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「ぁぁ……どこかって……? 馴染みのある場所だとは思うがな」

すたすたと歩いて行く様子には全く迷いがない。

「歩きってことはここから近いんですね」

先ほどの喫茶は大通りに面していた。
まだ仕事の終わる時間には早いが、そこそこの人通りがある。

やけに足の長いコヨミ様は歩くのも早い。
サイリは小走りになりながら、背筋の伸びたコヨミ様の後ろをついていく。
歩いているだけなのに妙に育ちの良さが透けてみえるのは不思議だ。普通の歩き方とどこが違うんだろうか。

「うっ、はぁ、……ぁ゛ー、も、もう少し歩く速度を……!」

サイリはあまり運動は得意ではない。
短距離走や、走り高跳びなど一瞬で終わるようなものは割と得意ではあるが、その他のいわゆる【持久力】が問われるものはことごとく苦手だ。

息を切らしたサイリは、遠くなってしまったコヨミ様の背に向かって精一杯叫んだ。
コヨミ様はようやくサイリを置いて言っていることに気づき、足を止めてくれた。

「……軟弱なんじゃくだな……」

肩で息をするサイリがへろへろとコヨミ様のところまで歩くと、コヨミ様は呆れたといいたげな顔をしてサイリを見ている。

コヨミ様は見た目の線の細さとは違い、体力がありそうだった。

「あと二分ほどで着くんだが」

「あっ、はい……ちょっとだけ休んでから……お願いします……」

次の現場ではサイリが場を収める手筈だったはずだ。
せめて呼吸がいつも通りに落ち着くまでは休みたい。

「お前は少し痩せすぎだからな、きちんと食事を取れ」

コヨミ様だけには言われたくない言葉だ。

「食べてますよ。むしろ他の人よりも食べる方です。よく食べるねっていつも驚かれるぐらいです」

サイリの身体は燃費が悪い。
人の二倍ほどのご飯を食べてもすぐにお腹が空いてしまう。

コヨミ様のように一食抜こうものなら、貧血と空腹で目が回り倒れること必至だ。

コヨミ様は、興味深そうにサイリを見ている。

「そうか……それはおもしろい」

コヨミ様はつるりとした人形めいた顔にやや微笑みを浮かべている。しかしその顔は美しいためさらに人形めいてみえる。

「そろそろ行くぞ」



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