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第8章 王都への道のり

第110話 開宴

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「で、具体的な作戦とかあるか?」

 いったん食事を終えた3人は作戦会議を始めた。
 アティアスの言葉に、エミリスは考える。

「うーん、外から攻めるか、既成事実を作っちゃうのが手っ取り早いとは思いますけど……」
「そう思って、護衛に付けようと思ったんだけどね……」

 ナターシャの考えたことも一理ある。
 護衛になれば、ほとんど一緒に過ごすことになる。外交のときも同行することになり、チャンスは明らかに増える。

「でも、ミニーブルに行った時も進展はなかったんだろ?」

 アティアスが聞くとナターシャは項垂れる。

「そうなのよ……。絶対手を出してくるって思ったのになぁ……」

 もしかして、鉄板焼きの店に2人で居たのもデートのつもりだったのだろうかと、アティアスは思った。
 それなら邪魔をして申し訳なかったとも。
 
「まぁこういうのは時間かけるより勢いで攻めた方がいいと思う。……例えば同泊しないといけないシチュエーションを作るとか」
「アティアス様は一緒に寝ても抱いてくれなかったですけどね。……私すごく緊張してたのに、ちょっとショックでしたよ」

 エミリスが回想しながら笑う。
 今となっては大したことではないが、その時はかなり悩んでいたのだ。

「それはすまなかったな。……でもその割にぐっすり寝てたじゃないか」

 アティアスは頭を掻く。彼女の気持ちは知っていたものの、彼も本当に良いのか悩んでいたのだ。
 ただ、エミリスからあと一声出していれば違っていたかもしれないが。

「えへへ……。アティアス様が暖かくて」

 頬を染めるエミリスを見て、ナターシャがため息をつく。

「相変わらず仲のよろしいことで。はぁ……」

 とりあえず良い案はすぐには思いつかないので、いったん時間を置くことにした。

「とりあえずなにか考えるよ。……そういや今夜の晩餐会は出るのか?」

 マッキンゼ卿が明日ミニーブルに帰ることになっていて、今晩は彼を交えて夕食を摂ることになっていた。
 もちろん、功労者ということでアティアス達も参加する予定だ。

「ええ、そのつもりよ」
「なるほど。それじゃ、ノードも同席してもらったらどうかな? ……私だけ1人なの恥ずかしいでしょ! ……とか言って」

 ナターシャはしばらく考えて頷く。

「そうね、ああいう場に慣れてもらうのも良いかも」
「じゃ、そういうことで。他にも考えておくから」
「うん、ありがと。今日は帰るわね。……また夜に」
「ああ」

 そう言って席を立つと、ナターシャは帰っていった。

 ◆

「あー、いきなり驚いたよ」

 ほっと一息ついて、アティアスが呟くと、エミリスが頭を下げた。

「私のせいで申し訳ありません」
「誤解も解けたし良いって。……ただ、晩餐会にまでその格好でってのは無しな」
「私もそのくらいはわかりますよー。……ですので着替える前にしっかりご堪能ください」
「そうするよ」

 そう言って彼女を手招きすると、エミリスは彼の膝の上に横向きにちょこんと座る。
 魔力で体重を弄っているのか、殆ど何も乗っていないかのように軽い。
 そんな彼女の髪を指で梳きながら、そっと抱き寄せる。

「エミーの髪はほんと触り心地が良いな」
「ふふ、そんなに手入れしてるわけじゃないんですけどね」

 そう言いながらアティアスの首筋にそっと口付けた。

「それだけ若いってことかな」
「……私の歳、ご存知ですよね?」
「ナターシャに言うと驚くかな?」
「誰でも驚くと思いますよ。……面倒なので言う必要はないと思いますけど」

 笑いながら彼に身を任せる。

 それにしても、ノードのことはいい手はないものか。彼の性格なら、素直に打ち明けるのが一番だと思うが、あの様子のナターシャでは難しそうだ。

「……そうだ、どうせならマッキンゼ卿に一芝居打ってもらうかな」
「一芝居?」
「ああ、少し早めに行って、相談してみよう」
「うーん……はい、わかりました」

 どういうお願いをするのかと、不思議そうな表情を浮かべるエミリスに顔を寄せて、軽く口付けをした。

「ふふ、やっぱりこの服着ると積極的ですね。……ミニーブルでも若い使用人の方をちらちら見てたの、私知ってますからね……?」

 そして小悪魔のように彼女は彼の耳元で囁いた。

 ◆

「マッキンゼ卿、こんばんは」
「よろしくお願いします」

 アティアス達2人は、城の晩餐会の会場である大広間に着くと、まずは主賓のマッキンゼ卿に挨拶をする。
 エミリスは濃緑のカクテルドレスで膝丈ほどのスカートがふわりと広がっていた。アティアスはいつものタキシードという格好だ。

「アティアス様、エミリス様。先日はありがとうございました」

 不意に横から声を声がかけられた。

「ああ、ウィルセア嬢も来られていたんですね。こんばんは」
「はい。父に付いて参りました。一度ゼバーシュにも来てみたかったので、無理を言って……」

 まだエミリスよりも少し幼いウィルセアだが、煌びやかな青いドレスを纏う姿は令嬢として十分な存在感を持っていた。

「会談の間はどうされてたんですか?」
「ゼバーシュの観光をしておりました」

 エミリスが聞くと、彼女はマッキンゼ卿が会談をしている間は街を周っていたらしい。

「そうなんですね。どこか面白いところありました?」

 ウィルセアは少し考えて答えた。

「そうですね。どこも良かったですけど、お化け屋敷って言うんですかね、そこが楽しかったです」
「……お化け屋敷」

 楽しそうにウィルセアが話すのを聞いて、エミリスが顔を青ざめた。

「……? どうかしたんですか?」
「い、いえ……」

 自分はひたすら怖かった記憶しか無い、あのお化け屋敷が楽しかったと聞くと、それが普通なのかと自覚する。

「エミーはな、あのお化け屋敷に行ったとき……むぐ!」

 アティアスが横槍を入れようと口を開いたのを、慌てて手で塞いだ。これ以上恥をかかさないで欲しい。

「その先はなりません……!」

 無理矢理口を塞ぐ彼女の顔は笑顔だが目が怖い。
 彼がコクコクと頷くと、ようやく解放してくれた。

「ふふっ、何かあったんですね。仲が良さそうで本当に羨ましいです」

 笑顔を見せるウィルセアは可愛らしく見えた。

「ウィルセア嬢、こんばんは」

 3人で笑い合っていると、横から女性の声が聞こえた。ナターシャだ。

「ナターシャ様、こんばんは。それと……ええと、そちらの方、確かミニーブルにお越しの際も来ておられましたね? よろしくお願いします」

 ウィルセアは優雅に一礼しつつも、ナターシャに同行する男を見て確認する。

「先日は大変でしたね。ノードと申します。……どうぞお見知り置きを」

 いつものぶっきらぼうな口調とは異なり、丁寧にノードが一礼した。
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