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第9章 ドワーフの村

第130話 再訪

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「はふー、昨日の分まで食べましたー。お腹いっぱいです」

 王都の宿に戻って風呂で汗を流したあと、昼食に出かけた。
 かつてない量の食事を蓄えたエミリスは、お腹を押さえて満足気に呟いた。

「それ本当か⁉︎ ここ安いし、遠慮せずに食べてもいいんだぞ?」

 驚くアティアスに、彼女は顔をしかめて答えた。

「むむー、私だって限度はありますよ。……ほら、お腹パンパンでしょう?」
「いや、いつもと同じにしか……」

 彼女のお腹を触ってみるが、特に何も変わった様子はない。
 とはいえ、満足したのならそれはそれで良いことだ。
 アティアスは続ける。

「そうか……。このあとクレープでもって思ったんだけど、残念だな」

 それを聞いた彼女は顔色を変えた。

「ちょ、ちょっと待ってください! ク、クレープは食べたいですっ!」
「お腹いっぱいじゃ食べれないだろ?」
「そんなことないですっ! クレープは別ですっ!」

 甘いものは彼女にとって別らしい。
 しかし、アティアスもすぐにスイーツを食べるのは少し厳しい。

「まぁ、それは後にしよう。先にギルドに行ってからな」
「はいっ! でもクレープも忘れないでくださいよっ」

 元気に答えた彼女を連れて、次はギルドに向かうことにした。

 ◆

「と言うわけで、この依頼を受けたいんだが」

 アティアスは先日掲示板で見た、ドワーフの村へ材料を届ける依頼の紙を指し示して、受付のマーガレットに話しかけた。

「あら、こんにちは。えっと、この依頼って結構な量の材料をお願いすることになるんですけど、お二人で運べますか? 普通は5人くらいは欲しいところですけど……」

 彼女は依頼の内容を知っているのだろう。
 困惑しながら2人に確認をした。

「結構な量ってどのくらいだ? ある程度なら運べると思うけど……」

 アティアスが聞く。
 よほどの量じゃなければ、エミリスが軽々と運んでくれることもあって、それほど心配していなかったが、それを超えるような量だと荷物持ちを雇うか、何回かに分けて運ばないといけない。

「ええっと、私が聞いてるのは大人2人くらいの重さだったかなと」

 マーガレットの答えに、アティアスはエミリスに確認する。

「エミー、そのくらい運べるか?」
「まぁ大丈夫じゃないですかね。たぶん……」

 想像しながら彼女は答えた。
 それらを持ち上げつつ、森まで飛べるのかと心配にはなるが、彼女ができるというならできるのだろう。

「とりあえず試してみたい。ダメなら人を雇うよ。よろしく」
「わかりました。ではギルドから手配しますね。……いつ出発しますか?」
「明日にでも」
「はい。それじゃ、持っていってもらうものを、明日の朝にはギルドに届けてもらうように手配しますね」
「よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 頭を下げるマーガレットに手を挙げて、2人はギルドを出た。

 ◆

「で、これがその材料か……」

 翌朝、改めてドワーフの村に出発するためにギルドを訪れた2人は、準備されていた剣を作るための材料を見て呟いた。

「思ってたより、小さいですね」

 袋に入れられて床に置かれたその材料は、リュックで背負えるほどの大きさだった。
 とはいえ、中に入っているのは金属であり、重量は相当なものだ。

「2人で大丈夫ですか……? かなり重いですよ?」

 心配そうにマーガレットが聞く。
 試しにアティアスが持ち上げようと試みるが、僅かに地面から浮かせることができた程度で、彼1人で運ぶことはとても無理だと思えた。

「ちょっとこういう塊は苦手なんですよね……」

 次にエミリスがそう言いながら、その材料に手をかける。
 普通ならとてもその細腕では持ち上がらないのだろうが、「よいしょ」と声を出しただけで、それを片手で持ち上げてしまった。
 その光景に、マーガレットはあんぐりと口を開けて呆けていた。

「うん、このくらいなら大丈夫ですね。よかった」
「え……え……? どうなってるの? ……あなた、オーガか何か……?」

 呆然とするマーガレットに、エミリスは答えた。

「いえ、ふつーの魔導士ですよ。魔法でちょっと軽くしただけです」
「な、なるほど……」

 アティアスは心の中で『絶対にふつーじゃない……』と呟きながらも、あえて口には出さずに頷いた。

「アティアス様。それじゃ、行きましょうか」
「そうだな。さっさと行って帰りたい。じゃ、行ってくる」

 2人はマーガレットに軽く言って、ギルドを後にした。

 王都を出て、街道を歩きながらアティアスは彼女に問う。

「でもそれ持ったままで飛べるのか?」
「ええ、このくらいなら、ゆっくり飛べばたぶん大丈夫ですよ。持ってるように見えて、力は全然入ってませんから」

 そう言いながら、彼女は材料の袋から手を離して、目の前で浮かべて見せた。

「前にヘルハウンド運んだときと、それほど重さ変わらない気もするが……」
「んー、やっぱりあれの方が重かったんじゃないですかね? それにあの時と今だと、使える魔力が全然違いますから」

 確かにあの時はまだ彼女の手に紋様があって、魔力が制限されていたように思えた。
 今はそれもない。

「そうか。そろそろ飛ぶか?」
「ですねー。周りに人もいなくなりましたし、行きましょうか」

 そう言うと、アティアスの手を取って、地面からわずかに浮かび上がる。
 傍目からは飛んでいるようには見えないが、地面を滑るように移動するその光景を目にすると、恐らく皆が驚くだろう。

「魔力の量はどうだ?」
「満タンとは言えないですけど、村に着くくらいまでなら保ちますよ。……でも、入り口あたりで少し休憩したいですね」
「わかった。それでいこう」

 もう2度目ということもあり、前回と同じように森に近づき、入り口の手前で一度降りて休憩をすることにする。
 材料も一度地面に降ろして、魔力を回復させたかった。

「やっぱり魔力が減る方が多いか?」
「みたいです。2人で飛ぶだけならなんとでもなりますけど、これだけ重いと何時間もは辛いですね。それに周囲の警戒にも魔力は使ってますから」

 それに彼女は突然の襲撃などにも備えて、四六時中、防御魔法も張っているはずだ。
 ほとんど無意識にそれだけのことをこなしているのには、頭が下がる。

「どのくらいで回復するんだ?」
「そうですね……。たぶん30分くらいかなと」
「それじゃ、それまでクッキーでも食べようか」
「はいっ! いっぱい持って来ましたからね」

 材料のほかに、前回と同じように食料なども持って来ている。
 それらを減らすともっと楽に移動できたのかもしれないが、何があるかわからないからだ。

 とはいえ、その多くは彼女の胃袋に入るものだと言うことは、特筆しておくべきことかもしれない。
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