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第11章 その後
第161話 仲間
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「ウィルセアさん。『様』はやめてくださいって」
エミリスが頭を下げた彼女に抗議する。
それに対して、ウィルセアが戸惑う。
「いえ、しかし……」
「アティアス様からも仰ってくださいよ」
エミリスがアティアスに言うが、彼は頭を掻きながら返した。
「あのなぁ、俺が何度もやめろって言っても聞かないエミーのセリフじゃないぞ、それは」
「う……。そうかもしれませんけど、私は嫌なんですぅ」
頑固に拒否するエミリスに、ウィルセアは小さく笑った。
「ふふ、わかりましたわ。エミリスさんが呼んでほしい呼び方で呼ぶようにしますね」
「ふわぁ! 話がわかるのはありがたいですー。……さ、早く食べましょう。また温めないといけなくなります」
「はい、そうですね」
そう言うと、ウィルセアはまた席に着き、スプーンを手に取った。
◆
「それで……女王様の、と言うのは理解しましたわ。でも、成長が遅いのはなぜですか? 女王様は普通の人ですよね」
昼食を終えたあと、ウィルセアが聞く。
「ああ、それは女王とは関係なくて、エミーの父親のせいなんだ。父親がな、魔人なんだ。あの……」
「魔人というと……伝説の?」
「その伝説の、だ。ミニーブルにも来ただろ? 王都の宮廷魔導士が。ワイヤードって名前の」
ウィルセアはその時のことを思い出しながら頷いた。
「はい。若い男の魔導士でしたよね。覚えていますわ」
「彼がエミーの父親だ」
「…………?!?」
さっきから想像もつかないことばかりで、ウィルセアの脳内が混乱してきた。
年齢以上にしっかりしている彼女だが、さすがに限界だった。
「いえ、ちょっと待ってください。すごく若かったですよ、まだ30歳くらいの!」
「だから、魔人は普通の人より長生きらしい。彼も100歳超えてるらしいぞ」
「…………つまり? ええっと……。40年前に産まれた、女王様とその方の娘が、エミリスさんってことです……?」
整理した彼女に、2人は頷いた。
「驚いたか?」
「はい……。それはもう。……産まれて一番驚いた日かもしれませんわ」
ようやくひと息つき、ウィルセアは落ち着いたようだった。
「まぁ、私はそんなの気にしませんし、アティアス様のお近くでお仕えできればそれで良いんです。……そもそも1年前、アティアス様に救い出していただけていなければ、今の私はありません。ずっとテンセズで奴隷みたいな生活をしていたか、もしかしたら今頃自殺していたかもしれません……」
エミリスはしみじみと思い返しながら言った。
それを聞いて、ウィルセアはあまりに複雑な彼女の生い立ちと、これまでの人生を思うと涙が出てきた。
「……すごく、大変だったんですね。全然知りませんでしたわ。それなのに、私がこんな……かき回すようなことを。……本当に申し訳ありません」
どれほどの苦労を重ねて生きてきて、そして彼女の今があるのか。
ぬくぬくと生きてきた自分が、安易に首を突っ込んでいい話とは、とても思えなかった。
「……気にしないでください。私にもあるように、ウィルセアさんにもあなたにしかない人生があります。……だから、精一杯生きるのは当然のことですから」
「エミリスさん……」
優しく微笑むエミリスに、ウィルセアは全てにおいてとても敵わないと悟った。
そして女王の娘という肩書きだけではなく、彼女本人の力になりたいと素直に思えた。
「まぁそう言うわけで、この辺の話は秘密でお願いしますね」
「はい……。お二人のために全力を尽くします。よろしくお願いします」
そう言って、ウィルセアはもう一度ふたりに深く頭を下げた。
◆
「で、これが私の一番得意な料理なんですー」
夕食もエミリスが担当した。
それをウィルセアが手伝いながら、彼女の手際の良さをしっかりと観察する。
「なるほど。勉強になりますわ……」
「城の料理人とかのやり方は分かりませんけど、たぶん量が多いんですよね。そうなると結構手順とか変わってくるので……」
「確かに……」
火加減や下茹でなど、量が多いとそれ相応のコツが必要になる。
これから領地を持つとなると、エミリスはそういう料理を作る必要も感じていた。
「お城持ったら、そういう料理人も雇わないといけないですねぇ……」
流石に自分1人で、パーティでの大量の料理を作るのは無理だ。
なによりも、パーティに出ないといけない自分が調理を担当するのは無理だ。それはウィルセアも同じだった。
「そうですね。ミニーブルから何名か声をかけましょう。私の先生なら、お付き合いも長いですし」
「それはありがたいですー」
厨房から楽しそうに話をしているのを、少し離れたところでアティアスは聞いていた。
ウィルセアに細かいところまで話すのは賭けでもあったが、むしろわだかまりも解けてエミリスと仲良くしているのを嬉しく思う。
「はーい、できましたよー」
そう言って厨房から2人が食事を持って出てくる。
テーブルにはエミリスが以前話していた、経産鶏のワイン煮込みがメインで置かれる。
そして、それ以外にも多くの副菜が並べられた。
「今日は豪勢だな」
「ふふ、パーティですから。半分くらいはウィルセアさんが作ったんですよ」
「エミリスさんのようにうまくはいきませんけど……よろしければ」
照れながら言うウィルセアが可愛らしく笑った。
「それじゃ、冷める前に食べようか。……エミーは飲むのか?」
「飲めないウィルセアさんには申し訳ないですけど……飲みます」
アティアスが持つワインの瓶を見て、エミリスはごくりと喉を鳴らした。
◆
「ふにゃぁ……。あてぃあすさまぁ……」
しばらくして、完全に出来上がったエミリスは、まだ食事をしているアティアスの背中に抱きついて呟いていた。
彼は慣れたものだが、ウィルセアはそれを見て頬を染めて呟く。
「エミリスさん……お酒には相変わらずですわね……」
「そうだな。お酒は大好きなんだけどな、絶望的に弱い」
「それも含めて、私から見ても可愛らしいお方ですね、強いところもありますが」
ウィルセアはしみじみと呟いた。
「ああ。……ただ、強そうに見えても、心はガラスのように繊細で弱いんだ。……俺と初めて会ったときは、もうヒビが入ってた。だから俺は守ってあげたいと思ったし、幸せにしてあげたいって思ったんだ」
アティアスは、自分を暗殺するために、彼女が初めて部屋に来た時のことを思い出していた。
そのとき「私を殺して」と言って、蹲って泣いた彼女の表情が、今でもはっきりと目に浮かぶ。
ウィルセアは彼の言葉に頷いた。
「わかります。私も力になりますから、ご安心ください」
エミリスが頭を下げた彼女に抗議する。
それに対して、ウィルセアが戸惑う。
「いえ、しかし……」
「アティアス様からも仰ってくださいよ」
エミリスがアティアスに言うが、彼は頭を掻きながら返した。
「あのなぁ、俺が何度もやめろって言っても聞かないエミーのセリフじゃないぞ、それは」
「う……。そうかもしれませんけど、私は嫌なんですぅ」
頑固に拒否するエミリスに、ウィルセアは小さく笑った。
「ふふ、わかりましたわ。エミリスさんが呼んでほしい呼び方で呼ぶようにしますね」
「ふわぁ! 話がわかるのはありがたいですー。……さ、早く食べましょう。また温めないといけなくなります」
「はい、そうですね」
そう言うと、ウィルセアはまた席に着き、スプーンを手に取った。
◆
「それで……女王様の、と言うのは理解しましたわ。でも、成長が遅いのはなぜですか? 女王様は普通の人ですよね」
昼食を終えたあと、ウィルセアが聞く。
「ああ、それは女王とは関係なくて、エミーの父親のせいなんだ。父親がな、魔人なんだ。あの……」
「魔人というと……伝説の?」
「その伝説の、だ。ミニーブルにも来ただろ? 王都の宮廷魔導士が。ワイヤードって名前の」
ウィルセアはその時のことを思い出しながら頷いた。
「はい。若い男の魔導士でしたよね。覚えていますわ」
「彼がエミーの父親だ」
「…………?!?」
さっきから想像もつかないことばかりで、ウィルセアの脳内が混乱してきた。
年齢以上にしっかりしている彼女だが、さすがに限界だった。
「いえ、ちょっと待ってください。すごく若かったですよ、まだ30歳くらいの!」
「だから、魔人は普通の人より長生きらしい。彼も100歳超えてるらしいぞ」
「…………つまり? ええっと……。40年前に産まれた、女王様とその方の娘が、エミリスさんってことです……?」
整理した彼女に、2人は頷いた。
「驚いたか?」
「はい……。それはもう。……産まれて一番驚いた日かもしれませんわ」
ようやくひと息つき、ウィルセアは落ち着いたようだった。
「まぁ、私はそんなの気にしませんし、アティアス様のお近くでお仕えできればそれで良いんです。……そもそも1年前、アティアス様に救い出していただけていなければ、今の私はありません。ずっとテンセズで奴隷みたいな生活をしていたか、もしかしたら今頃自殺していたかもしれません……」
エミリスはしみじみと思い返しながら言った。
それを聞いて、ウィルセアはあまりに複雑な彼女の生い立ちと、これまでの人生を思うと涙が出てきた。
「……すごく、大変だったんですね。全然知りませんでしたわ。それなのに、私がこんな……かき回すようなことを。……本当に申し訳ありません」
どれほどの苦労を重ねて生きてきて、そして彼女の今があるのか。
ぬくぬくと生きてきた自分が、安易に首を突っ込んでいい話とは、とても思えなかった。
「……気にしないでください。私にもあるように、ウィルセアさんにもあなたにしかない人生があります。……だから、精一杯生きるのは当然のことですから」
「エミリスさん……」
優しく微笑むエミリスに、ウィルセアは全てにおいてとても敵わないと悟った。
そして女王の娘という肩書きだけではなく、彼女本人の力になりたいと素直に思えた。
「まぁそう言うわけで、この辺の話は秘密でお願いしますね」
「はい……。お二人のために全力を尽くします。よろしくお願いします」
そう言って、ウィルセアはもう一度ふたりに深く頭を下げた。
◆
「で、これが私の一番得意な料理なんですー」
夕食もエミリスが担当した。
それをウィルセアが手伝いながら、彼女の手際の良さをしっかりと観察する。
「なるほど。勉強になりますわ……」
「城の料理人とかのやり方は分かりませんけど、たぶん量が多いんですよね。そうなると結構手順とか変わってくるので……」
「確かに……」
火加減や下茹でなど、量が多いとそれ相応のコツが必要になる。
これから領地を持つとなると、エミリスはそういう料理を作る必要も感じていた。
「お城持ったら、そういう料理人も雇わないといけないですねぇ……」
流石に自分1人で、パーティでの大量の料理を作るのは無理だ。
なによりも、パーティに出ないといけない自分が調理を担当するのは無理だ。それはウィルセアも同じだった。
「そうですね。ミニーブルから何名か声をかけましょう。私の先生なら、お付き合いも長いですし」
「それはありがたいですー」
厨房から楽しそうに話をしているのを、少し離れたところでアティアスは聞いていた。
ウィルセアに細かいところまで話すのは賭けでもあったが、むしろわだかまりも解けてエミリスと仲良くしているのを嬉しく思う。
「はーい、できましたよー」
そう言って厨房から2人が食事を持って出てくる。
テーブルにはエミリスが以前話していた、経産鶏のワイン煮込みがメインで置かれる。
そして、それ以外にも多くの副菜が並べられた。
「今日は豪勢だな」
「ふふ、パーティですから。半分くらいはウィルセアさんが作ったんですよ」
「エミリスさんのようにうまくはいきませんけど……よろしければ」
照れながら言うウィルセアが可愛らしく笑った。
「それじゃ、冷める前に食べようか。……エミーは飲むのか?」
「飲めないウィルセアさんには申し訳ないですけど……飲みます」
アティアスが持つワインの瓶を見て、エミリスはごくりと喉を鳴らした。
◆
「ふにゃぁ……。あてぃあすさまぁ……」
しばらくして、完全に出来上がったエミリスは、まだ食事をしているアティアスの背中に抱きついて呟いていた。
彼は慣れたものだが、ウィルセアはそれを見て頬を染めて呟く。
「エミリスさん……お酒には相変わらずですわね……」
「そうだな。お酒は大好きなんだけどな、絶望的に弱い」
「それも含めて、私から見ても可愛らしいお方ですね、強いところもありますが」
ウィルセアはしみじみと呟いた。
「ああ。……ただ、強そうに見えても、心はガラスのように繊細で弱いんだ。……俺と初めて会ったときは、もうヒビが入ってた。だから俺は守ってあげたいと思ったし、幸せにしてあげたいって思ったんだ」
アティアスは、自分を暗殺するために、彼女が初めて部屋に来た時のことを思い出していた。
そのとき「私を殺して」と言って、蹲って泣いた彼女の表情が、今でもはっきりと目に浮かぶ。
ウィルセアは彼の言葉に頷いた。
「わかります。私も力になりますから、ご安心ください」
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