209 / 254
第14章 羨望
第203話 ……ふにゅぅ。
しおりを挟むギャバナに在籍している十一名の勇者のうちの一人、マコトの用向きは彼の上司である第二王子からの夕食のお誘いであった。
呼ばれたのはわたし。リリア姫と使節団の一行は日を改めて正式に招待するという。
こちらとしても、ちょっと言いたいことがあったので応じることにした。
で、宿舎のみんなにことわりを入れてから、早速ついて行く。
案内されたのは先日、豪遊したあのレストランだった。
王子の賓客ということもあってわざわざ出迎えにきたオーナー。
わたしの顔を見るなりギョとなるも、気にしない。
レストランでも一番高いグレードの個室へと案内される。
そこで待っていたのは、黒髪黒目の東洋人っぽい見た目の長身の青年。
細目にて、にこにこと微笑みが顔に張りついているけれども、その奥はちっとも笑っていない。こちらを値踏みするかのような鋭い視線が潜んでいる。
彼こそが大国の第二王子ライト・ル・ギャバナ。
個人的な印象は法の合間をぬって荒稼ぎしているブラック企業の若社長か、マフィアのやり手幹部といったところ。ちょいと堅気には見えない。
初対面時に、そんな本音がついお口からポロリしてしまったら、マコトが大爆笑。
そしてライト王子は特に機嫌を損ねるでもなく、「彼にもまえに似たようなことを言われたことがある」とニヤリと笑みを浮かべた。
この国の第一王子と第二王子は表面上は対立している風を装って、裏ではがっちりと手を組んでいる。
つまり長男で後継者であるイリウム・ル・ギャバナを、裏で次男のライト王子が支える格好。とどのつまり、ゆくゆくは国の暗部のすべてを握るのが、目の前の王子さま。
そんな彼がわたしに興味を持ったのは、部下から「なんかヤバイ女がいる」との報告を受けたから。
リスターナが先に起こした戦争のこともあるし、またぞろ騒動を起こされてはたまらないとの判断から、こちらの動向を見極めようと考えたようだ。
飛び地にある寂れた小国との戦なんて、大国にとっては得るものが何もないしね。
で、すぐに自ら出張ってくるあたりが、なんとも恐ろしい。
城の奥にてふんぞりかえり、余裕ぶって手下にでもまかせてくれていたら、いくらでも誤魔化しようがあるのに。
間近で接した感覚だと、「こりゃあダメだ」といった印象。
経験値や生きてきた世界がちがいすぎる。権謀術数が渦まく宮廷の中をすいすい泳いできたライト王子は、いうなれば数多の修羅場をくぐり抜けてきた野生のシャチ。
対してぬるま湯生活にて、のらりくらりと適当に生きてきたわたしは、安全な水槽にかこわれた養殖のアユ。
こちとら全身凶器につき、面と向かってのどつき合いならば楽勝だけれども、逆に考えればそれ以外に勝てるところが微塵もない。
リリアちゃんとかもそうなんだけど、王族は王族であるがゆえに、一般人とはちがう何かを持っている。そしてそいつは即席でどうこうなるようなモノじゃなくって、血と歴史の重みがあわさり醸造される特別なモノ。
こいつを前にしたら、免疫のない者ならば、すぐさま自主的に頭を下げる。
本能的に格のちがいを思い知らされるから。
おそらくはマコトくんも、ライト王子に何かを感じて心酔したからこそ、彼の下で手足となって働いているのだろう。
勧められるままに席へとつき、しばし静かにコース料理と向き合う。
ちらりと見れば意外にもマコトはテーブルマナーが完璧であった。
だらしない髪の毛のくせに生意気な。
そうこうしているうちに、はやデザートの段階になって、ようやくおしゃべりタイム。
そこで第一声にてわたしが口にしたのは、あることに関するクレームである。
「おたくの姫ちゃん、いい加減になんとかしてよ。初日の嫌がらせからこっち、どんどんヒドくなっているんだけど」
姫ちゃんとは、ギャバナの第二姫メローナ・ル・ギャバナのこと。
なにやら外交デビューを果たしてブイブイいわせている、うちのリリアちゃんに対抗心と嫉妬の炎がメラメラらしくって、いろいろ仕掛けてきているのだ。
飲み物に下剤投入から始まり、各種地味な嫌がらせが続いたと思ったら、ついにはゴロツキを雇っての乱暴狼藉。
もっともそのすべてを未然にこっそりと処理してしまっているので、リリアちゃんやリスターナの随行員たちは誰も気づいていないはず。
飲食に混入されていた毒の類は、グランディアたちがペカーと怪光線を当てて、変質魔法で処理。
直接的な武力行使については、オービタルやセレニティたちがサクっとプチプチ。
で、今日は単独で出かけたわたしにお鉢が回ってきたと。
指折り数えて、受けた嫌がらせを列挙していったら、ライト王子が額に手を当て苦悶の表情。
「まさか……、メローナのやつがそんな愚かな真似をしていようとは。てっきり交渉の席を邪魔するものとばかり考えて、そちらの対応に目がいっていたのだが」
ライト王子さま、どうやら想定していたより妹の行動の次元が低くて、かえってまたぐらをすり抜けられたようだ。
「女の嫉妬、おっかねー」ビビるばかりのマコトくん。これはこれで役に立ちそうにもない。
男と女ではその辺の思考回路がちがうから、それもしょうがないか。
だからとりあえずいちおうの釘を刺すだけに、わたしは留めておく。
「まぁ、そんなわけで、日に日に行状がちょいと過激になってるの。それであらかじめ断っておくけど、もしもリリアちゃんに直接的な危害が及びそうになったら、こっちも本気を出すから」
ヤバイ連中を引き連れているヤバイ女が本気をだす。
これに表情を硬くした王子とマコト。
とはいえ相手は大国にて、勇者がいっぱい。
対するこちらは弱小国に女勇者が一人。
言葉だけだといまいち信憑性に欠けそうなので、ここはもうひと押ししておこうと思う。
0
お気に入りに追加
1,335
あなたにおすすめの小説

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした
あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を
自分の世界へと召喚した。
召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと
願いを託す。
しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、
全く向けられていなかった。
何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、
将来性も期待性もバッチリであったが...
この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。
でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか?
だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし...
周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を
俺に投げてくる始末。
そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と
罵って蔑ろにしてきやがる...。
元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで
最低、一年はかかるとの事だ。
こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から
出ようとした瞬間...
「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」
...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。
※小説家になろう様でも掲載しています。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる