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第15章 南へ
第228話 更に南へ
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それから数日、港町フェルトンに滞在したあと、内陸の街に向かうこととした。
ここグリマルトは、アティアスたちが暮らすエルドニアに比べると街道の整備が遅れているようだ。
それに砂漠がちな土地柄のせいもあるのだろうか、昼夜の気温差があることで、ほとんど馬車は走っていない。
小回りの効く、ごく小さな馬車が時折走っている以外は、皆は乾燥に強い動物の背中に乗って移動しているようだ。
アティアスたちはここでも徒歩での移動を選択する。
それなりの水や食料を常備していることと、最悪の事態となればエミリスに運んでもらうというエスケープ手段があるからだ。
「……にしても、アッツイですねぇ」
エミリスは大きな荷物を背負ったまま、うんざりとした顔で呟く。
暑さの苦手な彼女は、魔法で生み出した氷の塊を麻布に包んで首筋に当てて涼を取ってはいたものの、日差しのキツさに天を仰ぐ。ちょうど今は真上から日光が降り注いでいて、つまり真っ昼間ということだ。
「昼間はそうだけど、夜は冬みたいに冷えるんだよな」
「うへぇ……。体調崩してしまいそうです……」
「本当にそうですわね。次の町まで2日くらいあるんでしたっけ?」
汗まみれになったウィルセアも眩しい日差しに目を細める。
「ああ。途中に宿場町もないから、野営だな」
「歩いてる人なんて、他にいませんね……」
そうだった。
フェルトンを出発してから半日。
ただのひとりとすら、徒歩の者と出会ってはいなかった。
道路環境の悪さに加えて、途中に水や食料の調達場所がないことが、徒歩の者がこの道を嫌厭する大きな理由なのだろう。
聞けば、海沿いのルートから遠回りすることで同じ目的地に行くことができるようで、一般的にはそちらのルートが選択されるようだった。
「まぁ、エミーがいれば困らないだろうしな。それに今から向かうナックリンは遺跡の町で有名だし、早く見てみたい」
「それはわかりますけど、正直暑すぎて。夜歩いたほうがマシじゃないですか?」
「夜は夜で、山賊とか出るみたいだからなぁ……」
「それ、別に歩いてても野営してても一緒じゃないですか。むしろ歩いてるときのが、対処がめんどくないですー」
ふらふらと歩きながら、エミリスはブツブツと愚痴を溢した。
普段と違い、こういう暑いときの彼女は面倒なことを嫌う。
少しでも動きたくないという思いが節々から感じ取れた。
「まぁそれはそうかもしれないな。でも真っ昼間にテント張って寝るのもなぁ……。氷が切れたらサウナだし」
「ううむ……。それも嫌ですねぇ……」
その光景を想像する。
氷のクーラーが効いているうちは良いだろうが、すぐに溶けてしまうこの気温では、テントの中が暑くなる度に何度も起きて氷を作り直さないといけないだろう。
「ま、ゆっくり歩いてたらそのうち着くだろ。本当に無理なら飛んでいけばいいさ」
「でも何日もコレじゃ、我慢できる気がしませんけどね、私……」
半日で早くも心が折れそうになったエミリスは、溶けて小さくなった氷を新しく作り直して、ひんやりとしたその表面に頬ずりした。
◆
「って、本当に夜は寒いですわね」
テントを張って、その外で夕食の準備をしているとき、ウィルセアが肩を抱いて身震いした。
港町にいるときは海風のせいかほとんど感じなかったけれど、周囲に森がほとんどないこの土地では、日が落ちた途端、真冬のように感じるほど夜は冷え込んできた。
それを見越して厚手の服を羽織っていたけれども、それでも昼間の暑さの反動もあってか、追いつかないほどだ。
「身体は昼間の暑さに慣れてるからな。実際、気温そのものはそこまでじゃないんだが」
「私としては、このくらいのほうが良いですー」
涼しくなって、息を吹き返したように元気になったエミリスが笑顔を見せた。
薪も手に入りにくいここでは、アティアスが魔法で火を熾して暖を取る。
「ま、疲れもあるだろうから、早く食べて寝るようにしよう」
「わかりましたわ」
ウィルセアはお湯で柔らかくした干し肉を刻んで簡易食を作り始める。
こんな暑い場所ではどうしても保存食に頼るしかない。
そう言う意味では、米と塩があれば、後は水を魔法で作ればとりあえずはなんとかなるが、それだけではあまりにも味気ないことから多少の料理は作るようにしていた。
と――。
「にゃにゃっ!?」
突然何かに気づいたエミリスが、驚いた声を上げて飛び上がった。
それと同時に「ボン!」という小さな音が近くで弾けた。
「――ど、どうしたっ!?」
「エミリスさん!?」
慌てたふたりが声を掛けた。
ウィルセアが手にしていた料理が地面に落ちてしまったけれども、それどころではない雰囲気に思えた。
一方、じっと爆発音のあった辺りの地面を見つめていたエミリスは、しばらくして地面に降り立つ。
「ふぅ……。なんか動くものがあると思って」
そう言いながら手を翳すと、黒焦げになった紐のようなものが彼女の目の前にフワフワと浮かぶ。
灯りではっきりと見えたそれは――。
「ヘビ……ですね」
「みたいだな。そういや、毒蛇がよく出るって聞いたことがあるな」
それは片腕ほどの長さのヘビだった。
ヘビの種類には明るくないから、それが毒蛇なのかどうかはわからない。
しかし、もしそうであったならば、非常に危険だと言えた。
「……嫌ですねぇ。毒は魔法でもそう簡単に治せませんから」
エミリスの言う通り、怪我は魔法で治癒力を高めることで治すことができるけれども、毒は一度体内に入ってしまったら無効化することは難しい。
そういう意味では、非常に危険なものだ。
「だな。すまんが周りの警戒を頼む」
「ですね。……ただ、早くも今度は別の来客があるみたいですけれども」
黒焦げのヘビを遠く離れた地面に吹き飛ばしながら、エミリスは大きなため息をついた。
ここグリマルトは、アティアスたちが暮らすエルドニアに比べると街道の整備が遅れているようだ。
それに砂漠がちな土地柄のせいもあるのだろうか、昼夜の気温差があることで、ほとんど馬車は走っていない。
小回りの効く、ごく小さな馬車が時折走っている以外は、皆は乾燥に強い動物の背中に乗って移動しているようだ。
アティアスたちはここでも徒歩での移動を選択する。
それなりの水や食料を常備していることと、最悪の事態となればエミリスに運んでもらうというエスケープ手段があるからだ。
「……にしても、アッツイですねぇ」
エミリスは大きな荷物を背負ったまま、うんざりとした顔で呟く。
暑さの苦手な彼女は、魔法で生み出した氷の塊を麻布に包んで首筋に当てて涼を取ってはいたものの、日差しのキツさに天を仰ぐ。ちょうど今は真上から日光が降り注いでいて、つまり真っ昼間ということだ。
「昼間はそうだけど、夜は冬みたいに冷えるんだよな」
「うへぇ……。体調崩してしまいそうです……」
「本当にそうですわね。次の町まで2日くらいあるんでしたっけ?」
汗まみれになったウィルセアも眩しい日差しに目を細める。
「ああ。途中に宿場町もないから、野営だな」
「歩いてる人なんて、他にいませんね……」
そうだった。
フェルトンを出発してから半日。
ただのひとりとすら、徒歩の者と出会ってはいなかった。
道路環境の悪さに加えて、途中に水や食料の調達場所がないことが、徒歩の者がこの道を嫌厭する大きな理由なのだろう。
聞けば、海沿いのルートから遠回りすることで同じ目的地に行くことができるようで、一般的にはそちらのルートが選択されるようだった。
「まぁ、エミーがいれば困らないだろうしな。それに今から向かうナックリンは遺跡の町で有名だし、早く見てみたい」
「それはわかりますけど、正直暑すぎて。夜歩いたほうがマシじゃないですか?」
「夜は夜で、山賊とか出るみたいだからなぁ……」
「それ、別に歩いてても野営してても一緒じゃないですか。むしろ歩いてるときのが、対処がめんどくないですー」
ふらふらと歩きながら、エミリスはブツブツと愚痴を溢した。
普段と違い、こういう暑いときの彼女は面倒なことを嫌う。
少しでも動きたくないという思いが節々から感じ取れた。
「まぁそれはそうかもしれないな。でも真っ昼間にテント張って寝るのもなぁ……。氷が切れたらサウナだし」
「ううむ……。それも嫌ですねぇ……」
その光景を想像する。
氷のクーラーが効いているうちは良いだろうが、すぐに溶けてしまうこの気温では、テントの中が暑くなる度に何度も起きて氷を作り直さないといけないだろう。
「ま、ゆっくり歩いてたらそのうち着くだろ。本当に無理なら飛んでいけばいいさ」
「でも何日もコレじゃ、我慢できる気がしませんけどね、私……」
半日で早くも心が折れそうになったエミリスは、溶けて小さくなった氷を新しく作り直して、ひんやりとしたその表面に頬ずりした。
◆
「って、本当に夜は寒いですわね」
テントを張って、その外で夕食の準備をしているとき、ウィルセアが肩を抱いて身震いした。
港町にいるときは海風のせいかほとんど感じなかったけれど、周囲に森がほとんどないこの土地では、日が落ちた途端、真冬のように感じるほど夜は冷え込んできた。
それを見越して厚手の服を羽織っていたけれども、それでも昼間の暑さの反動もあってか、追いつかないほどだ。
「身体は昼間の暑さに慣れてるからな。実際、気温そのものはそこまでじゃないんだが」
「私としては、このくらいのほうが良いですー」
涼しくなって、息を吹き返したように元気になったエミリスが笑顔を見せた。
薪も手に入りにくいここでは、アティアスが魔法で火を熾して暖を取る。
「ま、疲れもあるだろうから、早く食べて寝るようにしよう」
「わかりましたわ」
ウィルセアはお湯で柔らかくした干し肉を刻んで簡易食を作り始める。
こんな暑い場所ではどうしても保存食に頼るしかない。
そう言う意味では、米と塩があれば、後は水を魔法で作ればとりあえずはなんとかなるが、それだけではあまりにも味気ないことから多少の料理は作るようにしていた。
と――。
「にゃにゃっ!?」
突然何かに気づいたエミリスが、驚いた声を上げて飛び上がった。
それと同時に「ボン!」という小さな音が近くで弾けた。
「――ど、どうしたっ!?」
「エミリスさん!?」
慌てたふたりが声を掛けた。
ウィルセアが手にしていた料理が地面に落ちてしまったけれども、それどころではない雰囲気に思えた。
一方、じっと爆発音のあった辺りの地面を見つめていたエミリスは、しばらくして地面に降り立つ。
「ふぅ……。なんか動くものがあると思って」
そう言いながら手を翳すと、黒焦げになった紐のようなものが彼女の目の前にフワフワと浮かぶ。
灯りではっきりと見えたそれは――。
「ヘビ……ですね」
「みたいだな。そういや、毒蛇がよく出るって聞いたことがあるな」
それは片腕ほどの長さのヘビだった。
ヘビの種類には明るくないから、それが毒蛇なのかどうかはわからない。
しかし、もしそうであったならば、非常に危険だと言えた。
「……嫌ですねぇ。毒は魔法でもそう簡単に治せませんから」
エミリスの言う通り、怪我は魔法で治癒力を高めることで治すことができるけれども、毒は一度体内に入ってしまったら無効化することは難しい。
そういう意味では、非常に危険なものだ。
「だな。すまんが周りの警戒を頼む」
「ですね。……ただ、早くも今度は別の来客があるみたいですけれども」
黒焦げのヘビを遠く離れた地面に吹き飛ばしながら、エミリスは大きなため息をついた。
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