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第12章 領主の日常
第171話 ゼバーシュへ
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翌日、午前中は街をぶらぶらと散歩していた。
「ガラス細工綺麗ですね。こういうお店って、なんで港町に多いんでしょうか?」
ウィルセアがショーウィンドウに貼り付いて中を見ながらアティアスに聞いた。
「なんでだろうな。確かに内陸の街じゃ、あまり見かけないな」
「――これ、なんですか? アティアス様」
アティアスが首を傾げていると、その横でエミリスが上から吊られたガラスを指差す。
そこには紐で逆さまに吊られたコップのようなものから、更に栞のような紙がぶら下がっている、見たことのないものがあった。
「ああ、それはこういうものだ」
アティアスはそう言うと、ぶら下がっている紙に息を吹きかけた。
――チリーン! チリーン!
「おおぉ……! なんか良い音ですねっ!」
それは風鈴だった。
エミリスは興味を持ったのか、自分も息を吹きかけては鳴らして遊んでいた。
「風が吹いたら鳴るんだ。良い音だよな」
「ええ。……これ、買っても良いですか?」
「高いものじゃないし、別に構わないぞ?」
「ありがとうございます」
店員を呼んで、商品を梱包してもらう。
エミリスは風鈴をゲットしてご満悦だった。
「ウィルセアはなにか欲しいものはないのか?」
「いえ。どれもすごく綺麗ですけど、今は特に……」
「そうか。まぁ欲しいものあったら言ってくれ」
「ええ。承知しました」
ガラス細工の店を出たあと、しばらくウィンドウショッピングをする。
雑貨屋でウィルセアが気に入ったらしく、木製の食器を人数分買っても良いかと聞いてきたため、了承した。
「ウィルセアはもっと派手なアクセサリーとか好きなのかと思ってたんだけど……」
「ええと、嫌いなわけではないですけれど、子供の頃から必要なくらいは持ってましたし、パーティに参加するときくらいしか使いませんから……」
「確かにそうか。まぁ、エミーもそういうのはそこまで興味なさそうだけどな」
珍しいものを探してあちこちの店を眺めているエミリスを見ながら、アティアスは呟いた。
「エミリスさんはアクセサリーなんかなくても十分目立ちますからね……」
「はは。そうだな」
確かにその通りだ。
ただ、うまく合わせると、もっと彼女の容姿が引き立つのもよく知っていた。
「――そろそろゼバーシュに行くか?」
「ええ」
「おーい、エミー! そろそろ良いか?」
ウィルセアが頷いたあと、アティアスはうろうろしていたエミリスを呼び寄せた。
「あ、はーい」
トコトコとアティアスの側に駆け寄ったエミリスの頭をぽんぽんと撫でる。
「そろそろゼバーシュに行こう。すまないけど頼むよ」
「ふふ。はい、大丈夫ですよ。お安いご用です」
エミリスは撫でられたことで機嫌よく頬をほころばせた。
◆
「ただいまーです」
普段誰もいないゼバーシュの自宅に帰り、ドアを開けたエミリスは元気よく声を出した。
「久しぶりだな」
「ですねー。少しホコリっぽいですし、ささっと掃除しますね」
「無理はしなくていいぞ? 寝るだけだからな」
「だいじょーぶですよ。すぐ終わりますから。――ウィルセアさん、家の窓できるだけ開けてきてもらえません?」
エミリスはウィルセアに窓を開けてもらう間に、バケツと雑巾を準備する。
雑巾は明らかに今いる人数よりも多い枚数だった。
「それじゃ、パパッと拭いていきますから」
そう言いながら、エミリスは絞った雑巾をどんどん床に無造作に置いていく。
全てを置き終えると、じっとそれを凝視する。
すると、それらが勝手に動き出して、床を拭き始めた。
「ふふーん♪」
エミリスは腰に手を当てて立ったまま、魔力で雑巾を操りながら満足そうに頷いた。
「……便利だな」
「あんまり大量に操るのは無理ですけど、5枚くらいならなんとか」
つまり5人分の働きができるということか。
エミリスが宣言した通り、すぐに拭き掃除は終わらせてしまった。
「アティアス様、晩御飯どうします? 材料買ってきて作りましょうか?」
「どうしようかなぁ。……せっかくゼバーシュに来たし、とりあえず親父に挨拶くらいしておくか。そのあと考えよう」
「はい、承知しました。ところで……」
エミリスは上目遣いでアティアスの顔を覗き込む。
彼女がこんな顔をするときは、何か欲しいのだというのはよく知っていた。
「……クレープか? 途中で買って行こう」
「やった! ありがとうございますー」
◆
クレープを3つ食べて満足したエミリスは、ウィルセアと並んでアティアスの後ろを歩いていた。
ちなみに、アティアスは1つ。ウィルセアは2つクレープを食べていた。
ゼバーシュの城に着いた3人は、衛兵に声をかけた。
「アティアスだ。親父に会いたいんだが……」
「お久しぶりです。アティアス様。本日は公務は休みですが、ルドルフ様は居住区におられるはずです。中に入ってご確認ください」
「わかった」
ほぼ顔パスで城の門を通り、アティアス達は城の奥に向かう。
居住区はルドルフが住んでいる奥の部屋のことだ。少し前までは姉のナターシャもそこに住んでいた。
奥に続く扉の前にいる衛兵に確認する。
今まで何度も顔を合わせて、よく知っている兵士ということもあり、アティアスの顔を見てすぐに声をかけてきた。
「これはアティアス様。半年ぶりくらいでしょうか。お久しぶりでございます」
「ああ、もうそのくらいか。城を出てから、滅多に来ないからな」
「ははは、何をおっしゃいますか。城を出る前から、旅に出られていてほとんどお見かけしませんでしたよ?」
「確かにそうだな。そう考えたら、半年ならまだ短いほうか。……親父はいるか?」
兵士の話に頭を掻きながらアティアスは苦笑いを浮かべた。
確かに滅多に帰ってこなかったことを考えると、今も過去も大差ないのかもしれない。
「はい、自室で過ごされていると思われます。どうぞ、お入りください」
「ありがとう。――行こうか」
「はい」
「はーい」
アティアスが後ろの2人に声をかけると、真面目な顔でウィルセアが頷くのに対して、エミリスは軽い調子で返事を返した。
「私、ここは初めて入りますわ」
ウィルセアは周りを見ながら歩いていた。
「まぁ、普通は用のないところだからな。……エミーも初めて入ったとき、同じようにキョロキョロしてたよ」
「そ、そうですか……」
それが恥ずかしかったのか、ウィルセアは少し照れていた。
アティアスは迷わず奥に歩いていき、居住区の中でも一番奥の扉の前に立ち止まった。
「ほら、ここだよ。親父の部屋は……」
「ガラス細工綺麗ですね。こういうお店って、なんで港町に多いんでしょうか?」
ウィルセアがショーウィンドウに貼り付いて中を見ながらアティアスに聞いた。
「なんでだろうな。確かに内陸の街じゃ、あまり見かけないな」
「――これ、なんですか? アティアス様」
アティアスが首を傾げていると、その横でエミリスが上から吊られたガラスを指差す。
そこには紐で逆さまに吊られたコップのようなものから、更に栞のような紙がぶら下がっている、見たことのないものがあった。
「ああ、それはこういうものだ」
アティアスはそう言うと、ぶら下がっている紙に息を吹きかけた。
――チリーン! チリーン!
「おおぉ……! なんか良い音ですねっ!」
それは風鈴だった。
エミリスは興味を持ったのか、自分も息を吹きかけては鳴らして遊んでいた。
「風が吹いたら鳴るんだ。良い音だよな」
「ええ。……これ、買っても良いですか?」
「高いものじゃないし、別に構わないぞ?」
「ありがとうございます」
店員を呼んで、商品を梱包してもらう。
エミリスは風鈴をゲットしてご満悦だった。
「ウィルセアはなにか欲しいものはないのか?」
「いえ。どれもすごく綺麗ですけど、今は特に……」
「そうか。まぁ欲しいものあったら言ってくれ」
「ええ。承知しました」
ガラス細工の店を出たあと、しばらくウィンドウショッピングをする。
雑貨屋でウィルセアが気に入ったらしく、木製の食器を人数分買っても良いかと聞いてきたため、了承した。
「ウィルセアはもっと派手なアクセサリーとか好きなのかと思ってたんだけど……」
「ええと、嫌いなわけではないですけれど、子供の頃から必要なくらいは持ってましたし、パーティに参加するときくらいしか使いませんから……」
「確かにそうか。まぁ、エミーもそういうのはそこまで興味なさそうだけどな」
珍しいものを探してあちこちの店を眺めているエミリスを見ながら、アティアスは呟いた。
「エミリスさんはアクセサリーなんかなくても十分目立ちますからね……」
「はは。そうだな」
確かにその通りだ。
ただ、うまく合わせると、もっと彼女の容姿が引き立つのもよく知っていた。
「――そろそろゼバーシュに行くか?」
「ええ」
「おーい、エミー! そろそろ良いか?」
ウィルセアが頷いたあと、アティアスはうろうろしていたエミリスを呼び寄せた。
「あ、はーい」
トコトコとアティアスの側に駆け寄ったエミリスの頭をぽんぽんと撫でる。
「そろそろゼバーシュに行こう。すまないけど頼むよ」
「ふふ。はい、大丈夫ですよ。お安いご用です」
エミリスは撫でられたことで機嫌よく頬をほころばせた。
◆
「ただいまーです」
普段誰もいないゼバーシュの自宅に帰り、ドアを開けたエミリスは元気よく声を出した。
「久しぶりだな」
「ですねー。少しホコリっぽいですし、ささっと掃除しますね」
「無理はしなくていいぞ? 寝るだけだからな」
「だいじょーぶですよ。すぐ終わりますから。――ウィルセアさん、家の窓できるだけ開けてきてもらえません?」
エミリスはウィルセアに窓を開けてもらう間に、バケツと雑巾を準備する。
雑巾は明らかに今いる人数よりも多い枚数だった。
「それじゃ、パパッと拭いていきますから」
そう言いながら、エミリスは絞った雑巾をどんどん床に無造作に置いていく。
全てを置き終えると、じっとそれを凝視する。
すると、それらが勝手に動き出して、床を拭き始めた。
「ふふーん♪」
エミリスは腰に手を当てて立ったまま、魔力で雑巾を操りながら満足そうに頷いた。
「……便利だな」
「あんまり大量に操るのは無理ですけど、5枚くらいならなんとか」
つまり5人分の働きができるということか。
エミリスが宣言した通り、すぐに拭き掃除は終わらせてしまった。
「アティアス様、晩御飯どうします? 材料買ってきて作りましょうか?」
「どうしようかなぁ。……せっかくゼバーシュに来たし、とりあえず親父に挨拶くらいしておくか。そのあと考えよう」
「はい、承知しました。ところで……」
エミリスは上目遣いでアティアスの顔を覗き込む。
彼女がこんな顔をするときは、何か欲しいのだというのはよく知っていた。
「……クレープか? 途中で買って行こう」
「やった! ありがとうございますー」
◆
クレープを3つ食べて満足したエミリスは、ウィルセアと並んでアティアスの後ろを歩いていた。
ちなみに、アティアスは1つ。ウィルセアは2つクレープを食べていた。
ゼバーシュの城に着いた3人は、衛兵に声をかけた。
「アティアスだ。親父に会いたいんだが……」
「お久しぶりです。アティアス様。本日は公務は休みですが、ルドルフ様は居住区におられるはずです。中に入ってご確認ください」
「わかった」
ほぼ顔パスで城の門を通り、アティアス達は城の奥に向かう。
居住区はルドルフが住んでいる奥の部屋のことだ。少し前までは姉のナターシャもそこに住んでいた。
奥に続く扉の前にいる衛兵に確認する。
今まで何度も顔を合わせて、よく知っている兵士ということもあり、アティアスの顔を見てすぐに声をかけてきた。
「これはアティアス様。半年ぶりくらいでしょうか。お久しぶりでございます」
「ああ、もうそのくらいか。城を出てから、滅多に来ないからな」
「ははは、何をおっしゃいますか。城を出る前から、旅に出られていてほとんどお見かけしませんでしたよ?」
「確かにそうだな。そう考えたら、半年ならまだ短いほうか。……親父はいるか?」
兵士の話に頭を掻きながらアティアスは苦笑いを浮かべた。
確かに滅多に帰ってこなかったことを考えると、今も過去も大差ないのかもしれない。
「はい、自室で過ごされていると思われます。どうぞ、お入りください」
「ありがとう。――行こうか」
「はい」
「はーい」
アティアスが後ろの2人に声をかけると、真面目な顔でウィルセアが頷くのに対して、エミリスは軽い調子で返事を返した。
「私、ここは初めて入りますわ」
ウィルセアは周りを見ながら歩いていた。
「まぁ、普通は用のないところだからな。……エミーも初めて入ったとき、同じようにキョロキョロしてたよ」
「そ、そうですか……」
それが恥ずかしかったのか、ウィルセアは少し照れていた。
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