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第12章 領主の日常
第167話 水着選び
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「んー。この空気、久しぶりですねっ!」
予定通りゾマリーノに着き、白いミニワンピースを着たエミリスは、大きく息を吸い込んで感慨深げに言った。
真夏ではあるが、海の近くということもあるのか、普段居るウメーユよりは風が冷たく感じた。
「海の近くって、独特の香りがありますね」
ウィルセアも薄着だが、エミリスよりは落ち着いた格好――白いシャツに紺色のジャンパースカートを身に着けていて、ブロンドの長髪が風に揺らめいていた。
「とりあえず宿を確保しよう。以前空いてなくて困ったからな」
「そうですね。……私は前泊まったところにもう一度お願いしてもいいですけどね」
アティアスの提案に、エミリスが以前泊まった食堂の2階のことを持ち出した。
しかし、彼は首を振った。
「あそこは1部屋しかないからな。ウィルセアが困るだろ?」
「あ……確かにそうですね」
彼の話を理解したエミリスが頷くと、ウィルセアは首を傾げた。
「別に私は同じ部屋でも構いませんよ?」
「――だ、ダメですよっ! ウィルセアさんには見せられませんっ!」
そう言ってエミリスは全力で否定した。
◆
「結局どこも空いてなかったですねぇ……」
エミリスはそう呟きながらも、以前泊めてもらった料理屋の空き部屋の窓を開けた。
「まぁ、夏の大休暇だからな。どこも人が多いのは仕方ないか」
「そうですね。急な旅行でしたし。……でもここも十分な部屋だと思いますわ」
今は皆が休暇を取る時期だということもあって、旅行者が溢れていた。
仕方なくアティアスが料理屋の主人に事情を相談すると、二つ返事で部屋を開けてくれることになった。
「アティアス様、お昼はどうします?」
お腹を空かせたエミリスが聞くと、アティアスが腕を組んで考える。
「そうだな……。今日はいい天気だし、午後からは海で泳ぎたいな。その前に水着を買わないとだから、そのあたりで何か食べるかな。ここの店は夜で良いだろ」
「水着……ですか? どんなものなんです?」
詳しく知らないエミリスが首を傾げた。
「海で泳ぐ時に着る専用の服ですわ。私も以前来た時に買いましたけど、もう着れませんから、新しいのが要りますね」
「普通の服と何か違うんです?」
「服は水で濡れると張り付いて泳ぎにくいからな。水着は元々体にぴったりしてるんだ」
アティアスが答えると、エミリスは合点がいったようだった。
「あ、確かに前海に落ちたとき、動きにくかったですね。まぁ、私は海の中でも魔力で動けますし、あんまり気にしませんでしたけど」
「エミリスさんって、空だけじゃなくて海の中でも大丈夫なんですか?」
ウィルセアが驚いて聞くと、エミリスは胸を張った。
「ふふー。魔力で風船みたいに壁作ったら、海の中でも息できますし、好きに移動できますよっ」
「すごいですわ……」
「どっちにしても普通の服じゃ目立って仕方ないからな。とりあえず昼食べてから店に行こう。この街以外じゃ、水着とか売ってないからな」
他の街で売っていないのは、当然需要がないからだ。
ここエルドニアでは海以外で泳ぐことは稀だった。なので、水着が買えるのは、需要がある港町くらいだ。
「了解ですー」
「わかりましたわ」
アティアスの話に2人は頷いた。
◆
「み、水着って……ほとんど下着じゃないですか……っ!」
軽く昼食を済ませたあと、水着を売っている店に入ったときの、エミリスの第一声はそれだった。
並んでいる水着の布の面積を見ると、エミリスには今自分が身に付けている下着と変わらないように思えた。
「水着ですから、そんなものですわ。砂浜に行くと、みんな同じ格好ですから気にならないです」
「そんなものなんですか……? 私は気になりますよぅ……」
「でしたら、こういうもう少し地味なものもありますわ」
そういってウィルセアは少し離れた場所に陳列されていた、ワンピースタイプの水着を指差して説明した。
「なるほど。……ところで、ウィルセアさんはどういうのを買うんです?」
「うーん、私はこんな感じのが良いかなと思っていますわ」
そう言ってウィルセアが手に取ったのは、真っ赤なビキニタイプの水着だった。
エミリスはそれを見て、ごくりと唾を飲み込んだ。
(ウィルセアさんがこれを着ると……どう考えても目立ちますねぇ……。むむむ……)
金髪で年齢以上にスタイルが良いウィルセアが、こんな派手な水着を着れば絶対に目立つのは間違いない。
自分はあまり肌を見せたくないが、アティアスの視線がウィルセアに集中するのは、なんとなく嫌だった。
「なるほど……。私はどうしようかなぁ……」
平静を装いつつ、エミリスは店内を物色する。
恥ずかいのはもう我慢するとして、彼に気に入ってもらえそうな水着がないものかと……。
(あ……。これどうかな……?)
そう思って手に取ったのは、薄い緑の水着だが、セパレートではなく、上下が何箇所かで繋がっているデザインのものだった。ビキニほどではないが、ワンピースほど地味ではないという、間を取ったようなものだ。
いまいち自分が着ているイメージが湧かないが、どうせどれを選んでもそれは同じであり、エミリスは直感で選んだその水着を買うことにした。
予定通りゾマリーノに着き、白いミニワンピースを着たエミリスは、大きく息を吸い込んで感慨深げに言った。
真夏ではあるが、海の近くということもあるのか、普段居るウメーユよりは風が冷たく感じた。
「海の近くって、独特の香りがありますね」
ウィルセアも薄着だが、エミリスよりは落ち着いた格好――白いシャツに紺色のジャンパースカートを身に着けていて、ブロンドの長髪が風に揺らめいていた。
「とりあえず宿を確保しよう。以前空いてなくて困ったからな」
「そうですね。……私は前泊まったところにもう一度お願いしてもいいですけどね」
アティアスの提案に、エミリスが以前泊まった食堂の2階のことを持ち出した。
しかし、彼は首を振った。
「あそこは1部屋しかないからな。ウィルセアが困るだろ?」
「あ……確かにそうですね」
彼の話を理解したエミリスが頷くと、ウィルセアは首を傾げた。
「別に私は同じ部屋でも構いませんよ?」
「――だ、ダメですよっ! ウィルセアさんには見せられませんっ!」
そう言ってエミリスは全力で否定した。
◆
「結局どこも空いてなかったですねぇ……」
エミリスはそう呟きながらも、以前泊めてもらった料理屋の空き部屋の窓を開けた。
「まぁ、夏の大休暇だからな。どこも人が多いのは仕方ないか」
「そうですね。急な旅行でしたし。……でもここも十分な部屋だと思いますわ」
今は皆が休暇を取る時期だということもあって、旅行者が溢れていた。
仕方なくアティアスが料理屋の主人に事情を相談すると、二つ返事で部屋を開けてくれることになった。
「アティアス様、お昼はどうします?」
お腹を空かせたエミリスが聞くと、アティアスが腕を組んで考える。
「そうだな……。今日はいい天気だし、午後からは海で泳ぎたいな。その前に水着を買わないとだから、そのあたりで何か食べるかな。ここの店は夜で良いだろ」
「水着……ですか? どんなものなんです?」
詳しく知らないエミリスが首を傾げた。
「海で泳ぐ時に着る専用の服ですわ。私も以前来た時に買いましたけど、もう着れませんから、新しいのが要りますね」
「普通の服と何か違うんです?」
「服は水で濡れると張り付いて泳ぎにくいからな。水着は元々体にぴったりしてるんだ」
アティアスが答えると、エミリスは合点がいったようだった。
「あ、確かに前海に落ちたとき、動きにくかったですね。まぁ、私は海の中でも魔力で動けますし、あんまり気にしませんでしたけど」
「エミリスさんって、空だけじゃなくて海の中でも大丈夫なんですか?」
ウィルセアが驚いて聞くと、エミリスは胸を張った。
「ふふー。魔力で風船みたいに壁作ったら、海の中でも息できますし、好きに移動できますよっ」
「すごいですわ……」
「どっちにしても普通の服じゃ目立って仕方ないからな。とりあえず昼食べてから店に行こう。この街以外じゃ、水着とか売ってないからな」
他の街で売っていないのは、当然需要がないからだ。
ここエルドニアでは海以外で泳ぐことは稀だった。なので、水着が買えるのは、需要がある港町くらいだ。
「了解ですー」
「わかりましたわ」
アティアスの話に2人は頷いた。
◆
「み、水着って……ほとんど下着じゃないですか……っ!」
軽く昼食を済ませたあと、水着を売っている店に入ったときの、エミリスの第一声はそれだった。
並んでいる水着の布の面積を見ると、エミリスには今自分が身に付けている下着と変わらないように思えた。
「水着ですから、そんなものですわ。砂浜に行くと、みんな同じ格好ですから気にならないです」
「そんなものなんですか……? 私は気になりますよぅ……」
「でしたら、こういうもう少し地味なものもありますわ」
そういってウィルセアは少し離れた場所に陳列されていた、ワンピースタイプの水着を指差して説明した。
「なるほど。……ところで、ウィルセアさんはどういうのを買うんです?」
「うーん、私はこんな感じのが良いかなと思っていますわ」
そう言ってウィルセアが手に取ったのは、真っ赤なビキニタイプの水着だった。
エミリスはそれを見て、ごくりと唾を飲み込んだ。
(ウィルセアさんがこれを着ると……どう考えても目立ちますねぇ……。むむむ……)
金髪で年齢以上にスタイルが良いウィルセアが、こんな派手な水着を着れば絶対に目立つのは間違いない。
自分はあまり肌を見せたくないが、アティアスの視線がウィルセアに集中するのは、なんとなく嫌だった。
「なるほど……。私はどうしようかなぁ……」
平静を装いつつ、エミリスは店内を物色する。
恥ずかいのはもう我慢するとして、彼に気に入ってもらえそうな水着がないものかと……。
(あ……。これどうかな……?)
そう思って手に取ったのは、薄い緑の水着だが、セパレートではなく、上下が何箇所かで繋がっているデザインのものだった。ビキニほどではないが、ワンピースほど地味ではないという、間を取ったようなものだ。
いまいち自分が着ているイメージが湧かないが、どうせどれを選んでもそれは同じであり、エミリスは直感で選んだその水着を買うことにした。
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