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第15章 南へ
第214話 野営の夜
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ウィルセアに手伝ってもらいながら、アティアスがテントを張っている間に、エミリスは荷物から調理器具と食材を取り出して料理の準備を始めた。
といっても、まだ夏が終わったばかりで気温が高いから、ベーコンなどの保存の効くものと多少の野菜類。それに加えて乾燥させたキノコなどが主な食材だ。
テントの設営が終わると、ウィルセアはエミリスの手伝いに入る。
そしてアティアスは焚き火用として、河原に落ちている枯れ木を集めていく。
「ウィルセアさん、私ご飯炊きます。野菜のカットを」
「わかりました」
毎日一緒に家事をしているふたりだから、メニューさえわかれば、ざっとした指示だけで大抵のことは伝わる。
アティアスが薪を手に戻ってきた頃には、下ごしらえは概ね終わっていた。
「――炎よ」
薪を並べると、ウィルセアがさっと魔法で火を点ける。
そしてすぐにエミリスがその火で調理を始めた。
この日は簡単な炒め物と野菜のスープだ。
アティアスがテントの中に寝袋をセットしている間には、料理は出来上がっていた。
「お待たせしました」
「さすが早いな。全然待ってないぞ?」
「まー、こんなところでできる料理は限られてますからね」
ウィルセアが手にした食器に料理を分けながら、エミリスが答える。
こういう場では凝った料理はできないから、スピード重視だ。
「そうだな。前の旅の時もそんな感じだったな。……懐かしいよ」
「ですね。ウィルセアさんは初めてでしょうけど、こんな感じで結構テキトーです」
「野営って初めてで新鮮な感じですわ。お風呂に入れないのはちょっと辛いですけど……」
ウィルセアは体の匂いが気になるのか、服をくんくんと嗅いでいた。
しかも、このあと同じテントで3人並んで寝るのだからなおさらだ。
「だいぶ汗をかきましたしね……。私の初めての時は、もっと寒かったんですけど」
その頃はまだ春先で、日中も汗が出るほど暑くなかったことを思えば、明らかに今のほうが暑い。
年頃の女の子ということもあり、気になるのは当然のことだろう。
「こればっかりは仕方ないですわ。……虫が来ないだけでありがたいと思うことにします」
ウィルセアは周りを見渡す。
虫が多い季節ではあるが、それを好まないエミリスが壁を張って、近づけなくしていた。
もちろん、人や獣も近づけない。
それに、ある程度の大きさがあるものは、エミリスの探知範囲に入っただけで存在がわかるから、野営と言えども危険はほぼ無いに等しい。
そんなウィルセアに、エミリスは軽い調子で尋ねた。
「んー、お風呂くらいなら入れますけど、どうします?」
「え? そんなことできるのですか?」
「ええ、簡単です」
なんでもないことのように頷いたエミリスに、ウィルセアは力強く「お願いしますわ!」と答えた。
◆
「――って、ここでですかっ⁉︎」
食後、テントから少し離れた河原で、唐突にエミリスから服を脱ぐように言われたウィルセアは、顔を真っ赤にして声を上げた。
「だいじょーぶですよ。近くには誰もいませんから。アティアス様はテントの中ですし。……あ、それともアティアス様に見ていて欲しいとか、ですか?」
「そ、そういう問題じゃ……ないと……」
人がいるいないに関わらず、こんな何もない野外で素っ裸になるというのは、どう考えても恥ずかしすぎた。
もちろん、エミリスの探知は信用していたけれども……。
「んー、それじゃそのまま寝ます……? 私は構わないですけど……」
「……それも嫌です……。せ、せめてエミリスさんも一緒に……」
汗臭いままアティアスと同じテントで寝るのはもっと嫌だった。
ただ、せめて自分だけではなく、エミリスも道連れにと懇願する。
「むー、私はアティアス様と一緒の方がいいなぁって……」
エミリスとしては、同じことをアティアスにもするつもりだったから、その時で良いかと思っていた。
だから先にウィルセアひとりにしたのだ。
「うう……」
ウィルセアは周囲を見渡す。
いくら周りが薄暗いとはいえ、開放感に溢れすぎていた。
なかなか決断できないウィルセアに、痺れを切らしてエミリスは言った。
「わかりました。……私が脱がせてあげますね」
「えっ……!?」
痺れを切らしたエミリスの台詞に、ウィルセアは目が点になった。
「ふふふ……」
そして、不気味な笑みを浮かべつつ、ウィルセアの着ていた服を強引に脱がせようと魔力を操る。
「ちょ、ちょっと――待ってくださいっ! あーっ!」
ウィルセアは必死に抵抗しようとするが、つかみどころのない魔力には抗えず、するすると服が脱がされていく。
主を失った服は、空中で綺麗に折りたたまれて、エミリスの近くに積み上げられる。
「ひゃあっ! ダメっ! ほんとに待って!」
あっという間に下着一枚を残して肌を露わにさせられたウィルセアは、体を隠すように地面にしゃがみこんだ。
「……さてと」
その光景にエミリスは満足げに頷きながら、ウィルセアをふわりと空中に浮かせると、最後に残った下着もするっと剥ぎ取ってしまう。
「ああああ……!」
浮かべられて自由も効かない。
手で大事なところを隠すことしかできないウィルセアを見ながら、エミリスは新たに魔力を練る。
「……水よ」
川の水でも良かったが、魔力で発生させた水の大きな塊が丸くなって、エミリスのすぐ目の前にゆらゆらと漂う。
それは大きな湯船いっぱいに張ったほどの水量があるだろうか。
そしてその塊に片手を突っ込み、お湯に変えていく。
「んーと、湯加減はこんなものでしょうか。……入っていいですよ」
ウィルセアに声をかけつつも、しかし自分では身動きのできない彼女を、エミリスは無理矢理その水の塊の中に突っ込んだ。
「――わきゃっ!」
一瞬、驚きの声を上げる。
お湯の中から必死に頭だけを出したウィルセアは、あたかもスライムに飲み込まれたかのように見える。
水の表面がゆらゆらと歪んでいて、中はほとんど見えない。
「どーです? このお風呂」
「確かに……お風呂ですけど……。せめて事前に説明が欲しかったです……」
エミリスが問いかけると、少し落ち着いたのか、恨めしそうな顔でウィルセアはそう答えた。
といっても、まだ夏が終わったばかりで気温が高いから、ベーコンなどの保存の効くものと多少の野菜類。それに加えて乾燥させたキノコなどが主な食材だ。
テントの設営が終わると、ウィルセアはエミリスの手伝いに入る。
そしてアティアスは焚き火用として、河原に落ちている枯れ木を集めていく。
「ウィルセアさん、私ご飯炊きます。野菜のカットを」
「わかりました」
毎日一緒に家事をしているふたりだから、メニューさえわかれば、ざっとした指示だけで大抵のことは伝わる。
アティアスが薪を手に戻ってきた頃には、下ごしらえは概ね終わっていた。
「――炎よ」
薪を並べると、ウィルセアがさっと魔法で火を点ける。
そしてすぐにエミリスがその火で調理を始めた。
この日は簡単な炒め物と野菜のスープだ。
アティアスがテントの中に寝袋をセットしている間には、料理は出来上がっていた。
「お待たせしました」
「さすが早いな。全然待ってないぞ?」
「まー、こんなところでできる料理は限られてますからね」
ウィルセアが手にした食器に料理を分けながら、エミリスが答える。
こういう場では凝った料理はできないから、スピード重視だ。
「そうだな。前の旅の時もそんな感じだったな。……懐かしいよ」
「ですね。ウィルセアさんは初めてでしょうけど、こんな感じで結構テキトーです」
「野営って初めてで新鮮な感じですわ。お風呂に入れないのはちょっと辛いですけど……」
ウィルセアは体の匂いが気になるのか、服をくんくんと嗅いでいた。
しかも、このあと同じテントで3人並んで寝るのだからなおさらだ。
「だいぶ汗をかきましたしね……。私の初めての時は、もっと寒かったんですけど」
その頃はまだ春先で、日中も汗が出るほど暑くなかったことを思えば、明らかに今のほうが暑い。
年頃の女の子ということもあり、気になるのは当然のことだろう。
「こればっかりは仕方ないですわ。……虫が来ないだけでありがたいと思うことにします」
ウィルセアは周りを見渡す。
虫が多い季節ではあるが、それを好まないエミリスが壁を張って、近づけなくしていた。
もちろん、人や獣も近づけない。
それに、ある程度の大きさがあるものは、エミリスの探知範囲に入っただけで存在がわかるから、野営と言えども危険はほぼ無いに等しい。
そんなウィルセアに、エミリスは軽い調子で尋ねた。
「んー、お風呂くらいなら入れますけど、どうします?」
「え? そんなことできるのですか?」
「ええ、簡単です」
なんでもないことのように頷いたエミリスに、ウィルセアは力強く「お願いしますわ!」と答えた。
◆
「――って、ここでですかっ⁉︎」
食後、テントから少し離れた河原で、唐突にエミリスから服を脱ぐように言われたウィルセアは、顔を真っ赤にして声を上げた。
「だいじょーぶですよ。近くには誰もいませんから。アティアス様はテントの中ですし。……あ、それともアティアス様に見ていて欲しいとか、ですか?」
「そ、そういう問題じゃ……ないと……」
人がいるいないに関わらず、こんな何もない野外で素っ裸になるというのは、どう考えても恥ずかしすぎた。
もちろん、エミリスの探知は信用していたけれども……。
「んー、それじゃそのまま寝ます……? 私は構わないですけど……」
「……それも嫌です……。せ、せめてエミリスさんも一緒に……」
汗臭いままアティアスと同じテントで寝るのはもっと嫌だった。
ただ、せめて自分だけではなく、エミリスも道連れにと懇願する。
「むー、私はアティアス様と一緒の方がいいなぁって……」
エミリスとしては、同じことをアティアスにもするつもりだったから、その時で良いかと思っていた。
だから先にウィルセアひとりにしたのだ。
「うう……」
ウィルセアは周囲を見渡す。
いくら周りが薄暗いとはいえ、開放感に溢れすぎていた。
なかなか決断できないウィルセアに、痺れを切らしてエミリスは言った。
「わかりました。……私が脱がせてあげますね」
「えっ……!?」
痺れを切らしたエミリスの台詞に、ウィルセアは目が点になった。
「ふふふ……」
そして、不気味な笑みを浮かべつつ、ウィルセアの着ていた服を強引に脱がせようと魔力を操る。
「ちょ、ちょっと――待ってくださいっ! あーっ!」
ウィルセアは必死に抵抗しようとするが、つかみどころのない魔力には抗えず、するすると服が脱がされていく。
主を失った服は、空中で綺麗に折りたたまれて、エミリスの近くに積み上げられる。
「ひゃあっ! ダメっ! ほんとに待って!」
あっという間に下着一枚を残して肌を露わにさせられたウィルセアは、体を隠すように地面にしゃがみこんだ。
「……さてと」
その光景にエミリスは満足げに頷きながら、ウィルセアをふわりと空中に浮かせると、最後に残った下着もするっと剥ぎ取ってしまう。
「ああああ……!」
浮かべられて自由も効かない。
手で大事なところを隠すことしかできないウィルセアを見ながら、エミリスは新たに魔力を練る。
「……水よ」
川の水でも良かったが、魔力で発生させた水の大きな塊が丸くなって、エミリスのすぐ目の前にゆらゆらと漂う。
それは大きな湯船いっぱいに張ったほどの水量があるだろうか。
そしてその塊に片手を突っ込み、お湯に変えていく。
「んーと、湯加減はこんなものでしょうか。……入っていいですよ」
ウィルセアに声をかけつつも、しかし自分では身動きのできない彼女を、エミリスは無理矢理その水の塊の中に突っ込んだ。
「――わきゃっ!」
一瞬、驚きの声を上げる。
お湯の中から必死に頭だけを出したウィルセアは、あたかもスライムに飲み込まれたかのように見える。
水の表面がゆらゆらと歪んでいて、中はほとんど見えない。
「どーです? このお風呂」
「確かに……お風呂ですけど……。せめて事前に説明が欲しかったです……」
エミリスが問いかけると、少し落ち着いたのか、恨めしそうな顔でウィルセアはそう答えた。
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