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ルミナちゃん、というのはこの女性店員の名前だ。
エプロンの肩紐のあたりに名札が付いていて、そこに「ルミナ」と書いてある。
最初のうちは遠慮して「ルミナお姉さん」ときっちりと呼んでいたけれど、常連になって少しして「もう少し気楽に呼んでもいいのに」と言ってもらえたので「ルミナちゃん」に落ち着いている。
ルミナちゃんは俺と同い年の子供がいるとは思えないぐらい若々しい。
早めに出産したのかもしれないが、それにしても若く見える。
夫はいないらしいから、そのあたりのことが関係しているのかもしれない。
「あ、そういえばもうすぐ息子の誕生日なの。今ってあなたたちぐらいの年齢の男の子って何が欲しいのかな?」
おしゃべりしながらもきちんとドリップされたコーヒーが作り上げられていく。
湯気を上げて細く流し込まれていく熱湯が白いフィルターに吸い込まれる。
少しすると世にもおいしそうなコーヒーの匂いがあたり一面に漂い、その香りの豊潤さに唾液が溢れてくる。
今日はいつもより多めの砂糖を入れたい気分だ。
身体が糖分を欲している。
「はい、ミルクと……お砂糖はそこね」
白い陶器のカップには、赤い花と黄色い花を中心にした模様が描かれている。
受け取った黒々したコーヒーが、ふるふると揺れて波紋を作る。
角砂糖を二つ摘まみ上げて、中に落とし、小さなティースプーンでぐるぐるとかきまぜた。
砂糖のざらつきがなくなったところで温かいミルクをそうっと注ぎこむと、円を描いて白を黒が混ざり合っていく。
「はぁ、おいしい……最高」
俺がこの店に通う理由はこの店のコーヒーがおいしいことも一つの理由だ。
「よかった」
にっこり笑ったルミナちゃんは手際よく後片付けをしている。
この「ルミナちゃん」が俺の主だった理由だった。
と言っても別にルミナちゃん自身を狙っているわけではない。
自分と同じ年の子供がいる女性はさすがに守備範囲に入っていない。子持ちじゃなければ全然イけたけど……
ルミナちゃんのいう「俺と同じ士官学校に通っている息子」と俺は面識があった。
というか、ルミナちゃんがあいつの母親だと知ってからこの店に通っている。
あいつの弱みは絶対にこのかわいらしい母親であることがわかっているからだ。
「そうだな~俺だったら財布とかかな。かっこいい財布もってたら大人って感じでかっこいいよね」
俺はあいつのことを思い浮かべながら言う。
あいつは財布なんて一度も持ち歩いたことなどないだろう。基本的にはズボンのポケットに現金を突っ込んでいる。支払いの時にはぐちゃぐちゃの紙幣を出していたし、俺は常々それに対して嫌だなと思っていた。ルミナちゃんからプレゼントされればあいつも財布を使うんじゃないか? などど思っての提案だ。
「財布かぁ。そこまで高くないし、いいかも! さすが同じ年の男の子の意見は参考になるわ~! ありがとう! お礼にチーズ大盛にしちゃうから!」
よほどプレゼントに頭を悩ませていたのか、上機嫌になったルミナちゃんは俺は注文したピザトーストを作りにかかる。
小さな背中を見ながら俺はルミナちゃんとあいつはやっぱりあんまり似てないなと思っていた。
ルミナちゃんは喜怒哀楽が分かりやすくて、いつもニコニコしている。
あいつは、デフォルトが無の表情で釣り目がきつくて、誰に対しても睨みをきかせているようにしか見えない。
口を開けば重低音の声で、またそれも威圧感があった。
あいつは俺よりも背が高いし、ガタイもいい。
ルミナちゃんは女性の中でも小柄な方だ。
よく動くくりくりした瞳もあいつの切れ長のきつい造りとはかけ離れている。
唯一瞳の薄い色だけは同じだ。
いらっしゃいませーと入ってきた客に声をかけているルミナの口元を見る。
……ああ、そういえば薄めの唇は似ているかもしれない。
エプロンの肩紐のあたりに名札が付いていて、そこに「ルミナ」と書いてある。
最初のうちは遠慮して「ルミナお姉さん」ときっちりと呼んでいたけれど、常連になって少しして「もう少し気楽に呼んでもいいのに」と言ってもらえたので「ルミナちゃん」に落ち着いている。
ルミナちゃんは俺と同い年の子供がいるとは思えないぐらい若々しい。
早めに出産したのかもしれないが、それにしても若く見える。
夫はいないらしいから、そのあたりのことが関係しているのかもしれない。
「あ、そういえばもうすぐ息子の誕生日なの。今ってあなたたちぐらいの年齢の男の子って何が欲しいのかな?」
おしゃべりしながらもきちんとドリップされたコーヒーが作り上げられていく。
湯気を上げて細く流し込まれていく熱湯が白いフィルターに吸い込まれる。
少しすると世にもおいしそうなコーヒーの匂いがあたり一面に漂い、その香りの豊潤さに唾液が溢れてくる。
今日はいつもより多めの砂糖を入れたい気分だ。
身体が糖分を欲している。
「はい、ミルクと……お砂糖はそこね」
白い陶器のカップには、赤い花と黄色い花を中心にした模様が描かれている。
受け取った黒々したコーヒーが、ふるふると揺れて波紋を作る。
角砂糖を二つ摘まみ上げて、中に落とし、小さなティースプーンでぐるぐるとかきまぜた。
砂糖のざらつきがなくなったところで温かいミルクをそうっと注ぎこむと、円を描いて白を黒が混ざり合っていく。
「はぁ、おいしい……最高」
俺がこの店に通う理由はこの店のコーヒーがおいしいことも一つの理由だ。
「よかった」
にっこり笑ったルミナちゃんは手際よく後片付けをしている。
この「ルミナちゃん」が俺の主だった理由だった。
と言っても別にルミナちゃん自身を狙っているわけではない。
自分と同じ年の子供がいる女性はさすがに守備範囲に入っていない。子持ちじゃなければ全然イけたけど……
ルミナちゃんのいう「俺と同じ士官学校に通っている息子」と俺は面識があった。
というか、ルミナちゃんがあいつの母親だと知ってからこの店に通っている。
あいつの弱みは絶対にこのかわいらしい母親であることがわかっているからだ。
「そうだな~俺だったら財布とかかな。かっこいい財布もってたら大人って感じでかっこいいよね」
俺はあいつのことを思い浮かべながら言う。
あいつは財布なんて一度も持ち歩いたことなどないだろう。基本的にはズボンのポケットに現金を突っ込んでいる。支払いの時にはぐちゃぐちゃの紙幣を出していたし、俺は常々それに対して嫌だなと思っていた。ルミナちゃんからプレゼントされればあいつも財布を使うんじゃないか? などど思っての提案だ。
「財布かぁ。そこまで高くないし、いいかも! さすが同じ年の男の子の意見は参考になるわ~! ありがとう! お礼にチーズ大盛にしちゃうから!」
よほどプレゼントに頭を悩ませていたのか、上機嫌になったルミナちゃんは俺は注文したピザトーストを作りにかかる。
小さな背中を見ながら俺はルミナちゃんとあいつはやっぱりあんまり似てないなと思っていた。
ルミナちゃんは喜怒哀楽が分かりやすくて、いつもニコニコしている。
あいつは、デフォルトが無の表情で釣り目がきつくて、誰に対しても睨みをきかせているようにしか見えない。
口を開けば重低音の声で、またそれも威圧感があった。
あいつは俺よりも背が高いし、ガタイもいい。
ルミナちゃんは女性の中でも小柄な方だ。
よく動くくりくりした瞳もあいつの切れ長のきつい造りとはかけ離れている。
唯一瞳の薄い色だけは同じだ。
いらっしゃいませーと入ってきた客に声をかけているルミナの口元を見る。
……ああ、そういえば薄めの唇は似ているかもしれない。
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