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第8章 王都への道のり

第113話 鑑定

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「本当に申し訳ありませんでした……」

 風呂から上がっても、エミリスはペコペコと頭を下げ続けていた。

「別に大した被害じゃないし良いって。家を吹っ飛ばしたりしなければ……」
「はうぅ……」

 ちょっと強めに頭をぐりぐりと撫でる。
 恐縮しっぱなしの彼女は見ていて面白い。

「それで、だ」
「は、はいっ!」

 アティアスが話し始めると、彼女は背筋をピンと伸ばして返事をする。
 よほど堪えたようだった。

「だからそんな仰々しくしなくていいって。ほら……」

 ぐいっと彼女を抱き寄せて、頬に軽くキスをすると、少し肩の力が抜けたように感じた。
 ただ、そのままぎゅっと抱きついてきて、離してはくれそうになかった。
 そのまま耳元で話す。

「この前割れたって言ってたエミーの剣だけど、直せないか調べたいんだけど、どうかな?」
「んー、直せるのであれば直したいですね。でも可能なんでしょうか?」
「作った職人なら簡単だろうけど、他の人だと難しいかもな。なにしろドワーフの作った剣だから……」

 彼女の剣はテンセズで買った剣だが、珍しいドワーフ族の作った剣だった。
 滅多に出回らない品が手に入ったことが奇跡的だが、それ故に修理するのも一苦労なのだ。

「ドワーフってこの辺りにいるんですか?」

 彼女が素朴な疑問を聞く。

「俺も会ったことはないんだよ。でも、噂だと王都の工房には何人か職人がいるらしいぞ」
「王都ですか。……スイーツも美味しそうだし、一度は行ってみたいと思いますが」

 ただ、王都はかなり遠い。エミリスが飛んでいったとしても丸1日かかるだろう。

「急いで行っても馬で2週間はかかるからな。なにかついででもあればとは思うけど……」
「ですねぇ……。修理のためだけには遠すぎます。急がないですし、機会があれば、くらいで良いのではないでしょうか」

 彼に買ってもらった剣ということもあり、早く修理したい気持ちはあるが、それでも王都は遠すぎた。

「それはそうと、そろそろ離れないのか?」
「え、嫌です」

 ずっと抱きついたままの彼女に言うが、即答で拒否された。

「……なんでだ?」
「なんで離れないといけないんです?」

 理由を質問すると逆に質問で返されてしまう。

「なんでと言われても理由はないけど……」
「なら私がくっついてたいのでー」

 彼女は胸に顔を埋めてぐりぐりとしてくる。
 しかし、ずっとこのまま立っている訳にもいかない。

「……そろそろ朝食にしたいんだが?」
「むぅ。名残惜しいですけど、仕事はちゃんとしなければなりませんね……。では、しばらくお待ちくださいませ」

 彼女はそう言うと、いそいそと厨房に向かった。

 ◆

「とりあえず、ゼバーシュにも鍛冶屋はあるから、一度相談に行ってみよう」
「承知しました」

 エミリスを連れて、城の近くに工房を構える鍛冶屋に向かう。

「ここの店が腕は一番かな。城の兵士の武器もよく依頼しているんだ。……ちょっと愛想は悪いけどな」
「へえー。そうなんですね。……あっ! クレープ食べても良いですか? 良いですよね!」

 歩きながらたまたまクレープ店の前を通ったこともあって、つい目が奪われてしまう。
 ただ、彼が返事をする前に彼女はもう注文していた。

「相変わらずだな……」

 満足そうにクレープを頬張る彼女を見ると、あまりにも嬉しそうでアティアスも頬が緩む。

「やっぱりここのクレープが美味しいですー」

 鍛冶屋に向かって歩きながら、2個目のクレープを食べていた。

「ほら、もう着くぞ。そこだ」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ」

 慌てて残りのクレープを口に突っ込んで、頬っぺたが膨らんでいた。
 別にそんなに急がなくてもいいのだが、その様子を見て笑ってしまう。

「ははは、慌てると喉に詰まるぞ。そのくらい待つから……」

 彼女が食べ終わるのを待ってから、鍛冶屋の工房の入り口をくぐった。

 ◆

「あん、ルドルフのせがれか。久しぶりだな。……なんか用か?」

 2人が工房に入ると、40代くらいの髭面の男が、完成した大剣を検品しながら、横目でアティアスに声をかけた。
 背はそれほど高くはないが、体格はかなり立派で、筋肉質だった。重いハンマーを日々扱っているからだろうか。

 アティアスに対しても気後れするようなことはなく、子供に話しかけるかのような態度だ。
 ただ、アティアスもそれを気にするような素振りもなく、慣れたものなのだろう。

「ああ、ドグに頼みがあってね。この剣が修理できないかと思って来たんだ」

 そう言ってエミリスから剣を受け取り、机の上に置いた。

「ちょっと座って待っててくれ。今の作業終わったら見るから」
「ああ、頼む」

 そう言って入り口近くにある木製のベンチに腰をかけた。
 エミリスは工房を見渡す。
 中は思っていたよりも広く、材料を置いている場所、炭と思われる燃料を置いてある場所、もちろん窯や完成品を並べている場所など、きちんと整理されていた。
 ドグと呼ばれた男の見かけは大雑把に感じたが、思いのほか繊細なのかもしれない。

 作業の邪魔にならないように、黙って待っていると、検品を終えたのか、木箱に剣を詰めたドグが一息ついてこちらに来た。

「待たせたな。で、この剣か? ちょっと抜くぞ」

 そう言って剣を手に取ると、手慣れた手つきで鞘から抜き放った。
 そして、「ほう」と感嘆の声を上げる。

「テンセズで買った剣だが、その柄の所に宝石があるだろ? それが割れてしまってね」
「なるほど。これか。……確かに割れてるな」

 柄の宝石は幾つものヒビが入り、当初の輝きは失われていた。
 じっくり眺めたドグは剣を鞘に戻して言った。

「これドワーフの作品だろ? しかも多分、あのギーグ師のものだ。……いくらで買った?」
「500万ルドだ」
「へー、それは安いな。その武器屋、損したな。王都に持っていけばその3倍でも売れるぞ、これは」

 ただ、壊れてなければな、と続ける。

「そ、そんなに高いものなんですか……?」
「お嬢ちゃんの剣か? ああそうだ。もうギーグ師も高齢と聞くし、ここまでのものは二度と手に入らないかもしれん」
「そんなに……」

 そんな剣を自分は壊してしまったのかと焦る。

「どっちにしても、ワシでは手も出せん。直すなら王都に行きゃあるいは……」

 やはり王都か。
 しかしそれほど高価なものだと聞いたからには、ますます直さないとまずい気がした。

「王都でも直せない可能性はありますか?」
「かもしれん。ただ、王都の近くの森にドワーフ族の集落があって、ギーグ師もそこにいるはず。詳しい場所はわからんが、見つけられれば直せるだろ」

 いずれにしても、この近辺で直すことはできなさそうだった。

「そうか。じゃ、次の旅はやっぱり王都か。3年ぶりだな……」
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