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結論を急いではいけない。じっくり考えている間に事態が好転こうてんすることもある。

サイリはなんだかんだと心中で言い訳をしながら答えを先延ばしにしていた。

祖父の腰だって、時間薬ーー時間が経てば良くなるんだし、こうやって答えをはぐらかし続けていればそのうちに祖父の腰も良くなって問題なく仕事復帰出来る。少しの間祖父には心苦しい思いをさせてしまうが、そのぐらいは大丈夫だろう。
祖父だってだてに長生きしていない。
などと考えていた。

が、そんな考えなどお見通しとばかりにサイリに返答を余儀よぎなくさせることが待っていた。

家に帰ると、早めの時間だというのに、珍しく玄関に父と母二人のくつがそろって並んでいた。
サイリは何かあったのかな、などど呑気にしていた。

ただいま、と部屋に入った途端にぐるんと両親の頭がまわり双方の目がサイリを捉えた。

「……サイリ、さっきなんかすごい綺麗な男の人が来たわ」

母は夢見心地でふわふわした表情をしている。
そういえば母はかっこいい顔が好きだった。
かく言う父も絵本に出てきそうな精悍せいかんな顔をしている。

父は母の様子を苦笑いしながら、ちらりと横まで見るだけに留めた。

「サイリを是非うちで働かせて欲しいって言われたよ」

父は切れ長の目を少し伏せて困っている。
かけたメガネが微かに下にずれた。

「お母さんはサイリちゃんがお仕事するのは大歓迎
なのよ~。でも危ないのはちょっとやっぱり、ねぇ……女の子なんだし無理してる働かなくても……お嫁に行くのに働いてた、なんてのを嫌がる人もいるだろうし、お父さんみたいに理解のある人ばかりじゃないしねぇ」

お! お母さんってばちゃんと私の嫁の行き先を考えていてくれていたらしい。
出来るなら同じぐらいの歳の人がいいけど、ま、10歳ぐらい年上でも良しとするから暴力振るったりするようなやつ以外でお願いしますよ~
かっこよくないといやー! とかそういう世迷いごとは言わないから……

あとはちょっと極度の肥満は嫌だな。
ほどほどの肥満なら許せるけど……3段腹ぐらいは……ギリギリ、ん、ギリギリ無理だな。2段ぐらいまでが許容範囲きょようはんいだ。

「娘さんの安全面が不安なら、一番強い人と一緒に仕事させる様にするからって言われてまぁ、それならいいかなっとも思うの」

お母さんは次の一言には言前撤回している。
そうだ、そう言う人ですよね、お母さんはよ……

「というか、騙されてない、それ? 一番強い人とのところには一番強いヤツが任されるに決まってる! 危なくなっただけじゃんそれ!」

ザコ相手に適当にこなしてればいいかと言う考えも持っていたサイリは、先周りされている感覚に奥歯を噛む。
ちくしょう、そんなことはお見通しってわけか……

久須木田コヨミの人形ごとき顔を思い出して、してやられたこの現状にサイリはムカムカとしている。

「えぇ? でも代表の秘書みたいなもんだって言ってたわよ」

実際お母さんはお偉いさんの秘書業務をしているため、そう言われて納得してしまったんだろう。
どこまで調べているんだ久須木田コヨミ……!

「いや、秘書なんか私に出来ないよ」

「嫌なら断りなさい」

お父さんの声で、私とお母さんは言葉のかけあいを止めた。
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