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第10章 王都にて
第138話 黒幕
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2人はいったんワイヤードと別れ、宿に戻って着替えることにした。
詳しくは着替えたあとで、詰め所にて話すことになっていた。
「何があったんだ?」
破れたドレスを脱いで、シャワーを浴び、普段着へと着替えたエミリスに聞く。
彼女は思い詰めたような表情で答えた。
「……魔法が、効かなかったんです……」
「効かない? エミーの魔法を弾くほどの奴がいたってことか?」
アティアスの言葉に彼女はかぶりを振った。
「いえ、弾くのならまだわかります。そうじゃないけど、効かなかったんです。説明するのが難しいんですけど、発動する前に消えちゃうような……?」
「よくわからないけど、ドワーフの森で魔法が使えなくなった時みたいな?」
「うーん、近いような近くないような。魔法自体は使えるんですけどね。……あー、よく分からないです!」
困った顔をして彼女は天井を見上げる。
「そうか……。でもエミーが逃げられて良かったよ」
「本当に。すごく怖かったんですから……」
そう言いながら、ベッドに座る彼の膝の上に、向かう合うように座った。
泣きそうな顔で、そのまま彼の背中に手を回して胸に顔を埋める。彼の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「んぅ……。もう会えないかもって思いましたよぅ……」
珍しく弱気な様子を見ると、よほど怖かったのだろうと思う。
そんな彼女の背中に手を回し、小さな身体をしっかり抱きしめた。
「あぁ……落ち着きますねぇ。……やっぱりアティアス様の側じゃないと、私もうダメになっちゃってるみたいです」
昨日彼女が囮となって1人で行動を始めてから、丸一日ほど。
よくよく考えると、彼女と出会ったテンセズを出てから、これほど長く別行動をとったことは一度もなかった。
離れていたとしても、せいぜい数時間ほど。それほどずっと一緒にいたのか。
「俺も一緒にいるのが当たり前すぎて、久しぶりに1人で寝たらなかなか寝られなかったよ」
「もしかして心配してくれたんですか? 私は疲れてたからよく寝ましたけどね。ふふ……」
抱き合ったまま、彼女はアティアスの顔を見上げ、そのまま唇を合わせた。
「……本当はこのまま抱いていただきたいんですけど、ワイヤードさんをあまり待たせるわけにもいきませんし。……行きましょうか」
「ああ。また夜にな」
「はい。全力で楽しみにしてますね」
彼女はそう言いながら、嬉しそうにもう一度キスをした。
◆
「……なるほど。それはよく逃げられたな。褒めてやる」
エミリスの説明を聞いたワイヤードは、褒めてるのかよくわからない口調で答えた。
「ワイヤードさんは、その男に心当たりがあるんですか?」
彼なら知っているような気がして、なんとなく聞くと、ワイヤードは珍しく真剣な顔を見せた。
「ああ。確実だとは言えないが、恐らく。もしそれが相手なら俺では歯が立たん。なにしろ、魔法は効果がないし、剣の腕も並ぶ者がないほどだ」
「……剣? さっきはナイフ持ってましたけど……」
エミリスが疑問に思って聞く。
「運が良かったな。剣を持っていたら、逃げることもできなかっただろ」
苦い顔で言うワイヤードに、アティアスは問う。
「……で、その相手は誰なんだ?」
ワイヤードはしばらく逡巡したあと、重い口を開いた。
「俺の知る限り、該当するのは1人しかいない。……ここ王都の第一王子、ビズライト殿下だ」
その名を聞いた2人は絶句する。
ワイヤードが知っているという話から、有名な人物なのだろうことは薄々気づいていたが、まさか王族だとは予想していなかった。
しばらくして、アティアスがようやく口を開く。
「……厄介だな、それは」
ワイヤードが頷く。
それを聞いていたエミリスがアティアスに聞いた。
「……このメラドニアを治めてるのって、確か女王でしたよね?」
「ああ。エレナ女王だ。もうかなりご高齢だけどな」
「となると、次はそのビズライトって方が後継なんですよね?」
「順当にいけばそうなるだろうな」
「嫌な感じですね……。私、顔見られてますし、髪の色でも。それにいずれは私たちのことも情報が伝わるでしょうから、王都を離れても……」
不安そうな顔をして、彼女が考え込む。
王子が奴隷商に絡んでいるのであれば、アティアス達の情報が王都に入ったあと、何らかの手を打ってくることを危惧していた。
「そうだな。仮に王から呼び出されたりしたら、従わない訳にもいけないしな。……かなりまずいことになったな」
2人の話を聞いていたワイヤードが話す。
「……実は、普段俺はそのエレナ女王の警護をしてるんだ。この話を女王が聞くと、間違いなくお怒りになるだろう。……彼女も奴隷商をなんとかしようとしてる1人だからな。相談してくるから、少し待ってくれ」
ワイヤードはそう言うと、目を閉じて黙ってしまった。
「……あれって、また分身体使ってるんでしょうかね……?」
「さぁな……」
エミリスが小声でアティアスに耳打ちするが、彼には正直よく分からなかった。
しばらくしてワイヤードが顔を上げた。
「……女王が明日お会いになるそうだ。詳しくはその時だ。場所は俺が案内するから、宿で待っていてくれ」
「俺たちなんかがお会いしても構わないのか?」
「心配するな。……むしろお前たちだから、だ」
「いまいちよく分からんが……わかった。待ってるよ」
◆
「女王様ってどんな方なんですか?」
宿に戻り、ベッドに腰をかけたエミリスが聞く。
「正直、俺もほとんど知らないんだ。式典のときに顔は何度か見たことがあるけど、話したことはないし」
「そう簡単に会えるような方じゃないんですね」
「ああ。確か、エレナ女王は先王の王妃でな。王が若くして亡くなって即位したんだ。ただ、子供がいなくて、王子は女王の甥だったはず」
「へぇ……。再婚はされなかったんですね」
「エレナ女王は王の血筋じゃないからな。だから再婚して子供を作るのを避けたって話を聞くよ。先王に兄弟がいたってのもあるだろうし」
「なんか大変ですねぇ……」
そう呟きながら、彼女はアティアスの手を引いて、自分の横に座らせた。
そのまま横になって、彼の膝に頭を乗せながら、下から彼の顔を見上げた。
「……でも、もしアティアス様がいなくなったら、私も同じことすると思いますよ」
「物騒なこと言うなよ……」
彼は彼女の髪を指で梳きながら、苦笑いした。
「ふふ、ご心配なく。いつでも私がついてますから」
撫でられて気持ちよさそうにしながら、エミリスは目を閉じた。
アティアスがしばらくそのまま優しく撫でていると、彼女は程なく寝息を立て始めた。
疲れていたのか、それとも安心して気が抜けたのか。
起こしてしまわないように気をつけて、そっとベッドに寝かせた。
詳しくは着替えたあとで、詰め所にて話すことになっていた。
「何があったんだ?」
破れたドレスを脱いで、シャワーを浴び、普段着へと着替えたエミリスに聞く。
彼女は思い詰めたような表情で答えた。
「……魔法が、効かなかったんです……」
「効かない? エミーの魔法を弾くほどの奴がいたってことか?」
アティアスの言葉に彼女はかぶりを振った。
「いえ、弾くのならまだわかります。そうじゃないけど、効かなかったんです。説明するのが難しいんですけど、発動する前に消えちゃうような……?」
「よくわからないけど、ドワーフの森で魔法が使えなくなった時みたいな?」
「うーん、近いような近くないような。魔法自体は使えるんですけどね。……あー、よく分からないです!」
困った顔をして彼女は天井を見上げる。
「そうか……。でもエミーが逃げられて良かったよ」
「本当に。すごく怖かったんですから……」
そう言いながら、ベッドに座る彼の膝の上に、向かう合うように座った。
泣きそうな顔で、そのまま彼の背中に手を回して胸に顔を埋める。彼の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「んぅ……。もう会えないかもって思いましたよぅ……」
珍しく弱気な様子を見ると、よほど怖かったのだろうと思う。
そんな彼女の背中に手を回し、小さな身体をしっかり抱きしめた。
「あぁ……落ち着きますねぇ。……やっぱりアティアス様の側じゃないと、私もうダメになっちゃってるみたいです」
昨日彼女が囮となって1人で行動を始めてから、丸一日ほど。
よくよく考えると、彼女と出会ったテンセズを出てから、これほど長く別行動をとったことは一度もなかった。
離れていたとしても、せいぜい数時間ほど。それほどずっと一緒にいたのか。
「俺も一緒にいるのが当たり前すぎて、久しぶりに1人で寝たらなかなか寝られなかったよ」
「もしかして心配してくれたんですか? 私は疲れてたからよく寝ましたけどね。ふふ……」
抱き合ったまま、彼女はアティアスの顔を見上げ、そのまま唇を合わせた。
「……本当はこのまま抱いていただきたいんですけど、ワイヤードさんをあまり待たせるわけにもいきませんし。……行きましょうか」
「ああ。また夜にな」
「はい。全力で楽しみにしてますね」
彼女はそう言いながら、嬉しそうにもう一度キスをした。
◆
「……なるほど。それはよく逃げられたな。褒めてやる」
エミリスの説明を聞いたワイヤードは、褒めてるのかよくわからない口調で答えた。
「ワイヤードさんは、その男に心当たりがあるんですか?」
彼なら知っているような気がして、なんとなく聞くと、ワイヤードは珍しく真剣な顔を見せた。
「ああ。確実だとは言えないが、恐らく。もしそれが相手なら俺では歯が立たん。なにしろ、魔法は効果がないし、剣の腕も並ぶ者がないほどだ」
「……剣? さっきはナイフ持ってましたけど……」
エミリスが疑問に思って聞く。
「運が良かったな。剣を持っていたら、逃げることもできなかっただろ」
苦い顔で言うワイヤードに、アティアスは問う。
「……で、その相手は誰なんだ?」
ワイヤードはしばらく逡巡したあと、重い口を開いた。
「俺の知る限り、該当するのは1人しかいない。……ここ王都の第一王子、ビズライト殿下だ」
その名を聞いた2人は絶句する。
ワイヤードが知っているという話から、有名な人物なのだろうことは薄々気づいていたが、まさか王族だとは予想していなかった。
しばらくして、アティアスがようやく口を開く。
「……厄介だな、それは」
ワイヤードが頷く。
それを聞いていたエミリスがアティアスに聞いた。
「……このメラドニアを治めてるのって、確か女王でしたよね?」
「ああ。エレナ女王だ。もうかなりご高齢だけどな」
「となると、次はそのビズライトって方が後継なんですよね?」
「順当にいけばそうなるだろうな」
「嫌な感じですね……。私、顔見られてますし、髪の色でも。それにいずれは私たちのことも情報が伝わるでしょうから、王都を離れても……」
不安そうな顔をして、彼女が考え込む。
王子が奴隷商に絡んでいるのであれば、アティアス達の情報が王都に入ったあと、何らかの手を打ってくることを危惧していた。
「そうだな。仮に王から呼び出されたりしたら、従わない訳にもいけないしな。……かなりまずいことになったな」
2人の話を聞いていたワイヤードが話す。
「……実は、普段俺はそのエレナ女王の警護をしてるんだ。この話を女王が聞くと、間違いなくお怒りになるだろう。……彼女も奴隷商をなんとかしようとしてる1人だからな。相談してくるから、少し待ってくれ」
ワイヤードはそう言うと、目を閉じて黙ってしまった。
「……あれって、また分身体使ってるんでしょうかね……?」
「さぁな……」
エミリスが小声でアティアスに耳打ちするが、彼には正直よく分からなかった。
しばらくしてワイヤードが顔を上げた。
「……女王が明日お会いになるそうだ。詳しくはその時だ。場所は俺が案内するから、宿で待っていてくれ」
「俺たちなんかがお会いしても構わないのか?」
「心配するな。……むしろお前たちだから、だ」
「いまいちよく分からんが……わかった。待ってるよ」
◆
「女王様ってどんな方なんですか?」
宿に戻り、ベッドに腰をかけたエミリスが聞く。
「正直、俺もほとんど知らないんだ。式典のときに顔は何度か見たことがあるけど、話したことはないし」
「そう簡単に会えるような方じゃないんですね」
「ああ。確か、エレナ女王は先王の王妃でな。王が若くして亡くなって即位したんだ。ただ、子供がいなくて、王子は女王の甥だったはず」
「へぇ……。再婚はされなかったんですね」
「エレナ女王は王の血筋じゃないからな。だから再婚して子供を作るのを避けたって話を聞くよ。先王に兄弟がいたってのもあるだろうし」
「なんか大変ですねぇ……」
そう呟きながら、彼女はアティアスの手を引いて、自分の横に座らせた。
そのまま横になって、彼の膝に頭を乗せながら、下から彼の顔を見上げた。
「……でも、もしアティアス様がいなくなったら、私も同じことすると思いますよ」
「物騒なこと言うなよ……」
彼は彼女の髪を指で梳きながら、苦笑いした。
「ふふ、ご心配なく。いつでも私がついてますから」
撫でられて気持ちよさそうにしながら、エミリスは目を閉じた。
アティアスがしばらくそのまま優しく撫でていると、彼女は程なく寝息を立て始めた。
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