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第12章 領主の日常
第169話 埋めてしまえば良いじゃない!
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「エミリスさん、泳ぎましょう!」
浮き輪を脇に抱えたウィルセアがエミリスを誘うと、彼女は日陰で座ったままのアティアスに声をかけた。
「アティアス様は泳がないんですか?」
「俺は荷物見てるよ。2人で行ってきな」
アティアスがそう言うと、エミリスが不満そうな顔を見せた。
「むむー、アティアス様と泳ぎたいですー」
「そうは言ってもな……」
「荷物なら、私が埋めておきますからっ」
「お、おい……!」
慌てて静止する彼を他所に、エミリスは荷物をシートに包んで、先程男たちと遊んだときに掘った穴に放り込んだ。
そしてそのまま砂を掛けて埋めてしまった。
「うん、これでよし……と」
「大丈夫かなぁ……」
「これ掘ってまで盗る人はいないと思います」
「まぁ……そうだろうけど」
満足そうにする彼女は、呆れるアティアスの手を引いて、意気揚々と海に向かった。
「わっ、冷たいですっ」
水際で足を浸けたエミリスは、予想以上に冷たかったのか驚いた声を上げる。
「少しずつ体を慣らしたら大丈夫ですよ」
ウィルセアは先に膝くらいまで海に入っていて、振り返って言った。
「わかりましたー」
そう応えながら、エミリスは足首くらいまでの浅いところで膝を付いて座り込むと、海水に手を浸けて気持ちよさそうにした。
「暑いときにこれは気持ちいいですねぇ……」
冷たい海水が肌と水着を濡らして、波にさらわれた砂が太腿をくすぐった。
それが思いのほか気持ちよく思えた。
しばらくして体が冷たさに慣れてきたこともあって、エミリスは体を起こして、少しずつ深いところに這っていく。
そのとき――。
「ほらっ」
すぐ横に来ていたアティアスが、彼女の肩をぐいっと押した。
「――ひにゃあっ!」
バシャン!
驚いた声と水音が響いて、エミリスは仰向けに転がって海水に沈んだ。
突然のことに何が起こったのか理解できず、慌てて両手足をバタつかせて顔を水面に上げようとするが、ただもがくだけ。
「――モガモガっ!」
時間にして数秒程度だったのだが、口から吐き出した空気が水面に泡を作った。
どこからどう見ても、明らかに溺れていた――。
まさかこんな浅瀬で溺れるとは思っていなかったアティアスは、急いで手を引っ張って体を引き上げる。
「――ぶはぁっ!」
ようやく水面から顔を出せたエミリスは、急いで肺に空気を取り込む。
少し海水を吐き出しつつ、しばらく荒い息をしていたが、落ち着いたところでアティアスをジトッと見た。
「…………酷いです」
「あ、いや……すまん。このくらいで溺れるとは……」
「お、溺れてないですしっ! ちょっと海と戯れてただけですっ!」
「そ、そうか……」
彼の言葉にエミリスが弁明したあと、頬をぷくっと膨らませた。水面から出した河豚のように。
それが思いのほか可愛くて、アティアスはつい、濡れてベッタリと髪が張り付いた頭に手を載せた。
一瞬戸惑ったエミリスだったが、我慢できずに『にへらぁ』と口元が緩んでいく。
「……仕方ないですねぇ」
機嫌が直ったようで、彼女は彼にバシャッと手で水を掛けて笑った。
「……いいなぁ」
浮き輪でぷかぷかと浮かびながら、その様子を遠目に見ていたウィルセアはポツリと呟いた。
◆
日が傾き始めた頃、そろそろ疲れてきたこともあって、海から上がった。
「楽しかったですわ」
ウィルセアも海水浴を堪能でき満足そうにしていた。
特に、浮き輪をアティアスに引っ張ってもらって遊んでもらったことが嬉しかった。
自分でもまだまだ子供だと思いながら、それでもやっぱり楽しいものは楽しいのだ。
「いつも頑張ってくれてるからな。お礼だよ」
アティアスがいつもエミリスにやっているように、ウィルセアの頭に優しくポンポンと手を乗せた。
「あ、ありがとうございます……」
頬を染めながら、ウィルセアがはにかんだ。
夏の傾きかけた日差しに彼の微笑む顔が照らされ、直視すると胸が高鳴る。
やっぱり自分も彼が好きで、それゆえ彼のために働いているのだと再確認した。
見返りなど求めてはいないが、それでも――こうして時々とはいえ自分に触れてくれることが嬉しくて。
叶わないことはわかっているものの、その先を夢見てしまうときがあることは避けられなかった。
「ああーっ!!」
それをかき消すように、エミリスが叫んだ。
「どうした、エミー!?」
「あの……パラソルが……無いんです」
パラソルを目印にして、その下に荷物を埋めていたのだが、風で飛んでしまって場所がわからなくなってしまったようだった。
「……あの中に入ってたのは着替えくらいとはいえ、無いと困るな」
荷物がなければ水着から着替えられない。
埋めた直後は砂の色が変わっていたが、時間が経ってそれもわからなくなってしまっていた。
「うう……。片っ端から掘りましょうか……」
肩を落とすエミリスに、アティアスは首を振った。
「流石にそこら全部穴ぼこだらけにする訳にもいかんだろ」
「ですかねぇ……。申し訳有りません……」
「宿に帰ったら着替えもあるし、このまま行くしかないか。……ウィルセア、大丈夫か?」
アティアスはウィルセアを心配して声を掛けた。
「ええ。少し恥ずかしいですけど、幸い宿は海の近くですから」
「すまないな」
謝るアティアスを遮って、エミリスが頭を下げた。
「ウィルセアさん、ごめんなさい。なにかお詫びしますから……」
「いえ、お詫びなんて……」
そう言いかけたウィルセアだったが、ふと思いついて答えた。
「あの……ゾマリーノのあと、ゼバーシュやトロンに寄りたいのですが構いませんか?」
浮き輪を脇に抱えたウィルセアがエミリスを誘うと、彼女は日陰で座ったままのアティアスに声をかけた。
「アティアス様は泳がないんですか?」
「俺は荷物見てるよ。2人で行ってきな」
アティアスがそう言うと、エミリスが不満そうな顔を見せた。
「むむー、アティアス様と泳ぎたいですー」
「そうは言ってもな……」
「荷物なら、私が埋めておきますからっ」
「お、おい……!」
慌てて静止する彼を他所に、エミリスは荷物をシートに包んで、先程男たちと遊んだときに掘った穴に放り込んだ。
そしてそのまま砂を掛けて埋めてしまった。
「うん、これでよし……と」
「大丈夫かなぁ……」
「これ掘ってまで盗る人はいないと思います」
「まぁ……そうだろうけど」
満足そうにする彼女は、呆れるアティアスの手を引いて、意気揚々と海に向かった。
「わっ、冷たいですっ」
水際で足を浸けたエミリスは、予想以上に冷たかったのか驚いた声を上げる。
「少しずつ体を慣らしたら大丈夫ですよ」
ウィルセアは先に膝くらいまで海に入っていて、振り返って言った。
「わかりましたー」
そう応えながら、エミリスは足首くらいまでの浅いところで膝を付いて座り込むと、海水に手を浸けて気持ちよさそうにした。
「暑いときにこれは気持ちいいですねぇ……」
冷たい海水が肌と水着を濡らして、波にさらわれた砂が太腿をくすぐった。
それが思いのほか気持ちよく思えた。
しばらくして体が冷たさに慣れてきたこともあって、エミリスは体を起こして、少しずつ深いところに這っていく。
そのとき――。
「ほらっ」
すぐ横に来ていたアティアスが、彼女の肩をぐいっと押した。
「――ひにゃあっ!」
バシャン!
驚いた声と水音が響いて、エミリスは仰向けに転がって海水に沈んだ。
突然のことに何が起こったのか理解できず、慌てて両手足をバタつかせて顔を水面に上げようとするが、ただもがくだけ。
「――モガモガっ!」
時間にして数秒程度だったのだが、口から吐き出した空気が水面に泡を作った。
どこからどう見ても、明らかに溺れていた――。
まさかこんな浅瀬で溺れるとは思っていなかったアティアスは、急いで手を引っ張って体を引き上げる。
「――ぶはぁっ!」
ようやく水面から顔を出せたエミリスは、急いで肺に空気を取り込む。
少し海水を吐き出しつつ、しばらく荒い息をしていたが、落ち着いたところでアティアスをジトッと見た。
「…………酷いです」
「あ、いや……すまん。このくらいで溺れるとは……」
「お、溺れてないですしっ! ちょっと海と戯れてただけですっ!」
「そ、そうか……」
彼の言葉にエミリスが弁明したあと、頬をぷくっと膨らませた。水面から出した河豚のように。
それが思いのほか可愛くて、アティアスはつい、濡れてベッタリと髪が張り付いた頭に手を載せた。
一瞬戸惑ったエミリスだったが、我慢できずに『にへらぁ』と口元が緩んでいく。
「……仕方ないですねぇ」
機嫌が直ったようで、彼女は彼にバシャッと手で水を掛けて笑った。
「……いいなぁ」
浮き輪でぷかぷかと浮かびながら、その様子を遠目に見ていたウィルセアはポツリと呟いた。
◆
日が傾き始めた頃、そろそろ疲れてきたこともあって、海から上がった。
「楽しかったですわ」
ウィルセアも海水浴を堪能でき満足そうにしていた。
特に、浮き輪をアティアスに引っ張ってもらって遊んでもらったことが嬉しかった。
自分でもまだまだ子供だと思いながら、それでもやっぱり楽しいものは楽しいのだ。
「いつも頑張ってくれてるからな。お礼だよ」
アティアスがいつもエミリスにやっているように、ウィルセアの頭に優しくポンポンと手を乗せた。
「あ、ありがとうございます……」
頬を染めながら、ウィルセアがはにかんだ。
夏の傾きかけた日差しに彼の微笑む顔が照らされ、直視すると胸が高鳴る。
やっぱり自分も彼が好きで、それゆえ彼のために働いているのだと再確認した。
見返りなど求めてはいないが、それでも――こうして時々とはいえ自分に触れてくれることが嬉しくて。
叶わないことはわかっているものの、その先を夢見てしまうときがあることは避けられなかった。
「ああーっ!!」
それをかき消すように、エミリスが叫んだ。
「どうした、エミー!?」
「あの……パラソルが……無いんです」
パラソルを目印にして、その下に荷物を埋めていたのだが、風で飛んでしまって場所がわからなくなってしまったようだった。
「……あの中に入ってたのは着替えくらいとはいえ、無いと困るな」
荷物がなければ水着から着替えられない。
埋めた直後は砂の色が変わっていたが、時間が経ってそれもわからなくなってしまっていた。
「うう……。片っ端から掘りましょうか……」
肩を落とすエミリスに、アティアスは首を振った。
「流石にそこら全部穴ぼこだらけにする訳にもいかんだろ」
「ですかねぇ……。申し訳有りません……」
「宿に帰ったら着替えもあるし、このまま行くしかないか。……ウィルセア、大丈夫か?」
アティアスはウィルセアを心配して声を掛けた。
「ええ。少し恥ずかしいですけど、幸い宿は海の近くですから」
「すまないな」
謝るアティアスを遮って、エミリスが頭を下げた。
「ウィルセアさん、ごめんなさい。なにかお詫びしますから……」
「いえ、お詫びなんて……」
そう言いかけたウィルセアだったが、ふと思いついて答えた。
「あの……ゾマリーノのあと、ゼバーシュやトロンに寄りたいのですが構いませんか?」
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