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「今日一日で要領はわかっただろう」

コヨミ様は机の上に置かれたあっつあつのお手ふきをわざわざ一度広げてから折りたたみ、手を拭いている。

「え? 要領……?」

さも今日一日で何かを教えたかのようなコヨミの言い草に、サイリはぽかんとして目の前の男を見返す。

やけにさらさらした髪だ。

今日一日中コヨミ様の横でぼーとしていただけなんですけど?

勝手にさっさと移動して特になんの説明もなく勝手に悪魔倒すし。倒したら倒したで何があるのかと思ったらすぐに移動して、次の場所に移動して、ってサイリからすれば今日一日長い散歩に付き合っていたというような感覚でしかない。

リードのついてない犬が赴くままに散歩しているのを一生懸命に追いかけるへっぽこ飼い主、と言ったところか?

サイリからすれば要領とか手順とかあったの? って感じだ。
ってっきりただ目についた悪魔を力任せにぶちのめしてるだけかと……

サイリはなんと言えば正解かわからずに、「へへへへ」と曖昧にへらへらと笑うことにする。

「……お前の力がどんなものかまだ一度も見たことがなかったな。お互いの力量がわからなければ仕事がしにくい。次の現場はお前にまかせることにする」

「えっ、そんな急に……」

「心配しなくても今日の現場には雑魚しか湧いてこない。そのために定期的に【掃除】してるんだからな」

確かに今日見たのは、しょぼい悪魔ばかりだ。
しかも数にしても群れているものは皆無。
一匹ポツンと存在しているだけだった。

「む、……私できますかね?」

弱い悪魔だとわかっているのに、不安が押し寄せてきてサイリはコヨミ様に問いかけた。

「入野を助けた時にお前が倒した悪魔の方がよっぽど強い。余裕だろう」

「そう、ですよね、はい」

サイリは1日目は見てるだけにしてほしかったな、などと甘いことを考える。たとえ弱い悪魔でも、仕事として倒すのは初めてなんだし?

まぁ、コヨミ様が余裕だというのなら余裕なんだろうけど……

今日のコヨミの仕事ぶりを見ていれば【トキ】で1番強い、というがほんとうのことなんだろうと納得している。

悪魔に対する恐れのなさと、躊躇ちゅうちょのなさは己も同じぐらい悪魔を恐れないサイリを驚かせた。
人間誰しも悪魔に遭遇すれば恐れを抱くものなのだが、コヨミ様にはそれがない。

コヨミ様は悪魔を完全に自分より下の存在だと認識している。その気持ちがより悪魔を倒すための力になっているのだろう。
悪魔を人より下の存在として見るのが正解かどうかはさておき、その思想によりコヨミ様はより強い悪魔を使役出来るんだろう。

それに、悪魔召喚機を使う初動も恐ろしく早かった。

しかもちゃんと、コヨミの呼び出した悪魔が退屈そうに下級悪魔の相手をしているのをぼへーと見ているだけのサイリのことを背にかばっていた。

今日一日で、サイリの中で、コヨミ様が態度がでかいだけのボンボンから力のあるボンボンへと格上げされている。


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