上 下
168 / 250
第11章 その後

第163話 叙爵

しおりを挟む
「よく来たな、アティアス」

 半年ぶりに王都に来たアティアス達を王都の門で出迎えたのは、ワイヤードだった。
 馬車を降り、彼に向き合う。

「またしばらく世話になるよ」
「女王も楽しみにしてるよ。……エミリスもどうだ? 元気にしてたか?」
「はい、忙しくてあっという間でしたけど……」

 そう言って彼女も実の父親の彼に頭を下げる。

「そうか。それは良かった。……髪はそのままで良いのか?」
「今のところは。もう慣れてますし。……どうして来るのがわかったんですか?」
「ふ、相変わらずお前の魔力が駄々漏れだからな。……そっちの娘もそこそこの魔力があるみたいだな。アティアスよりは多い」

 そう言ってワイヤードはウィルセアを見た。

「お久しぶりです。ワイヤードさん」

 彼女が頭を下げると、ワイヤードは首を傾げた。

「ん、どこかで会ったか? すまんが覚えてなくてな」
「いえ、ほんの少しお見かけしただけですから。……私はウィルセア・マッキンゼと申します。最近、お二方にお世話になっております」
「なるほど、マッキンゼ子爵の娘か。……確かにヴィゴールと居たな。すまなかった」

 ワイヤードは小さく手を上げて謝意を示す。

「いえ、置き物のように座っていただけですから。……アティアス様から教えていただきましたが、あなたがその……エミリスさんの……?」
「そうか、2人に信頼されてるようだな。……その通りだ。娘を頼む」
「はい。お任せください」

 ウィルセアはそう言って頭を下げた。
 3人に向かってワイヤードは言った。

「まぁこんなところではなんだ。時間があったら王宮に来てくれ。女王も楽しみにしてるよ。あと、確かマッキンゼ子爵も既に来ていたはずだ。どこかで会うだろう」
「お父様が?」
「ああ。……それじゃあな」

 ワイヤードはそう言うと、ふっと姿がかき消えた。
 アティアス達はもう慣れたものだが、初めて見たウィルセアは目を丸くした。

「え、いなくなりましたよ? どうなってるんですか?」
「元々そこにはいなかったんだ。魔力で作り出した幻影……らしい。そう聞いた」
「そんなことが……。エミリスさんもできるんですか?」

 ウィルセアがエミリスに聞く。

「いえ、全然やり方わかりません。教えてもらったらできるかもしれませんけど……」
「エミーはぶっ壊すのは得意なんだけどな」
「うーん、そんなつもりはないんですけどねぇ……」

 エミリスは彼の話に苦い顔をした。

「はは。それができたら、他の町にわざわざ顔を出さなくても情報収集できるんだけどな」
「あ、確かにそうですね。テンセズに頻繁に行くの、結構大変なんですよね」
「と言っても、飛んでいけばすぐだけどな。……さ、もう行こう」
「はーい」

 アティアスに促され、頷いたふたりは改めて馬車に乗り込んだ。

 ◆

「アティアス・ヴァル・ゼルム。貴方にメラドニア女王エレナの名において、ウメーユ男爵位を与えます。……よろしく」
「は、光栄の極みです」

 建国記念の式典の中、アティアスは女王エレナから叙爵され、証としての証書を受け取る。
 爵位名は分かりやすく、治める中心地のウメーユから取られることになっていた。

 今回、叙爵されたのは彼だけだが、他に功績のあった者に対する叙勲も同時に行われるため、拍子抜けするほどあっという間に終わった。
 恐らく、エレナもそれを見越して、この日を選んだのだろう。

 エミリスとウィルセアは、少し離れたところから、前に並ぶ彼を見ていた。

「私、初めてこういう式典に出たんですけど、意外とあっさりなんですね……」
「そうですね。みんな楽しみにしてるのは、このあとのパーティですよ。美味しい料理、食べ放題ですから」
「それは……アティアス様に聞いてましたが、楽しみですね」
「そうですね。私もお父様と以前一緒に来たときは、疲れてすぐ寝てしまったので……」

 2人は小さな声で耳打ちしながら笑う。
 この式典が終われば、晴れてアティアスは男爵となり、次はウメーユに帰っての就任式だ。
 その前にパーティでお腹いっぱい食べるのを楽しみにしていた。

「なら、一緒に料理を食べ切りましょうね」
「はい。エミリスさんにはとても敵いませんが、がんばります」

 ◆

 式典が終わり、パーティが大広間で開始された。

「ウィルセア、元気にしてるか?」
「お父様! はい、毎日楽しくやってます。お父様は?」
「はは、お前がいないから少し寂しいな。……まぁ、早いか遅いかの違いだけだが」

 正装して3人が立っていると、そこにヴィゴールが来てウィルセアに声をかけた。
 次にアティアスに向き合うと、右手を差し出す。

「アティアス殿。おめでとうございます。これから期待していますよ」
「ヴィゴール殿……。ありがとうございます。ウィルセア嬢をお借りして申し訳ありません」
「ははは。離れて見ていましたが、楽しそうにやっていたので安心しました。……少し、心配はしていたので」

 ヴィゴールがそう言って笑う。

「お父様、心配はご無用ですわ。アティアス様は当然ですが、エミリスさんもすごく尊敬できる方ですので、お二人に良くしていただいて毎日充実しています」
「……そうか。お前もだいぶ成長したな。またウメーユに遊びに行くよ。……そうだ、収穫祭の時がいいな」
「ふふ、エミリスさんの食べっぷりを見たら驚きますよ?」

 ウィルセアが笑う。
 しかしヴィゴールは苦笑いして答えた。

「ははは、実は去年の収穫祭にエミリス殿は来ていてな。その時にもう見たよ」
「あ、そうなんですか。あれ、私も行きたかったのに……」
「すまんな。あの時は色々あってな」

 残念がるウィルセアに申し訳なさそうにヴィゴールが言う。
 ちょうどゼバーシュとのゴタゴタがあったころだからだろうか。

「ええ承知しております。ですから、今年は是非」
「ああ。今年はもうお前達の主催だからな。盛り上げてやってくれ。アティアス殿、頼みますよ」
「もちろんです。……このエミーに葡萄の大食いで勝ったら賞金、などいかがでしょうか、ははは」

 アティアスがそう言って笑う。
 それを聞いてエミリスは胸を張った。

「ふふ、誰にも賞金あげませんよ。逆に私が勝ったら、アティアス様に何かしていただきましょうかね」
「それは俺の分が悪いな……」

 頭を掻くアティアスにヴィゴールは「ははは」と笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】飯屋ではありません薬屋です。

たちばな樹
ファンタジー
両親が亡くなり王都で薬師をする兄を頼りに引っ越した妹は兄と同居して毎日料理を作る。その美味しい匂いの煙は隣接する警備隊詰所に届く。そして美味しい匂いに釣られる騎士達。妹視点、兄視点、騎士視点それぞれであります。ゆるい話なので軽く読み流してください。恋愛要素は薄めです。完結しております。なろうにも掲載。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...