192 / 231
第13章 暗躍
第186話 ミニーブルへ
しおりを挟む
翌日、ジェインがウメーユの町を出たことを確認したあと、その午後に時間を取って、ミニーブルへと行くことにした。
やはりダリアン侯爵の考えが気になり、早いうちにヴィゴールと相談しておこうと考えたからだ。
もちろんポチは留守番だ。
「おかえりなさいませ、ウィルセア様。そちらはアティアス殿ですね。お久しぶりでございます」
今回もエミリスに運んでもらう。
ウィルセアが先導してミニーブルの城に行くと、彼女の顔を見た兵士は深々と頭を下げる。
嫁いでいればともかく、現在街を離れているだけで、ウィルセアはここミニーブルの子爵令嬢ということもあり、顔を合わせる度に兵士達が挨拶で足を止める。
そして、まっすぐに父ヴィゴールのいる執務室に向かい、扉を叩いた。
「お父様、話がありますわ」
「……なんだ、もう来たのか」
顔を合わせた途端、ヴィゴールは苦笑いして娘を出迎える。
すぐにアティアス達にも向き直って、礼をした。
「アティアス殿、お久しぶりです。娘も元気そうでありがたい限りです」
「いえ、こちらこそウィルセア嬢には助けられてばかりですよ。いないと執務が回らないほどです」
それをウィルセアは照れた様子で嬉しそうに聞いていた。
「……それでだ。ダリアンのところのおぼっちゃまが来たんだろ?」
「ええ! そのことですわ。何となく偉そうで……」
「ははは、なんて言ってたか?」
「詳しくはなにも。ただ、私に会いに来たと」
ウィルセアの言うように、ジェインは詳細をなにも語らなかった。
それはアティアスが居る場だったからだとウィルセアは考えていた。
「そうか。アイツ、私には忠告して行ったぞ。娘を寄越さないとここがどうなるかわかっているのか、ってな」
軽い調子でヴィゴールは話すが、その内容は驚くべきことだった。
「ええっ! だ、大丈夫なのですか⁉︎」
しかしヴィゴールは涼しい顔で言った。
「くく、とりあえず娘には好きにさせてるから直接交渉しろと言っておいたよ。兵を挙げるような勇気はあるまい。……まぁ、万が一あったとしても、相手にならんだろう」
そしてアティアスの後ろで控えているエミリスをちらと見る。
「ともかく、お前は好きにしたらいい。前にもそう言っただろ。帰ってきてもいいし、そこでずっといてもいい。……嫁ぎたければ反対もせん……が、ダリアン侯爵は好きじゃないな。顔を合わせることはあるが、偉そうで気に食わん」
好きにしろと言いつつも、自分は嫌いだと言う。
それはつまり、喜んで賛成することはないという意思だ。
「お父様……。ありがとうございます。私は自分の意思で、アティアス様のところで働かせていただいています。ですから、それを全うしたく思いますわ。……アティアス様に辞めろと言われない限り」
ウィルセアがはっきりとそう言い切るのを、ヴィゴールは頷いて聞いていた。
「……アティアス殿はどうですか?」
「私はこのままウィルセア嬢に居て欲しいですね。先ほども言いましたが、これからもウィルセア嬢の力が必要になるでしょう」
アティアスの話を聞いていたウィルセアが力強く頷く。
「ええ、私にお任せください。これからも頑張りますわ。……それで、お父様?」
「なんだ?」
「収穫祭ですけれど、お父様もお越しになりませんか? 実は、ダリアン侯爵が来られるらしいのです」
「なるほどな……収穫祭か……」
ウィルセアの提案に、ヴィゴールは顎に手を当てて考え込んだ。
「どうするかな……。私が同時に顔を合わせると、話がややこしくなるかもしれんな。立場上、堂々と断るのは厳しい。……ただ、行けば私がアティアス殿を支援しているとアピールすることはできるか。判断が難しいが……。うーむ……。今回は行くことにしよう。初の収穫祭でもあるし、私がいる方が住民も安心するだろう」
「お父様、ありがとうございます」
「まぁ、話が拗れたら、ダリアンには多少痛い目を見てもらえばいいだろう。くくく……」
そう言ってヴィゴールは口角を上げた。
しかし突然真顔になって、アティアスに向き合う。
「とはいえ、アティアス殿。暗殺には気をつけるように。力同士で戦えば負けることはないでしょうが、ほんの些細なことが落とし穴になるかもしれません」
「はい。承知しました。……実は――」
アティアスは先日ゼバーシュで襲われたことを話した。
その話に黙って耳を傾けていたヴィゴールだったが、やがて口を開く。
「……なるほど。それは何かきな臭いですね。ただ、アティアス殿がいなくなって得をする者がいるのかと考えると、正直よくわかりませんね。アティアス殿の領地はダリアン領とは繋がっていないから、ダリアンが手を出すとは考えにくい。同時にウィルセアが襲われたのもそれを裏付けています。あるいは、奴隷商の残党の可能性もありますが……」
それはアティアスも似たような考えだった。
確かに、今回ダリアンが出てきて何か関係があるのかと疑ったが、ウィルセアを手に入れようとしているのであれば、襲うというのは考えられない。
「そうですね。いずれにしても、当面は身の回りに気をつけます」
「そうしてほしい。……私としても、何度も娘を泣かせたくないものですからね」
ヴィゴールの話を、ウィルセアは複雑そうな表情で聞いていた。
やはりダリアン侯爵の考えが気になり、早いうちにヴィゴールと相談しておこうと考えたからだ。
もちろんポチは留守番だ。
「おかえりなさいませ、ウィルセア様。そちらはアティアス殿ですね。お久しぶりでございます」
今回もエミリスに運んでもらう。
ウィルセアが先導してミニーブルの城に行くと、彼女の顔を見た兵士は深々と頭を下げる。
嫁いでいればともかく、現在街を離れているだけで、ウィルセアはここミニーブルの子爵令嬢ということもあり、顔を合わせる度に兵士達が挨拶で足を止める。
そして、まっすぐに父ヴィゴールのいる執務室に向かい、扉を叩いた。
「お父様、話がありますわ」
「……なんだ、もう来たのか」
顔を合わせた途端、ヴィゴールは苦笑いして娘を出迎える。
すぐにアティアス達にも向き直って、礼をした。
「アティアス殿、お久しぶりです。娘も元気そうでありがたい限りです」
「いえ、こちらこそウィルセア嬢には助けられてばかりですよ。いないと執務が回らないほどです」
それをウィルセアは照れた様子で嬉しそうに聞いていた。
「……それでだ。ダリアンのところのおぼっちゃまが来たんだろ?」
「ええ! そのことですわ。何となく偉そうで……」
「ははは、なんて言ってたか?」
「詳しくはなにも。ただ、私に会いに来たと」
ウィルセアの言うように、ジェインは詳細をなにも語らなかった。
それはアティアスが居る場だったからだとウィルセアは考えていた。
「そうか。アイツ、私には忠告して行ったぞ。娘を寄越さないとここがどうなるかわかっているのか、ってな」
軽い調子でヴィゴールは話すが、その内容は驚くべきことだった。
「ええっ! だ、大丈夫なのですか⁉︎」
しかしヴィゴールは涼しい顔で言った。
「くく、とりあえず娘には好きにさせてるから直接交渉しろと言っておいたよ。兵を挙げるような勇気はあるまい。……まぁ、万が一あったとしても、相手にならんだろう」
そしてアティアスの後ろで控えているエミリスをちらと見る。
「ともかく、お前は好きにしたらいい。前にもそう言っただろ。帰ってきてもいいし、そこでずっといてもいい。……嫁ぎたければ反対もせん……が、ダリアン侯爵は好きじゃないな。顔を合わせることはあるが、偉そうで気に食わん」
好きにしろと言いつつも、自分は嫌いだと言う。
それはつまり、喜んで賛成することはないという意思だ。
「お父様……。ありがとうございます。私は自分の意思で、アティアス様のところで働かせていただいています。ですから、それを全うしたく思いますわ。……アティアス様に辞めろと言われない限り」
ウィルセアがはっきりとそう言い切るのを、ヴィゴールは頷いて聞いていた。
「……アティアス殿はどうですか?」
「私はこのままウィルセア嬢に居て欲しいですね。先ほども言いましたが、これからもウィルセア嬢の力が必要になるでしょう」
アティアスの話を聞いていたウィルセアが力強く頷く。
「ええ、私にお任せください。これからも頑張りますわ。……それで、お父様?」
「なんだ?」
「収穫祭ですけれど、お父様もお越しになりませんか? 実は、ダリアン侯爵が来られるらしいのです」
「なるほどな……収穫祭か……」
ウィルセアの提案に、ヴィゴールは顎に手を当てて考え込んだ。
「どうするかな……。私が同時に顔を合わせると、話がややこしくなるかもしれんな。立場上、堂々と断るのは厳しい。……ただ、行けば私がアティアス殿を支援しているとアピールすることはできるか。判断が難しいが……。うーむ……。今回は行くことにしよう。初の収穫祭でもあるし、私がいる方が住民も安心するだろう」
「お父様、ありがとうございます」
「まぁ、話が拗れたら、ダリアンには多少痛い目を見てもらえばいいだろう。くくく……」
そう言ってヴィゴールは口角を上げた。
しかし突然真顔になって、アティアスに向き合う。
「とはいえ、アティアス殿。暗殺には気をつけるように。力同士で戦えば負けることはないでしょうが、ほんの些細なことが落とし穴になるかもしれません」
「はい。承知しました。……実は――」
アティアスは先日ゼバーシュで襲われたことを話した。
その話に黙って耳を傾けていたヴィゴールだったが、やがて口を開く。
「……なるほど。それは何かきな臭いですね。ただ、アティアス殿がいなくなって得をする者がいるのかと考えると、正直よくわかりませんね。アティアス殿の領地はダリアン領とは繋がっていないから、ダリアンが手を出すとは考えにくい。同時にウィルセアが襲われたのもそれを裏付けています。あるいは、奴隷商の残党の可能性もありますが……」
それはアティアスも似たような考えだった。
確かに、今回ダリアンが出てきて何か関係があるのかと疑ったが、ウィルセアを手に入れようとしているのであれば、襲うというのは考えられない。
「そうですね。いずれにしても、当面は身の回りに気をつけます」
「そうしてほしい。……私としても、何度も娘を泣かせたくないものですからね」
ヴィゴールの話を、ウィルセアは複雑そうな表情で聞いていた。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
1,347
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる