青き血潮の果て

染西 乱

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クリアブルー

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マックスは私の話を聞いて少し考えているようだ。

その間にマックスの家の使用人の女性が入れてくれた紅茶をありがたくいただくことにする。
それは私の知らない紅茶であったようで、桃の匂いのする紅茶のようだった。桃の味がするんだろうかと予想を立てる。
しかし一口飲んでみるとそれは慣れ親しんだいつもの紅茶の味だ。どうやらこの紅茶は匂いを楽しむものだったらしい。

マックスは私をじ、と見つめながら「それでは……」と言葉を切り出した。

「効果が出るかわかりませんが……」

しばらくして提案されたのは、マックスの魔力を込めた水晶を邸の四方においておくというなんとも簡単なものであったが、勇者の力のこもった水晶玉で結界を張るということらしかった。
私は勇者の力というのが何なのか、どのように効果があるのかさっぱりわからないのだが当の本人が提案してくれた策なのだからそれを試してみて損はない。

私に囁き声のない安眠が戻ってくるならば水晶玉の一つや二つ安いものだ。
これ以上は神経がおかしくなってしまう。
今でもまだ耳に「魔王様」と呼びかけて来る声がこびりついているような気がする。

「いや、きっと効果覿面こうかてきめんに決まっている。ありがとう。急に来てすまなかった。すぐに水晶玉を持って来るよ」

確か質のいい水晶玉が家に十ほど残っていたはずだ。
使用目的もなく在庫に成り果てていたものだが思わぬところで役にたってくれそうだ。

「いえ、どうせ暇してますし……平和になれば勇者など必要がないものですよ。よければまた遊びに来てください」

「……そう。ではまた、水晶玉を待って来るとしよう。お礼はなにがいい?」

「そんな、礼など……子供達に治癒を教えてくださってるだけでもありがたいと思っているんで……必要ないですよ」

水晶玉に力を込めてもらうというのだから、礼はしない方がおかしい。が、マックスはすでにお金は腐るほど持っているはずだ。
私は何か良い礼はないだろうかと頭を捻る。
が、良い思いつきは得られない。

「……ではまた今度寄らせていただくときにはきちんと先触れを出させてもらうよ……そうだな、明後日などいかがだろう?」

ほんとうならば今すぐ家にとって返して水晶玉を持ってまた訪問したいところだが、さすがにそれは礼にかける。今日の明日、というのもどこか無粋であるため、私は明後日の約束を取り付けたのだった。

「ええ、お待ちしています」

マックスは、数々の魔物や魔族を葬り去ってきたとは思えない柔和な顔をして頷いている。
魔王を倒して《勇者》としての肩の荷が降りたのかもしれない。

ひどく穏やかなその表情は、なにも欲していない。
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