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第1章 テンセズにて
第12話 魔法
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朝食を終えアティアスが出かけたあと、しばらくしてトーレスが家にやってきた。
先ほどのマッサージのことを話すと笑われたが、アティアスのマッサージの効果が無いということはなさそうで安心する。
「じゃあ、まずは魔法を使う前に、魔力を自由に制御する練習から始めよう。それができないと魔法は使えないからね」
そのまま食堂でエミリスを前に講義を始める。
痛い身体を動かさずに済みそうでほっとした。
「例えばここに紙がある。これに息を吹き掛けたら、ひらひらするだろう?」
「……そうですね」
当たり前のことだが、とりあえず頷いておく。
「魔力ってのはこれに少し似ている。元々身体にある魔力を意思で放出して、練習すればそれを自在に動かすことができる。実際に魔法を使う時は、魔力を目標のところに集めるんだ。そうだな……例えば爆発系の魔法なら、爆発させたいところにガスを集めて火をつけるって感じかな」
「ふむふむ」
全く分からないが、ガスの例えはなんとなく理解できた。
「だからまずは自在に魔力を放出して動かせるようにならないといけない。……まずは手本を見せよう」
トーレスはそう言って、三メートルほど離れたところに先ほどの紙を吊るした。
深呼吸してその紙を凝視し集中すると、息を吹き掛けたように紙がひらひらと動き出した。
ちょっとした超能力みたいに思えた。
「魔力をこうやって使うことなんて普通はないんだが、軽いものならこうやって魔力を当てて動かすこともできる」
「使いようによっては結構便利そうですね」
なんだかわくわくする。
しかし、トーレスは苦い顔をして答えた。
「そうかもしれないが……、これは直接魔力を放出してるから消費量が多いんだよ。あまり使うとすぐ魔力を使い切ってしまう」
「そうなんですね……。それで、どうやれば良いのでしょうか?」
少しがっかりするが、とりあえずできるようにならなければ始まらない。
「簡単に見せたが、これは実は結構難しい。すぐにできるようにはならない思う。けれど、これが魔法を覚える最初のステップだから、頑張ってやってみよう」
「はい」
エミリスは真剣な顔で頷く。
「まずは目標に対して身体から風を起こす感じで意識を集中させるんだ。感覚を掴むまで時間がかかるけど、一度覚えたら簡単にできるようになる」
彼女は言われた通りに紙を凝視して、精一杯ひらひらさせようと試みる。
「うー」
唸っても紙は全く動かない。
「こればっかりは説明が難しくてね。なんと言うか、人によっては見えない手を伸ばしていくような感じって言ったりもする」
なるほど……。
エミリスはそちらも試してみる。
すると、紙が一瞬ピクっと動いたように見えた。
「ん? ちょっと動いたかな?」
見間違えかとトーレスが思う。いくらなんでもそんなに早くできるはずがない。
人によっては、これだけで数ヶ月かかってもおかしくないほど難しいことだからだ。今まで意識したことのない魔力を制御するのはそれほど難しい。
エミリスはしっかり動かそうと更に集中する。手で紙の真ん中を叩くような感じをイメージしてみた。
――バンッ!
突然、紙から音がして、手形のような跡が浮き出る。
吊られていた紙は千切れてひらひらと床に落ちた。
トーレスは目を見開いて驚く。
「なんだ今のは⁉︎ まさか……?」
魔力は空気のように薄い。軽い紙を旗めかすくらいならともかく、よほどうまく凝縮しないと物を変形させることなどできないはずだ。
なによりも、練習を始めてまだ5分も経っていないんだぞ……?
魔力検査の結果はミリーから聞いていたが、もしかするとものすごい才能があるのかもしれないと、トーレスは考えた。
平静を装い、少し試してみることにした。
「紙は動かせたな。次はここに石があるだろう? 石に魔力を集中して、動かしてみよう。できるかな?」
「やってみます」
普通なら石のように重たい物を魔力で動かせるはずがない。
だが、紙があれだけ動いたのなら、あるいは……。
エミリスは先ほどと同じように、テーブルに置かれた拳大の石を凝視する。
手で押すようにイメージすると、石はすぐに少しずつ動き始める。
トーレスは更に驚かされた。まさかこれが動かせるのか……。
「むー!」
更に力を込めて、意識を石に集中する。
――バシッ!
突然爆ぜる音がして石が弾け飛び、テーブルから落ちて床に転がった。
トーレスが平静を装いつつも石を拾い上げてみると、何かがぶつかったように石の一部が欠けていた。
「すみません! 集中するのが難しくて……」
慌ててエミリスが頭を下げる。
魔力をぶつけただけで石が欠けると言うことは、弾丸のように圧縮されていたということだ。それはもはや凶器と言っても良いだろう。
信じがたいが、使いようによってはこれだけで大きな武器になる。見えない弾丸など、恐怖でしかない。
結局は魔力をどう使いこなすかだ。こんなことが可能なのか……。
「いや、気にしなくても良い。……それにしても初めてでこれは驚いた。これだけ上手く魔力を扱うのは私でもできない。恐れ入ったよ」
先ほど自分のしたことが、どれほど難しいことなのかわからない彼女は答える。
「ありがとうございます。練習してもっと上手くできるように頑張ります!」
……足手まといになるなんてとんでもない。
育て方を間違ったら、誰よりも恐ろしい存在になるかもしれない。うまくやるようにアティアスには釘を刺しておかないと。
◆
その日は適当に休憩を挟みながら、魔力を扱う練習を続けた。
わかってきたのは、いくら集中しても威力は石を投げつける程度。とはいえ、使いどころによっては有効だった。
あと、魔力を網のように上手く編むことで、軽いものなら持ち上げたりすることができた。
「これ便利ですね!」
手を伸ばす代わりに離れた物を取ってこれることにエミリスは感動していた。
少しなら人の動作を邪魔したりもできるだろうが、ちょっと抵抗になる程度の強度しかなかった。
トーレスにとっては、魔力そのものを使ってこんなことができるなど、そのこと自体が目から鱗のようなことだった。傍目からは超能力のようにしか見えないし、恐らく彼女にしかできないことだろうが……。
いずれにしても、これほどうまく魔力を制御するのは見たことがない。
ただ、ピンポイントに魔力を集めるのを得意とした一方で、一度に多くの魔力を放出することはできなかった。つまりトーレスやアティアスが得意とする広域爆破のような強力な魔法は使えそうにない。
ただ、そこまでできれば次のステップとして、基礎的な魔法を使いこなすことは難しくないだろう。
「それじゃあ、次回の練習では簡単な魔法から初めてみよう」
「わかりました!」
ここまでで今日の練習を切り上げる。
ある程度自由に魔力を制御できるようになるまで、早くとも1か月は掛かると思っていたが、たった一日でここまでできるとは。
私は2か月も掛かったのになぁ……。
トーレスは少し悲しくなった。
先ほどのマッサージのことを話すと笑われたが、アティアスのマッサージの効果が無いということはなさそうで安心する。
「じゃあ、まずは魔法を使う前に、魔力を自由に制御する練習から始めよう。それができないと魔法は使えないからね」
そのまま食堂でエミリスを前に講義を始める。
痛い身体を動かさずに済みそうでほっとした。
「例えばここに紙がある。これに息を吹き掛けたら、ひらひらするだろう?」
「……そうですね」
当たり前のことだが、とりあえず頷いておく。
「魔力ってのはこれに少し似ている。元々身体にある魔力を意思で放出して、練習すればそれを自在に動かすことができる。実際に魔法を使う時は、魔力を目標のところに集めるんだ。そうだな……例えば爆発系の魔法なら、爆発させたいところにガスを集めて火をつけるって感じかな」
「ふむふむ」
全く分からないが、ガスの例えはなんとなく理解できた。
「だからまずは自在に魔力を放出して動かせるようにならないといけない。……まずは手本を見せよう」
トーレスはそう言って、三メートルほど離れたところに先ほどの紙を吊るした。
深呼吸してその紙を凝視し集中すると、息を吹き掛けたように紙がひらひらと動き出した。
ちょっとした超能力みたいに思えた。
「魔力をこうやって使うことなんて普通はないんだが、軽いものならこうやって魔力を当てて動かすこともできる」
「使いようによっては結構便利そうですね」
なんだかわくわくする。
しかし、トーレスは苦い顔をして答えた。
「そうかもしれないが……、これは直接魔力を放出してるから消費量が多いんだよ。あまり使うとすぐ魔力を使い切ってしまう」
「そうなんですね……。それで、どうやれば良いのでしょうか?」
少しがっかりするが、とりあえずできるようにならなければ始まらない。
「簡単に見せたが、これは実は結構難しい。すぐにできるようにはならない思う。けれど、これが魔法を覚える最初のステップだから、頑張ってやってみよう」
「はい」
エミリスは真剣な顔で頷く。
「まずは目標に対して身体から風を起こす感じで意識を集中させるんだ。感覚を掴むまで時間がかかるけど、一度覚えたら簡単にできるようになる」
彼女は言われた通りに紙を凝視して、精一杯ひらひらさせようと試みる。
「うー」
唸っても紙は全く動かない。
「こればっかりは説明が難しくてね。なんと言うか、人によっては見えない手を伸ばしていくような感じって言ったりもする」
なるほど……。
エミリスはそちらも試してみる。
すると、紙が一瞬ピクっと動いたように見えた。
「ん? ちょっと動いたかな?」
見間違えかとトーレスが思う。いくらなんでもそんなに早くできるはずがない。
人によっては、これだけで数ヶ月かかってもおかしくないほど難しいことだからだ。今まで意識したことのない魔力を制御するのはそれほど難しい。
エミリスはしっかり動かそうと更に集中する。手で紙の真ん中を叩くような感じをイメージしてみた。
――バンッ!
突然、紙から音がして、手形のような跡が浮き出る。
吊られていた紙は千切れてひらひらと床に落ちた。
トーレスは目を見開いて驚く。
「なんだ今のは⁉︎ まさか……?」
魔力は空気のように薄い。軽い紙を旗めかすくらいならともかく、よほどうまく凝縮しないと物を変形させることなどできないはずだ。
なによりも、練習を始めてまだ5分も経っていないんだぞ……?
魔力検査の結果はミリーから聞いていたが、もしかするとものすごい才能があるのかもしれないと、トーレスは考えた。
平静を装い、少し試してみることにした。
「紙は動かせたな。次はここに石があるだろう? 石に魔力を集中して、動かしてみよう。できるかな?」
「やってみます」
普通なら石のように重たい物を魔力で動かせるはずがない。
だが、紙があれだけ動いたのなら、あるいは……。
エミリスは先ほどと同じように、テーブルに置かれた拳大の石を凝視する。
手で押すようにイメージすると、石はすぐに少しずつ動き始める。
トーレスは更に驚かされた。まさかこれが動かせるのか……。
「むー!」
更に力を込めて、意識を石に集中する。
――バシッ!
突然爆ぜる音がして石が弾け飛び、テーブルから落ちて床に転がった。
トーレスが平静を装いつつも石を拾い上げてみると、何かがぶつかったように石の一部が欠けていた。
「すみません! 集中するのが難しくて……」
慌ててエミリスが頭を下げる。
魔力をぶつけただけで石が欠けると言うことは、弾丸のように圧縮されていたということだ。それはもはや凶器と言っても良いだろう。
信じがたいが、使いようによってはこれだけで大きな武器になる。見えない弾丸など、恐怖でしかない。
結局は魔力をどう使いこなすかだ。こんなことが可能なのか……。
「いや、気にしなくても良い。……それにしても初めてでこれは驚いた。これだけ上手く魔力を扱うのは私でもできない。恐れ入ったよ」
先ほど自分のしたことが、どれほど難しいことなのかわからない彼女は答える。
「ありがとうございます。練習してもっと上手くできるように頑張ります!」
……足手まといになるなんてとんでもない。
育て方を間違ったら、誰よりも恐ろしい存在になるかもしれない。うまくやるようにアティアスには釘を刺しておかないと。
◆
その日は適当に休憩を挟みながら、魔力を扱う練習を続けた。
わかってきたのは、いくら集中しても威力は石を投げつける程度。とはいえ、使いどころによっては有効だった。
あと、魔力を網のように上手く編むことで、軽いものなら持ち上げたりすることができた。
「これ便利ですね!」
手を伸ばす代わりに離れた物を取ってこれることにエミリスは感動していた。
少しなら人の動作を邪魔したりもできるだろうが、ちょっと抵抗になる程度の強度しかなかった。
トーレスにとっては、魔力そのものを使ってこんなことができるなど、そのこと自体が目から鱗のようなことだった。傍目からは超能力のようにしか見えないし、恐らく彼女にしかできないことだろうが……。
いずれにしても、これほどうまく魔力を制御するのは見たことがない。
ただ、ピンポイントに魔力を集めるのを得意とした一方で、一度に多くの魔力を放出することはできなかった。つまりトーレスやアティアスが得意とする広域爆破のような強力な魔法は使えそうにない。
ただ、そこまでできれば次のステップとして、基礎的な魔法を使いこなすことは難しくないだろう。
「それじゃあ、次回の練習では簡単な魔法から初めてみよう」
「わかりました!」
ここまでで今日の練習を切り上げる。
ある程度自由に魔力を制御できるようになるまで、早くとも1か月は掛かると思っていたが、たった一日でここまでできるとは。
私は2か月も掛かったのになぁ……。
トーレスは少し悲しくなった。
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