ができるって言うんだ」
「……貴方の首を刎ねるくらいなら簡単に」
しかし全く動じずにエミリスは自信満々に答える。
それが気に障ったのだろう。
男が声のトーンを下げた。
「いい度胸だ。全員蜂の巣にすることもできるが、それでは面白くない。俺が相手してやる。……お前ら、見張っとけ」
そう言うと、暗闇から足音だけが聞こえてきて、やがて男はうっすらと明かりに照らされる。
かなり体格は良いようだ。
アティアスに比べても筋肉質で、日に焼けた肌は濃い。
上半身はほとんど裸で、要所要所に簡単な防具を身に付けている程度。
そして、幅の広い独特の湾曲した剣を片手に持っていた。
「ふふ。殺すなと言われておりますので、せいぜいうまく避けてくださいね」
「ほざけ。すぐに泣き喚くことになるぞ」
「貴方が、ですかね? 話はもういいので、さっさと終わらせましょうか」
虚勢だけかと思ったが、近づいても怯む様子もないエミリスに、男は訝しむ。
(それともただのバカか……?)
とはいえ、よほど剣に自信がないとこんな態度は取れないだろうとも考えた。
となるとそれなりの訓練を受けているのかもしれないと用心する。
それに――。
(あの剣はなんだ? 見たこともない……)
光る剣など聞いたこともない。
なんらかの魔法かと思ったが、そんな素振りもなく、疑問は増すばかりだ。
しかし、用心するに越したことはないと、男は剣を上段に構えた。
「25人くらいいますね。大所帯ですけど、魔導士はいませんね。楽勝です」
アティアスが尋ねると、エミリスは軽く答えた。
それを聞いてウィルセアも胸を撫で下ろす。彼女さえいれば、仮に矢が降り注ごうとも、さしたる脅威ではないからだ。
「野盗の集団だろうな。追い払うにしても、それはそれで後が面倒だな」
「サクッとボスを痛めつけてあげれば帰るんじゃないですか?」
「だと良いがな」
どんな結果になるかはわからないが、話し合いで引くような相手ではないだろうから、何も起こらないということは考えにくい。
他国まで来て面倒ごとに巻き込まれるのは本意ではないものの、降りかかる火の粉は払わねばならない。
何か動物に乗っているのだろう。
人の足音ではなく、もっと大きなものが砂を踏む音が複数、近づいてくる。
ギリギリ声が届くほどの距離だろうか。
足音が止まる。
様子を窺っているのだろうか。
アティアスからは暗くて姿は見えなかった。
「エミーは見えるか?」
「もちろんはっきりと。皆、足の短い馬に乗ってます。リーダーっぽい人は若いですけど、あとは結構良い歳みたいですね」
彼女がぐるっと見渡すように見ている感じから、広く取り囲まれているのだろう。
もっとも、この距離ならばアティアスにも気配はわかるから、何となくその感じはわかっていた。
「面倒ですし、さっさと仕留めちゃいますか?」
「こらこら、用件もわからないうちに攻撃するわけにはいかんだろ」
「えー、わかりきってますよ。ヘンテコな曲がった剣みたいなの持ってますし。弓構えてる人もいるし、明らかにこっち狙ってますって」
「それでも、だ。話が通じるかもしれんだろ?」
「ですかねぇ……?」
エミリスは半信半疑で首を傾げる。
アティアスの言っていることも理解はできるが、正直早く夕食を食べて寝たいのが本音だった。
と――。
「――見慣れない格好だな。お前ら、ここらの人間じゃないな?」
突然、正面から声が聞こえてきた。
テントの近くは魔法で灯りを灯していたこともあり、向こうからはこちらがよく見えるのだろう。
アティアスが答える。
「それはその通りだが、何の用だ? お前たちの縄張りか?」
「そうだ。命までは取らぬ。有り金置いていくがいい」
「断るとどうなる?」
エミリスの話の通りなら、このあと矢が飛んでくるのだろう。
もちろん、彼女がそれを許すわけはないだろうが。
「殺してからゆっくり見ぐるみ剥がすさ。……おっと、よく見れば女は上玉だな。売れば良い金になりそうだ」
下卑た言葉を耳にして、ウィルセアはふたりの後ろで嫌悪を顔に滲ませる。
幸いにして、これまでそういうことに自分は縁がなかったけれど、慕うエミリスがかつて奴隷だったことは知っていて、話も聞いていた。
こういうところから攫われた女性や子供が裏市場に流れるのだろう。
「アティアス様、私の言った通りじゃないですか。もう全員殺してしまっても構いませんよね……?」
ふと、エミリスがそれまでと打って変わって低い声を響かせる。
男の言葉が気に障ったのだろうか。
しかし、野盗の集団とはいえ、他国で大きな揉めごとは避けたいのが本音だ。
仮に自国であっても、皆殺しにするわけにはいかず、捕らえて処罰する必要があった。
「殺すのはダメだ。……それ以外なら許可する」
「……承知しました」
それは殺さなければ何をやっても良いという意味と捉えたエミリスは、スッと目を細める。
そしてゆっくりと3歩前に歩み出て、剣を抜いた。
すぐにうっすらと光り始めたブルー鋼の剣が、暗いなかで存在感を放つ。
「……アティアス様が出るまでもありません。私が遊んであげましょう」
自信たっぷりにエミリスは言い放った。
(むしろ一番ヤバいのはエミーなんだけどな……)
アティアスはそう頭の中で呟くが、もちろん口にはしない。
彼からは見えないが、エミリスの目からははっきりと見えていたリーダー格の男が彼女を見て大声で笑った。
「はははっ!! 面白いことを言うな、女。その細腕で何ができるって言うんだ」
「……貴方の首を刎ねるくらいなら簡単に」
しかし全く動じずにエミリスは自信満々に答える。
それが気に障ったのだろう。
男が声のトーンを下げた。
「いい度胸だ。全員蜂の巣にすることもできるが、それでは面白くない。俺が相手してやる。……お前ら、見張っとけ」
そう言うと、暗闇から足音だけが聞こえてきて、やがて男はうっすらと明かりに照らされる。
かなり体格は良いようだ。
アティアスに比べても筋肉質で、日に焼けた肌は濃い。
上半身はほとんど裸で、要所要所に簡単な防具を身に付けている程度。
そして、幅の広い独特の湾曲した剣を片手に持っていた。
「ふふ。殺すなと言われておりますので、せいぜいうまく避けてくださいね」
「ほざけ。すぐに泣き喚くことになるぞ」
「貴方が、ですかね? 話はもういいので、さっさと終わらせましょうか」
虚勢だけかと思ったが、近づいても怯む様子もないエミリスに、男は訝しむ。
(それともただのバカか……?)
とはいえ、よほど剣に自信がないとこんな態度は取れないだろうとも考えた。
となるとそれなりの訓練を受けているのかもしれないと用心する。
それに――。
(あの剣はなんだ? 見たこともない……)
光る剣など聞いたこともない。
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