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第11章 その後
第153話 和解
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「新年の式典ってどんなことするんですか?」
ノードと別れたあと、ぐるっと露店を周ってお腹を満たしてから、一度家に帰って仮眠を取った。
そして、今は新年の式典に参加するため、城に向かっているところだった。
「いや、大したことはないよ。親父の挨拶とかがあって、あとは重臣や付近の街から町長か代理の人と、立食で雑談するような感じだ」
「ふむふむ……。近隣の領地からは来ないんですか?」
「どこの領地でも同じようなことやってるから、ほとんど来ないな。だから安心して良い」
その話を聞いて、エミリスは安堵した。
ただでさえ人が多いところは苦手なのだ。
「それならよかったです。晩餐会と似た感じですね」
「ああ、そう思ってくれて構わない」
城に着くと、軽く挨拶して着ていたコートを預けた。
もちろん城にも更衣室はあるが、2人は家から正装した上でコートを着て登城していた。
これはできるだけアティアスを1人にさせないためでもある。
「アティアス様、新年おめでとうございます」
「ああ、おめでとう」
「おめでとうございます」
エミリスは彼の腕にそっと手を添えて、ほんの少し後ろを歩く。
出会う兵士が2人に挨拶をするたびに、軽く返しながら大広間に向かった。
「よお、アティアス。今年は帰ってきたか」
「トリックス兄さん。ギリギリだけどね。つい昨日帰ってきたばかりだよ」
途中の廊下で三兄のトリックスにばったりと顔を合わせた。
いつもは黒いローブに身を包んでいるが、今日はもちろん正装してきていた。
「いつも神出鬼没だな。……まぁ、これからはそうもいかないんだろうが」
「そうだな。兄さんにも迷惑かけるけどよろしく頼むよ」
「気にするな。大した迷惑がかかってるわけじゃないしな。これからも大して変わらないだろ」
トリックスが軽く笑う。
「そういや、ミニーブルからセリーナが来てるんだよな。どうだ、彼女は?」
マッキンゼ卿がゼルム家と友誼を結んだことで、魔法石の研究のために、それを開発したセリーナがここゼバーシュに来ているという話を聞いていた。
アティアス達がいたのが短かったことで、直接顔を合わせてはいなかったのだ。
「ああ、彼女は凄いな。俺が困ってたところを、思いもしなかったやり方で解決してたみたいだ。勉強になったよ」
「そうなのか。ってことは、ゼバーシュも魔法石が使えることになったのか?」
「そうだ。ただ、あれは危険すぎるからな。マッキンゼ卿とも相談して、非常時以外は兵士には持たせないことにしたんだ。盗まれたり落としたりするだけでも脅威だからな」
「確かにな。俺もその方がいいと思うよ」
確かにその通りだとアティアスも感じた。
誰にでも簡単に強力な魔法が使えるというのは、もし悪用する者に渡ると危険だと思っていた。
そのとき、3人に声がかけられた。
「アティアスさん、エミリスさん。お久しぶりです」
「……セリーナさん」
エミリスが振り返ると、そこに立っていたのは先ほどまで話に上がっていたセリーナだった。
ミニーブルでのウィルセアの誕生パーティの時と似た、青いドレスを纏っていた。
「……先日は申し訳ありませんでした。許してほしいなどと厚かましいことは申しません。恐らく顔も見たくないと思っておられるでしょうが、一言……それだけは伝えないと思いまして」
セリーナはそう言うと、2人に向き合って深々と頭を下げ続けた。
その様子を見たエミリスはアティアスと目を合わせて、小さく頷き、そして口を開いた。
「……セリーナさん。あの時のあなたの気持ちもよくわかります。アティアス様を刺されて、私もあの時はものすごくあなたを恨んで、仕返しをしようとしたんですから。でもそれじゃダメだって思って……」
あの時のことを回想しながら、エミリスはセリーナに考えを伝える。
最初こそ彼を刺されて激昂していたが、考えれば考えるほどセリーナの想いが理解できてしまって、エミリス自身も辛くなってしまった。
「エミリスさん……」
セリーナは予想外の返答に呆然と呟く。
そんな様子の彼女に、エミリスは真剣な顔で言う。
「だから、私も謝ります。理由はどうあれ、セリーナさんの大切な人を殺してしまったのは私ですから。……ごめんなさい」
そして彼女も同じように頭を下げた。
「エ、エミリスさん! こんなところで私なんかに……!」
セリーナは慌ててエミリスを静止する。
ここはゼバーシュの城で、セリーナは諍いの責任を取るためにここに来ているということを、セリーナ自身が弁えていたからだ。
顔を上げたエミリスは少し笑顔を見せて言った。
「これで痛み分けにしていただけると、私も嬉しいです」
セリーナはしばらく呆然としていたが、うっすら涙を滲ませて呟いた。
「ありがとうございます……!」
◆
「式典って意外とあっさりなんですね」
「そりゃ、新年早々に時間たっぷり使うとあとが詰まってるからな」
新年の式典が終わり、城から帰ってきた2人は正装から着替えた。
何も言わなくてもエミリスはいつものようにさっとお茶を淹れて、アティアスに差し出した。
「はい。どーぞ」
「ありがとう。……今日いつもと違ったのは、前で挨拶させられたくらいだな」
「ふふ。私が壇上に呼ばれなくてよかったです」
式典の中で、父のルドルフから叙爵の話が切り出され、協力を求める依頼を出してくれたのだ。
その中でアティアスも簡単に経緯と抱負を説明することになった。
身近な人たちは事前に聞いてはいただろうが、初耳の者も多かったようで、大きなサプライズになったようだった。
「さすがに親父も配慮してくれたんだろ」
「でしょうね。……それにしても、セリーナさんと話ができてよかったです」
彼女は式典の前にセリーナと会った時のことを思い浮かべながら話した。
「ああ。あの感じだと、彼女に来てもらうのも1つの案だと思うけど、どう思う?」
「うーん……」
エミリスは首を傾げながら考える。
やはりまだ頻繁には顔を合わせたくないのだろうかと、アティアスは思った。
「私としては、来てくれるならそれでも良いんですけど……。たぶん、セリーナさんはゼバーシュにいた方が良い気がしました」
「それはどうしてだ?」
「はっきりとは言えないんですけど、強いて言えば女の勘ってやつです」
そう言いながらエミリスは含み笑いを見せた。
「よくわからんが、まぁいいか」
「はい、私もよくわからないのですよ。……ただ、なんとなくそう感じたんです」
ノードと別れたあと、ぐるっと露店を周ってお腹を満たしてから、一度家に帰って仮眠を取った。
そして、今は新年の式典に参加するため、城に向かっているところだった。
「いや、大したことはないよ。親父の挨拶とかがあって、あとは重臣や付近の街から町長か代理の人と、立食で雑談するような感じだ」
「ふむふむ……。近隣の領地からは来ないんですか?」
「どこの領地でも同じようなことやってるから、ほとんど来ないな。だから安心して良い」
その話を聞いて、エミリスは安堵した。
ただでさえ人が多いところは苦手なのだ。
「それならよかったです。晩餐会と似た感じですね」
「ああ、そう思ってくれて構わない」
城に着くと、軽く挨拶して着ていたコートを預けた。
もちろん城にも更衣室はあるが、2人は家から正装した上でコートを着て登城していた。
これはできるだけアティアスを1人にさせないためでもある。
「アティアス様、新年おめでとうございます」
「ああ、おめでとう」
「おめでとうございます」
エミリスは彼の腕にそっと手を添えて、ほんの少し後ろを歩く。
出会う兵士が2人に挨拶をするたびに、軽く返しながら大広間に向かった。
「よお、アティアス。今年は帰ってきたか」
「トリックス兄さん。ギリギリだけどね。つい昨日帰ってきたばかりだよ」
途中の廊下で三兄のトリックスにばったりと顔を合わせた。
いつもは黒いローブに身を包んでいるが、今日はもちろん正装してきていた。
「いつも神出鬼没だな。……まぁ、これからはそうもいかないんだろうが」
「そうだな。兄さんにも迷惑かけるけどよろしく頼むよ」
「気にするな。大した迷惑がかかってるわけじゃないしな。これからも大して変わらないだろ」
トリックスが軽く笑う。
「そういや、ミニーブルからセリーナが来てるんだよな。どうだ、彼女は?」
マッキンゼ卿がゼルム家と友誼を結んだことで、魔法石の研究のために、それを開発したセリーナがここゼバーシュに来ているという話を聞いていた。
アティアス達がいたのが短かったことで、直接顔を合わせてはいなかったのだ。
「ああ、彼女は凄いな。俺が困ってたところを、思いもしなかったやり方で解決してたみたいだ。勉強になったよ」
「そうなのか。ってことは、ゼバーシュも魔法石が使えることになったのか?」
「そうだ。ただ、あれは危険すぎるからな。マッキンゼ卿とも相談して、非常時以外は兵士には持たせないことにしたんだ。盗まれたり落としたりするだけでも脅威だからな」
「確かにな。俺もその方がいいと思うよ」
確かにその通りだとアティアスも感じた。
誰にでも簡単に強力な魔法が使えるというのは、もし悪用する者に渡ると危険だと思っていた。
そのとき、3人に声がかけられた。
「アティアスさん、エミリスさん。お久しぶりです」
「……セリーナさん」
エミリスが振り返ると、そこに立っていたのは先ほどまで話に上がっていたセリーナだった。
ミニーブルでのウィルセアの誕生パーティの時と似た、青いドレスを纏っていた。
「……先日は申し訳ありませんでした。許してほしいなどと厚かましいことは申しません。恐らく顔も見たくないと思っておられるでしょうが、一言……それだけは伝えないと思いまして」
セリーナはそう言うと、2人に向き合って深々と頭を下げ続けた。
その様子を見たエミリスはアティアスと目を合わせて、小さく頷き、そして口を開いた。
「……セリーナさん。あの時のあなたの気持ちもよくわかります。アティアス様を刺されて、私もあの時はものすごくあなたを恨んで、仕返しをしようとしたんですから。でもそれじゃダメだって思って……」
あの時のことを回想しながら、エミリスはセリーナに考えを伝える。
最初こそ彼を刺されて激昂していたが、考えれば考えるほどセリーナの想いが理解できてしまって、エミリス自身も辛くなってしまった。
「エミリスさん……」
セリーナは予想外の返答に呆然と呟く。
そんな様子の彼女に、エミリスは真剣な顔で言う。
「だから、私も謝ります。理由はどうあれ、セリーナさんの大切な人を殺してしまったのは私ですから。……ごめんなさい」
そして彼女も同じように頭を下げた。
「エ、エミリスさん! こんなところで私なんかに……!」
セリーナは慌ててエミリスを静止する。
ここはゼバーシュの城で、セリーナは諍いの責任を取るためにここに来ているということを、セリーナ自身が弁えていたからだ。
顔を上げたエミリスは少し笑顔を見せて言った。
「これで痛み分けにしていただけると、私も嬉しいです」
セリーナはしばらく呆然としていたが、うっすら涙を滲ませて呟いた。
「ありがとうございます……!」
◆
「式典って意外とあっさりなんですね」
「そりゃ、新年早々に時間たっぷり使うとあとが詰まってるからな」
新年の式典が終わり、城から帰ってきた2人は正装から着替えた。
何も言わなくてもエミリスはいつものようにさっとお茶を淹れて、アティアスに差し出した。
「はい。どーぞ」
「ありがとう。……今日いつもと違ったのは、前で挨拶させられたくらいだな」
「ふふ。私が壇上に呼ばれなくてよかったです」
式典の中で、父のルドルフから叙爵の話が切り出され、協力を求める依頼を出してくれたのだ。
その中でアティアスも簡単に経緯と抱負を説明することになった。
身近な人たちは事前に聞いてはいただろうが、初耳の者も多かったようで、大きなサプライズになったようだった。
「さすがに親父も配慮してくれたんだろ」
「でしょうね。……それにしても、セリーナさんと話ができてよかったです」
彼女は式典の前にセリーナと会った時のことを思い浮かべながら話した。
「ああ。あの感じだと、彼女に来てもらうのも1つの案だと思うけど、どう思う?」
「うーん……」
エミリスは首を傾げながら考える。
やはりまだ頻繁には顔を合わせたくないのだろうかと、アティアスは思った。
「私としては、来てくれるならそれでも良いんですけど……。たぶん、セリーナさんはゼバーシュにいた方が良い気がしました」
「それはどうしてだ?」
「はっきりとは言えないんですけど、強いて言えば女の勘ってやつです」
そう言いながらエミリスは含み笑いを見せた。
「よくわからんが、まぁいいか」
「はい、私もよくわからないのですよ。……ただ、なんとなくそう感じたんです」
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