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第9章 ドワーフの村

第129話 依頼

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 ドワーフの村は、森の中でそこだけ陽が入るように、木々が切り倒されて作られていた。
 そして、周囲を囲むように木で作られた塀が張られていた。

 村の入り口は閉ざされていたが、呼び鈴の代わりだろうか、ご丁寧にも外から鳴らせる鐘がぶら下げられている。

「これ鳴らせば気づいてくれるのかな?」
「ですかねぇ……?」

 2人は顔を見合わせてから、その鐘のロープに手を伸ばし、3回響かせてみた。

「……あ、動きがあったみたいです」

 まだ何も見えないが、彼女が言ってほどなく、若いドワーフ族と思われる男が1人、姿を見せた。
 ぼさっとした頭を掻きながら、男は入り口の向こう側からアティアスに聞く。

「……人間が来るのは半年ぶりだな。村に何の用だ?」
「突然訪れてすまない。1本の剣を修理して欲しくて来た。……これは紹介状だ。確認して欲しい」

 アティアスはスティーブからの紹介状を荷物の中から取り出して、入り口の隙間から手渡した。
 受けとった男は、中の文を確認する。

「ほう。嘘じゃないみたいだな。確かにドワーフの文字だ。……村長に聞いてくる」
「よろしく頼む」

 紹介状を読んだ男は、そう言って村の中に戻っていった。

「取り継いでくれますかねぇ?」
「大丈夫じゃないか? ……それにここで門前払いされたらどうやって帰るんだ?」
「えぇ……。また道に迷うのは勘弁して欲しいです……」

 ひたすらぐるぐる森の中を歩き回った昨日を思い出して、エミリスは暗い顔を見せる。
 せめて食料と水を調達できないと、あと何日も持たない。特にこの森の中では、魔法で水を作ったり火を起こしたりできないのが大きな問題だった。

「あ、戻って来ましたよ」

 顔を上げると、先ほどの若いドワーフと、もう少し年長と思われるドワーフが2人でこちらに近づいてきた。
 年長のドワーフが話しかけてきた。

「わざわざドワーフの村まで来るとは、最近の若者とは思えんな。手紙は読ませてもらった。スティーブが見間違えるとは思えないが、念のため修理したい剣とやらを見せてくれ」

 アティアスはエミリスの剣をドワーフに手渡す。
 それをじっくりと眺めてから、アティアスに返した。

「……確かに親父の打った剣に間違いないな。どうやって壊したのかわからんが」

 『親父』ということは、このドワーフが剣を打ったと言うギーグ師匠の息子なのだろうか。
 アティアスが問う。

「それで、直してもらうことはできるか?」
「親父に聞いてみるが、まぁ大丈夫だろう」

 それを聞いて2人は胸を撫で下ろす。
 そのためにここ王都まで来たのだから。

「修理代はいくらくらい支払えばいい?」
「使い道がないから金はそんなに要らないが……別に頼みたいことがある」

 ドワーフの男が曇った顔で言う。

「……頼みたいこととは?」

 ◆

「むむー。やっぱり依頼受けて来たら良かったですねぇ……」
「そうだなぁ……」

 2人はドワーフの村から王都に帰りながら溢した。

 ドワーフの依頼とは、王都から剣を打つための材料をもって来て欲しい、と言うものだった。
 材料をもらって剣や防具を作り、その一部を材料の見返りとして送る、というシステムになっているようだった。
 このところ、王都からの資材が届かなくなり、新しい武器を作るための材料が枯渇しているようで、それを届けてくれることが修理の条件となった。

「まぁいいじゃないか。森の入り口までの細かい地図をもらったことだし。それに材料持ってこれだけ歩くってのは無理だったろ」
「そうですね。……まさか、木に目印が付いてたって、全く気づきませんでしたよ」

 ドワーフに聞くと、実は分かれ道などの主要な木には、ドワーフ語の目印が付けられていて、それを見ると迷わずに来ることができるらしい。
 アティアス達にはその文字は読めないが、地図に記された文字と照合することで、大体の場所がわかるようにしてくれたのだ。

「お、もうそこ出口じゃないか?」
「ええぇ……。たった1時間で森抜けちゃいましたよ? 昨日あれだけ歩いたのって、ほんとなんだったんでしょうか……?」

 地図を辿れば、あっという間に森を抜けてしまった。
 迷っていた場所から村までかなり歩いたことを考えれば、相当森の奥まで迷い込んでしまっていたようだ。

「それじゃ、まずは宿に帰って風呂と食事をするか」
「ですねー」

 森から少し離れるところまで歩くと、エミリスはいつものように彼を抱き抱えて飛ぶ。
 制限がかかっていたのがなくなり、自由に魔法が使えるのは気分がいい。魔法が使えなかった頃は気にしたこともなかったけれど、一度使えるようになってからだと、あれほど足枷を付けられていたように感じるのか。

「はー、気持ちいいですー」
「人がいないのちゃんと確認しておけよ?」
「はーい」

 気持ちよく飛べるのに気を良くして、いつもより少し速めに飛ぶ。
 あまり速すぎると息がしづらいのだが、それにもだいぶ慣れた。

「そろそろ降りますー」

 あっという間に王都の近くまで辿り着き、人目に付かない街道の脇道に降り立つ。
 あとは歩いて行くことになるが、王都はもう見えている距離だった。

「それにしても便利だな」
「ふふー。私もついに番犬からお馬さんに昇格ですか?」

 彼女が笑いながら、上目遣いで彼の顔を覗き込む。

「いやいや、馬なんて比較にならないだろ。見たことないけど、ドラゴン並じゃないか?」
「ドラゴン……。神話の?」
「一応、話じゃ世界に何体かいるらしいぞ? 本物が……」
「へぇ……」

 神話だと大空を駆け、ひと吹きで街を滅ぼすほどの力があると言う。

「エミーだって空飛んで、魔法一発で小さな町を滅ぼすくらいのことはできるだろ? それならドラゴン並じゃないか」
「いやいやいや。小さな宿場町くらいならともかく、テンセズくらいの大きさだって、一発じゃ無理ですって」

 慌てて否定するが、実際その神話のドラゴンに近いくらいのことはやってのけるだろう。

「それはともかく、だ。お腹空かせたエミーに早く何か食べさせてあげないとな」
「ふふふ。実はもうお腹ペコペコなんですよ、私」
「知ってる。むしろよく我慢したな。褒めてやる」

 お腹を押さえる彼女の頭を撫でると、嬉しそうに笑顔を見せた。
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