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第12章 領主の日常
第174話 私が覚えてると思います?
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「ふにゃぁ……」
パーティが終わり、アティアス達3人は城をあとにした。
酔っ払って寝ているエミリスは、彼の背中で気持ち良さそうに寝言を呟いていた。
(羨ましいですわ……)
その様子を横を並んで歩くウィルセアが羨ましそうに見る。
自分も寝たふりしたらこうして背負ってくれるだろうかと思うと、試してみたくはあるが、それはまたの機会だ。
「このあとはどうしましょう?」
「そうだな……。もう暗いし、風呂に入って寝るくらいじゃないのか? エミーがこの調子だしな」
「相変わらずですわね。失礼ですけど……私よりずっと年上なのに、子供みたいで」
子供のようで可愛らしく思う。
だが、その気になれば、この街を消し去ることすらできるのだろう。
ウィルセアは、実際にエミリスが戦うのを見たのは、初めて出会ったとき。馬車で襲われそうになったのを助けてくれたのが彼女だった。
その時は馬車の中で震えて見ていただけで、何もできなかった。
そのとき、突然現れて、自分とそう歳も変わらないのにあっという間に相手を圧倒したことを覚えている。
「はは、まぁ見た目も子供みたいなものだけどな」
「……そんな方を妻にするなんて、アティアス様って……」
「それは……兄貴に……」
「兄……というのは、今日おられた方のどなたか、ということですか?」
その話がなんとなく気になって、ウィルセアは聞く。
「レギウス兄さんだな。……元々、エミーは奴隷だったから、引き取るのに困って、親父の養子にしてもらうつもりだったんだ」
「養子……ですか? ということは、アティアス様の義妹?」
「ああ。それで、兄貴に手続きを頼んだんだけど……何を思ったのか、俺と結婚する手続きをしちゃってね。まぁ、エミーがそれで良いって言うから、そのまま」
その時のことを思い出しながら、アティアスは苦笑いした。
「なるほど……」
ウィルセアには想像でしかなかったが、エミリスがどれほどアティアスのことを愛しているか知っている今、そのときの笑顔が目に浮かぶようだった。
「……そろそろ家に着くな。とりあえずエミー寝かせるから、ちょっと待っててくれ」
「はい、わかりましたわ」
◆
「頭が痛いです……」
翌朝、眠い目を擦りながら起き上がったエミリスは、久しぶりの二日酔いに頭を抱えていた。
「飲み過ぎだって。1人で何本飲んだんだ?」
「……私が覚えてると思います?」
「聞いた俺が悪かった」
記憶が残っていないことを開き直るエミリスに、アティアスは水を手渡す。
「ありがとうございます」
礼を言って、それを飲み干したエミリスは、もう一度ベッドに寝転がった。
「うう……動きたくないです……」
「そうは言ってもな、今日には帰らないと明日から仕事だからな」
「頑張りますけど……もう少し寝かせてください……」
「仕方ないな」
いずれにしてもエミリスが飛んでくれないとウメーユには帰れない。
なら今できることは、回復を待つことだけだった。
アティアスは空になったグラスにもう一度水を汲んで、ベッドの脇に置いて、寝室を後にした。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「エミリスさんは?」
「二日酔いで寝てる。すまないが、トロンには寄れそうにないな」
「いえ、まぁ……そうですよね。1人で2本くらい飲んでましたし」
起きてきたウィルセアに状況を説明すると、それは予想通りだったようだ。
「では、朝食はどうしましょうか。食材がないようなので、何も作れませんけど……」
「どうせエミーは昼まで起きないだろ。近くの宿のレストランにでも行くか?」
「良いんですか?」
「ああ。元々そのつもりだったからな」
アティアスの提案に、ウィルセアは笑顔を見せた。
◆
「アティアス様。お久しぶりです」
レストランに着くと、給仕の若い男性がアティアスの顔を見て声をかけた。
「ああ、今日だけ寄ってみたんだ。2人分の朝食を頼む」
「承知しました。……こちらのお方は?」
いつも連れているエミリスと違うことが気になったのか、質問が飛んできた。
「これはマッキンゼ子爵の娘だ。丁重にな。……ちなみに、俺の妻は家で寝てる」
「左様でございますか。どうぞお寛ぎください」
それ以上詮索せず、給仕の男性は注文を受け取って戻って行った。
「綺麗なレストランですわね」
「ああ、近いしそんなに高くもないから、たまに使ってるんだ。夜が多いけどな」
ウィルセアが周りを見渡しながら呟く。
宿の一階にあるこのレストランは、宿泊客の朝食を提供している役目を担っていた。
朝の日差しが差し込む明るい店内は、夏のこの時期ということもあって、少し汗ばむ暑さがあったが、それは仕方のないことだった。
ビュッフェスタイルの店内で、2人は好きな料理を取って、席に戻った。
「エミリスさんが来ると、店の料理がなくなってしまいそうですわ」
「はは、流石にそんなことはないけどな。まぁ、俺の3倍は食べるけど……」
普段家で食べる時はそこまで大量には食べないが、こうして店で食べる時は好きなだけ食べさせていた。
何でも美味しそうに食べるのを見ていると飽きない。
ただ、そんなエミリスが作る料理が、どこのレストランよりも美味しいのだが。
「ふふ……」
ウィルセアは機嫌よく、こうしてアティアスと向かい合って朝食を食べることを楽しんでいた。
――突然、近くから爆発音が聞こえてくるまでは。
パーティが終わり、アティアス達3人は城をあとにした。
酔っ払って寝ているエミリスは、彼の背中で気持ち良さそうに寝言を呟いていた。
(羨ましいですわ……)
その様子を横を並んで歩くウィルセアが羨ましそうに見る。
自分も寝たふりしたらこうして背負ってくれるだろうかと思うと、試してみたくはあるが、それはまたの機会だ。
「このあとはどうしましょう?」
「そうだな……。もう暗いし、風呂に入って寝るくらいじゃないのか? エミーがこの調子だしな」
「相変わらずですわね。失礼ですけど……私よりずっと年上なのに、子供みたいで」
子供のようで可愛らしく思う。
だが、その気になれば、この街を消し去ることすらできるのだろう。
ウィルセアは、実際にエミリスが戦うのを見たのは、初めて出会ったとき。馬車で襲われそうになったのを助けてくれたのが彼女だった。
その時は馬車の中で震えて見ていただけで、何もできなかった。
そのとき、突然現れて、自分とそう歳も変わらないのにあっという間に相手を圧倒したことを覚えている。
「はは、まぁ見た目も子供みたいなものだけどな」
「……そんな方を妻にするなんて、アティアス様って……」
「それは……兄貴に……」
「兄……というのは、今日おられた方のどなたか、ということですか?」
その話がなんとなく気になって、ウィルセアは聞く。
「レギウス兄さんだな。……元々、エミーは奴隷だったから、引き取るのに困って、親父の養子にしてもらうつもりだったんだ」
「養子……ですか? ということは、アティアス様の義妹?」
「ああ。それで、兄貴に手続きを頼んだんだけど……何を思ったのか、俺と結婚する手続きをしちゃってね。まぁ、エミーがそれで良いって言うから、そのまま」
その時のことを思い出しながら、アティアスは苦笑いした。
「なるほど……」
ウィルセアには想像でしかなかったが、エミリスがどれほどアティアスのことを愛しているか知っている今、そのときの笑顔が目に浮かぶようだった。
「……そろそろ家に着くな。とりあえずエミー寝かせるから、ちょっと待っててくれ」
「はい、わかりましたわ」
◆
「頭が痛いです……」
翌朝、眠い目を擦りながら起き上がったエミリスは、久しぶりの二日酔いに頭を抱えていた。
「飲み過ぎだって。1人で何本飲んだんだ?」
「……私が覚えてると思います?」
「聞いた俺が悪かった」
記憶が残っていないことを開き直るエミリスに、アティアスは水を手渡す。
「ありがとうございます」
礼を言って、それを飲み干したエミリスは、もう一度ベッドに寝転がった。
「うう……動きたくないです……」
「そうは言ってもな、今日には帰らないと明日から仕事だからな」
「頑張りますけど……もう少し寝かせてください……」
「仕方ないな」
いずれにしてもエミリスが飛んでくれないとウメーユには帰れない。
なら今できることは、回復を待つことだけだった。
アティアスは空になったグラスにもう一度水を汲んで、ベッドの脇に置いて、寝室を後にした。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「エミリスさんは?」
「二日酔いで寝てる。すまないが、トロンには寄れそうにないな」
「いえ、まぁ……そうですよね。1人で2本くらい飲んでましたし」
起きてきたウィルセアに状況を説明すると、それは予想通りだったようだ。
「では、朝食はどうしましょうか。食材がないようなので、何も作れませんけど……」
「どうせエミーは昼まで起きないだろ。近くの宿のレストランにでも行くか?」
「良いんですか?」
「ああ。元々そのつもりだったからな」
アティアスの提案に、ウィルセアは笑顔を見せた。
◆
「アティアス様。お久しぶりです」
レストランに着くと、給仕の若い男性がアティアスの顔を見て声をかけた。
「ああ、今日だけ寄ってみたんだ。2人分の朝食を頼む」
「承知しました。……こちらのお方は?」
いつも連れているエミリスと違うことが気になったのか、質問が飛んできた。
「これはマッキンゼ子爵の娘だ。丁重にな。……ちなみに、俺の妻は家で寝てる」
「左様でございますか。どうぞお寛ぎください」
それ以上詮索せず、給仕の男性は注文を受け取って戻って行った。
「綺麗なレストランですわね」
「ああ、近いしそんなに高くもないから、たまに使ってるんだ。夜が多いけどな」
ウィルセアが周りを見渡しながら呟く。
宿の一階にあるこのレストランは、宿泊客の朝食を提供している役目を担っていた。
朝の日差しが差し込む明るい店内は、夏のこの時期ということもあって、少し汗ばむ暑さがあったが、それは仕方のないことだった。
ビュッフェスタイルの店内で、2人は好きな料理を取って、席に戻った。
「エミリスさんが来ると、店の料理がなくなってしまいそうですわ」
「はは、流石にそんなことはないけどな。まぁ、俺の3倍は食べるけど……」
普段家で食べる時はそこまで大量には食べないが、こうして店で食べる時は好きなだけ食べさせていた。
何でも美味しそうに食べるのを見ていると飽きない。
ただ、そんなエミリスが作る料理が、どこのレストランよりも美味しいのだが。
「ふふ……」
ウィルセアは機嫌よく、こうしてアティアスと向かい合って朝食を食べることを楽しんでいた。
――突然、近くから爆発音が聞こえてくるまでは。
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