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第13章 暗躍
第182話 仕事の依頼
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「実はな、この前トーレス達と会った日の朝なんだけど。ゼバーシュで俺とウィルセアは何者かに襲われたんだ」
アティアスは仕事の話のために、まずは正直に経緯を話すことにした。
それを聞いて、ミリーは不思議そうな顔をする。
「ちょっと待って。ゼバーシュでって、あたしたちと会ったのはマドン山脈よね? どう考えても半日とかの距離じゃないんじゃ……」
「そうだな。馬車でもとても無理だよ」
トーレスもそれに同意する。
逆にノードを始め、エミリスが飛べることを知っている面々は、涼しい顔をしていた。
エミリスは話すべきか考えながら、アティアスの顔を見た。
「……アティアス様?」
「ああ、トーレス達なら良いだろ」
「わかりました」
この話を出した時点で、そのことも伝えないと辻褄が合わない。
だから、アティアスはもともとそのつもりだった。
「えっと……実は私、飛べるんですよ。だから、ゼバーシュくらいなら、何時間かあれば行けちゃうんです」
「飛べるって……」
軽い調子で言ったエミリスに、ミリーは意味がわからずに聞き返した。
飛べると言っても、鳥のように羽があるわけでもないし、とても信じられない。
「ええ、こんな感じです」
しかしエミリスはそう答えるなり、その場でふわりと浮き上がってみせた。
その様子をトーレスもミリーも、驚きを持って凝視する。
「浮いてる……」
「はい。あと何人かなら、一緒に浮かべることもできますよ。……無理に動かないでくださいね」
言いながら、エミリスは片手をミリーの方に向けて魔力を編む。
ミリーにはただ不思議な気配が体を包んだように感じただけだったが、ソファに座った姿勢のまま、30センチほどすっと体が宙に浮かんだ。
「――え? えっ!」
慌てて体を動かしてみるものの、自分の意思ではどうにもならなかった。
トーレスは落ち着いたもので、何かに気づいたように頷いた。
「なるほど。最初から魔力で石を動かしたりできたんだ。その応用か……」
「ええ。今はかなり重いものでも持ち上げられます。それと一緒で、自分で自分を持ち上げてるだけです」
彼女は軽く言うが、それがどれほど難しいことなのか、正直理解できないほどだった。
扱いが難しいと言うこともそうだが、それだけの膨大な魔力がなければ成り立たないことでもある。
「……いや、すごいな。確かにこれなら」
「以前、テンセズが攻められた時も、実はその日の朝まではミニーブルにいたんだ」
感嘆するトーレスに、アティアスが補足する。
あのときも、エミリスが運んでくれたから、なんとか戦いを収めることができたのだから。
「……というわけです」
エミリスはストンと床に降りると、同時にミリーもソファにゆっくりと下ろした。
「びっくりしたー。エミーがすっごく強いのはわかってたけど、まさかこんなことまで」
「ふふ。色々便利なんですよね、これ」
そう言いながら、アティアスの机の上に置かれていたお茶をすっと手元に引き寄せると、カップへと優雅に口を付けた。
「まぁ、余談はそのくらいで良いだろ。……そういうわけで、朝ゼバーシュにいても、その日のうちに帰ることができたんだ。……仕事ってのは、その俺たちを襲った奴らについて、情報を集めて欲しいんだよ」
◆
アティアスとの面会を終えて、一度宿に帰る道すがら、トーレスはミリーと話をしていた。
「……ゼバーシュに行くのも久しぶりか」
「そうねー。トーレスは兵士のとき以来じゃない?」
「そうだなぁ」
頼まれた仕事は、ゼバーシュで不穏な動きがないかを調べること。
特に、『魔法石』と呼ばれ、魔法を溜め込んでおける宝石について、兵士の間以外に知っている者がいるかどうか。それとなくギルドなどで聞き取りをしつつ、それを持っている者がいないかを調べること。
「大変そうな仕事ねぇ……」
「ただ、報酬は十分だ。しかも成功報酬じゃないからね」
トーレスが言うように、この仕事は達成できるかどうかで支払われるものではなかった。
それは、必ずしも結果に繋がるかどうかわからないからだ。
「そうね。この仕事が終わったら、旅行のつもりで王都にでも行ってみる? 一度見てみたいのよね」
「良いだろう。……新婚旅行の代わりか?」
「うん。行っても会えるわけじゃないけど、女王様には一度謁見してみたいんだよねぇ……」
同じ女性というのにも関わらず、エレナ女王はカリスマ的な存在感を持っていることで有名だ。
そんな女王に、一度は会ってみたいという憧れがあった。
「まぁ、そう簡単に会えるような方じゃないとは思うけどね」
「そうよねぇ……。せめて顔だけでも見たいのよね」
どこの馬の骨ともわからない冒険者の自分達が謁見することなど、到底無理な話だ。
となると、式典などで民衆の前に顔を見せるときを狙うしかない。
「狙い目はやっぱ5月の式典のときかなぁ」
今年、アティアスが叙爵された日。
その式典のときは、短時間だが女王が顔を見せて挨拶をする場がある。
そのタイミングに合わせて王都に行くのが確実だと思われた。
「とりあえずその話はおいておこう。まずは仕事をちゃんとこなさないとね」
「そうね。……明日にはここを発つ?」
「そのつもりだよ」
「わかったわ」
ふたりはそう言って頷き合う。
今日はアティアスの家での夕食に呼ばれている。
久しぶりに楽しい夜になりそうだ。
アティアスは仕事の話のために、まずは正直に経緯を話すことにした。
それを聞いて、ミリーは不思議そうな顔をする。
「ちょっと待って。ゼバーシュでって、あたしたちと会ったのはマドン山脈よね? どう考えても半日とかの距離じゃないんじゃ……」
「そうだな。馬車でもとても無理だよ」
トーレスもそれに同意する。
逆にノードを始め、エミリスが飛べることを知っている面々は、涼しい顔をしていた。
エミリスは話すべきか考えながら、アティアスの顔を見た。
「……アティアス様?」
「ああ、トーレス達なら良いだろ」
「わかりました」
この話を出した時点で、そのことも伝えないと辻褄が合わない。
だから、アティアスはもともとそのつもりだった。
「えっと……実は私、飛べるんですよ。だから、ゼバーシュくらいなら、何時間かあれば行けちゃうんです」
「飛べるって……」
軽い調子で言ったエミリスに、ミリーは意味がわからずに聞き返した。
飛べると言っても、鳥のように羽があるわけでもないし、とても信じられない。
「ええ、こんな感じです」
しかしエミリスはそう答えるなり、その場でふわりと浮き上がってみせた。
その様子をトーレスもミリーも、驚きを持って凝視する。
「浮いてる……」
「はい。あと何人かなら、一緒に浮かべることもできますよ。……無理に動かないでくださいね」
言いながら、エミリスは片手をミリーの方に向けて魔力を編む。
ミリーにはただ不思議な気配が体を包んだように感じただけだったが、ソファに座った姿勢のまま、30センチほどすっと体が宙に浮かんだ。
「――え? えっ!」
慌てて体を動かしてみるものの、自分の意思ではどうにもならなかった。
トーレスは落ち着いたもので、何かに気づいたように頷いた。
「なるほど。最初から魔力で石を動かしたりできたんだ。その応用か……」
「ええ。今はかなり重いものでも持ち上げられます。それと一緒で、自分で自分を持ち上げてるだけです」
彼女は軽く言うが、それがどれほど難しいことなのか、正直理解できないほどだった。
扱いが難しいと言うこともそうだが、それだけの膨大な魔力がなければ成り立たないことでもある。
「……いや、すごいな。確かにこれなら」
「以前、テンセズが攻められた時も、実はその日の朝まではミニーブルにいたんだ」
感嘆するトーレスに、アティアスが補足する。
あのときも、エミリスが運んでくれたから、なんとか戦いを収めることができたのだから。
「……というわけです」
エミリスはストンと床に降りると、同時にミリーもソファにゆっくりと下ろした。
「びっくりしたー。エミーがすっごく強いのはわかってたけど、まさかこんなことまで」
「ふふ。色々便利なんですよね、これ」
そう言いながら、アティアスの机の上に置かれていたお茶をすっと手元に引き寄せると、カップへと優雅に口を付けた。
「まぁ、余談はそのくらいで良いだろ。……そういうわけで、朝ゼバーシュにいても、その日のうちに帰ることができたんだ。……仕事ってのは、その俺たちを襲った奴らについて、情報を集めて欲しいんだよ」
◆
アティアスとの面会を終えて、一度宿に帰る道すがら、トーレスはミリーと話をしていた。
「……ゼバーシュに行くのも久しぶりか」
「そうねー。トーレスは兵士のとき以来じゃない?」
「そうだなぁ」
頼まれた仕事は、ゼバーシュで不穏な動きがないかを調べること。
特に、『魔法石』と呼ばれ、魔法を溜め込んでおける宝石について、兵士の間以外に知っている者がいるかどうか。それとなくギルドなどで聞き取りをしつつ、それを持っている者がいないかを調べること。
「大変そうな仕事ねぇ……」
「ただ、報酬は十分だ。しかも成功報酬じゃないからね」
トーレスが言うように、この仕事は達成できるかどうかで支払われるものではなかった。
それは、必ずしも結果に繋がるかどうかわからないからだ。
「そうね。この仕事が終わったら、旅行のつもりで王都にでも行ってみる? 一度見てみたいのよね」
「良いだろう。……新婚旅行の代わりか?」
「うん。行っても会えるわけじゃないけど、女王様には一度謁見してみたいんだよねぇ……」
同じ女性というのにも関わらず、エレナ女王はカリスマ的な存在感を持っていることで有名だ。
そんな女王に、一度は会ってみたいという憧れがあった。
「まぁ、そう簡単に会えるような方じゃないとは思うけどね」
「そうよねぇ……。せめて顔だけでも見たいのよね」
どこの馬の骨ともわからない冒険者の自分達が謁見することなど、到底無理な話だ。
となると、式典などで民衆の前に顔を見せるときを狙うしかない。
「狙い目はやっぱ5月の式典のときかなぁ」
今年、アティアスが叙爵された日。
その式典のときは、短時間だが女王が顔を見せて挨拶をする場がある。
そのタイミングに合わせて王都に行くのが確実だと思われた。
「とりあえずその話はおいておこう。まずは仕事をちゃんとこなさないとね」
「そうね。……明日にはここを発つ?」
「そのつもりだよ」
「わかったわ」
ふたりはそう言って頷き合う。
今日はアティアスの家での夕食に呼ばれている。
久しぶりに楽しい夜になりそうだ。
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