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遥はエレベーターのボタンを押す。
家に戻って布団に入って寝るか……

いろいろなことを考えたからか頭痛が起こっている。
茜に繋がる睡眠不足になっているからか?

ごほ、と一つ咳をして到着したエレベーターに乗り込もうとしたところで、中に先客がいるのに気づいた。

「あ、親父さん……お久しぶりです」

茜の親父さんと言うよりは合気道の指導者としての親父さんという意味合いが強い。

「遥か、お前の家は別の階だろう?」

「あー、ちょっと……冴が骨折したって言うので……」

「下で会ったのか? 心配して送ってくれたんだな、ありがとう」

親父さんは威厳ある顎髭をさすりながら遥に礼を言う。鋭い目をしているが、これは親父さんのいつもの目だ。

ほんとうは茜の部屋に忍び込んでましたとは絶対に言えない。言ったが最後、年頃の娘の部屋に勝手に入るなんて言語道断! といろんな関節をキめられかねない。

「いや俺はなんもしてないんで……付き添いで先生が付いてくれてましたし」

「あぁそうだった、先生にも礼をしなくちゃな」

親父さんは、忘れてたとばかりに家に向かって早足で去っていく。

妙な冷や汗をかいてしまった。
親父さんは茜のこと何にも言っていなかったな……

夜になる前に、少しでも早く夢で会うために遥は自分の部屋でベッドに横になる。
気を張っていたからか、肩が妙に凝ってしまっている。
……身体がダルい。
関節がじわじわと痛む。

先程まで眠っていたにもかかわらず、遥はすぐに眠りに落ちた。

夢の中はいつものダイニングテーブルの前ではなかった。
紫色と水色ときつめのピンクと、白色がぶにゃぶにゃとしたすらいむになって混ざり合っているような訳のわからない場所だった。

足元も不安定で、遥はイメージが掴めずに何度もつんのめる。

「守備はどうよ」

にや、とした笑みを浮かべた茜の髪は以前見たときよりかなり短い。腰ほどまであった金髪が肩口までの常識的な長さになっている。

「ん」

何を言うこともないので、遥はマスキングテープでぐるぐる巻きにした香櫨を取り出し手のひらに乗せた。

「うわ、なんでこんないっぱい巻いてんの? バチ当たりだなぁ」

罰当たり、ということは茜の今いる世界では敬われる存在の姿形らしい。

「灰が落ちるから仕方なく、な」

それでもポケットの中には灰が落ちまくっている。
密閉までとはいかなかった。

「ありがとう、あとはこっちでどうにかするから」

「おぅ、早めにな」

「ん、がんばる。待っててすぐ帰るから」

しんみりした顔をした茜に手を突き出すと、茜はすぐその手に向かって手を振り上げた。

パン、と鈍い音を立てて手と手がぶつかる。

「しっかりやれよ」

これは試合の前に親父さんがよく言うセリフだ。
茜はきりっとした顔に切り替えた。

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