青き血潮の果て

染西 乱

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シルバーシャイン

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勇者になると欲がなくなるのか、欲のないものが勇者に選ばれるのか……

どちらが先かわからないが、マックスには所有欲や物欲がないようだった。
しかもひっきりなしに男女からのアピールを受けてもら、穏やかにスルーしていることから性的欲求も少なそうである。

勇者というよりは僧侶や神官のほうが向いていたのではないかと思うほどの清廉潔白ぶりは私からしてみれば【世捨て人】に他ならない。

何かに執着しなければ、この世の生は退屈ではないのだろうか。

夜になって訪れたコウモリの楽しくも何ともない口上を聞きながら、まんじりともしない夜をニ夜乗り越えて、私がマックスの元をもう一度訪ねていくと、今度は私が好きな洋菓子店の菓子がもてなされた。

「私の好きなものがよくわかったな」

私はこの店が好きだと公言していない。

「はは、特別な人脈があるからな」

敬語を使うのをやめてほしいと頼めばマックスは驚くほどあっさりとそれを受け入れた。
敬語の取れたマックスに話しかけると、不思議と仲の良い友にでもなれた気がしてくる。

勇者ともなれば、人の情報を得ることなど簡単ということか……などと思いながら、家から持ってきた水晶玉を取り出して見せると、マックスは断りを入れてからその水晶玉を手に取りしげしげと検分する。

「どうだろう? この水晶玉で大丈夫だろうか?」

藁にもすがる思いの私は、この水晶玉ではだめだと言われてしまったらどうしようか、他のものをどこから調達可能だろうかと気を揉む。

マックスは、私が出してきた水晶玉を四つすべて確認し終わると、ふぅ、と息をついた。
私はじ、とマックスの様子を見ている。

「これは、素晴らしい水晶玉だ……すごく透明で……清浄で……質が良い」

「そうなのか」

私には石の良し悪しはわからないが、マックスがそれを大切そうに扱うのでそれが大層素晴らしいもののような気がしてくる。

「それではこれにマックスの力を込めてもらえるかい」

喜びで最近はとんと浮かんでこなかった笑顔になった。ようやくあのうるさい悪魔、魔族どもから逃れられると思うとにやけが止まらない。
私はふとこの菓子店を教えたのは弟だな、と思い至った。昔は弟の剣術指南を行っていたのだから今でも交流があってもおかしくない。
弟は私と違い社交的だ。もう剣を見てもらってはいなくとも、連絡は取り合っていそうなものだ。

「わかった。……かなり顔色が悪いな。少し時間がかかるから別室で作業してくるからその間に体を休めたらいい。一応客人用の部屋があるからそこで横になって待っててくれ」

「いや、ここでこのまま待たせてもらえば大丈夫だ」

「しかし顔色が悪い。血の気がない」

「……なにせ寝不足なんだ。今日それを持ち帰ったら早速寝ることに決めている」

悪魔が来なさそうなマックスの家で寝てしまうなんてことになれば快適過ぎていくらでも寝てしまう恐れがある。いくら寛容な勇者の家でも一日二日ねこけるわけにはいかない。

私は後ろ髪を引かれる思いで、マックスからの申し出を断った。

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