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久須木田コヨミの「また来る」と言った言葉は嘘ではなかった。
驚くべきことに、次の日には納品分の悪魔召喚機のお金を持って何食わぬ顔で尋ねてきた。
昨日と違わぬ真っ白なズボンにツヤツヤの革靴だ。真っ黒なシャツと上着には圧力すら感じる。
なんかこう、気まずいとかいう感情はないのかこの男?
怒ってもう来るなと言ったサイリの言葉はまるっと無視されている。
「ここの担当だった男は解雇した」
なんの前置きもなくしれっと言われた言葉にサイリは「はぁ?」と声を上げた。
「なんで? ……それがなんかうちに関係ある?」
「理由が必要か? 一【トキ】の担当職員であるにもきわらず、悪魔召喚機を作れる世界でただ一人の人物に敬意を払わぬ態度によって、その人物の協力を仰げなくなったため、責任を取らせて解雇した。……他にも理由はあるが表向きにはそういう理由になっている」
「なるほど」
ちゃんと真っ当な解雇理由が用意されている。
「こう言うことは早いに越したことはない」
と言って差し出された封筒を受け取ったサイリはそれを黙って祖父に渡す。
祖父はそっと中身を確認している。
お金を踏み倒されないことには安心したが、そう頻繁に来られても困る。この店の店主である祖父は無理すれば動けないことはないが、痛みが悪化することになる。
実質ほとんど寝たきりといった状態だ。今回のぎっくり腰は治るが……
「コヨミ様、給金がいつもより多いんですが……?」
将来のことに想いを馳せようとしていたサイリの思考を削ぎ落とすように祖父の大きめの声が場に響いた。
「ぁあ。違う、反対だ、いつもの給金が少なかったんだ。さっき言った担当があなたへの給金を一部勝手に自分の懐に入れていた。こちらの落ち度だすまない」
久須木田コヨミは祖父に向かって頭を下げた。栄養状態の良さそうな髪が重力にしたがってさらさらと溢れていく。つむじは右巻きだ。さすが育ちが良さそうなお辞儀だ。
「は、はぁ……」
寝耳に水だ。
思わず気の抜けた返事をしている祖父を見る。
「あの男が着服した分は後ほどまた持ってくる予定になっている。その時にまた詳しい金額明細が出るとは思うが……今後はこんなことが起こらないように直接給金を渡したいと思っているんだが……」
「いえ、今後はありませんので」
担当が解雇されたからと言ってサイリは発言を撤回したりはしない。
じ、と久須木田コヨミのビー玉みたいな無機質な瞳がサイリを見つめてくる。
実に落ち着かない。
驚くべきことに、次の日には納品分の悪魔召喚機のお金を持って何食わぬ顔で尋ねてきた。
昨日と違わぬ真っ白なズボンにツヤツヤの革靴だ。真っ黒なシャツと上着には圧力すら感じる。
なんかこう、気まずいとかいう感情はないのかこの男?
怒ってもう来るなと言ったサイリの言葉はまるっと無視されている。
「ここの担当だった男は解雇した」
なんの前置きもなくしれっと言われた言葉にサイリは「はぁ?」と声を上げた。
「なんで? ……それがなんかうちに関係ある?」
「理由が必要か? 一【トキ】の担当職員であるにもきわらず、悪魔召喚機を作れる世界でただ一人の人物に敬意を払わぬ態度によって、その人物の協力を仰げなくなったため、責任を取らせて解雇した。……他にも理由はあるが表向きにはそういう理由になっている」
「なるほど」
ちゃんと真っ当な解雇理由が用意されている。
「こう言うことは早いに越したことはない」
と言って差し出された封筒を受け取ったサイリはそれを黙って祖父に渡す。
祖父はそっと中身を確認している。
お金を踏み倒されないことには安心したが、そう頻繁に来られても困る。この店の店主である祖父は無理すれば動けないことはないが、痛みが悪化することになる。
実質ほとんど寝たきりといった状態だ。今回のぎっくり腰は治るが……
「コヨミ様、給金がいつもより多いんですが……?」
将来のことに想いを馳せようとしていたサイリの思考を削ぎ落とすように祖父の大きめの声が場に響いた。
「ぁあ。違う、反対だ、いつもの給金が少なかったんだ。さっき言った担当があなたへの給金を一部勝手に自分の懐に入れていた。こちらの落ち度だすまない」
久須木田コヨミは祖父に向かって頭を下げた。栄養状態の良さそうな髪が重力にしたがってさらさらと溢れていく。つむじは右巻きだ。さすが育ちが良さそうなお辞儀だ。
「は、はぁ……」
寝耳に水だ。
思わず気の抜けた返事をしている祖父を見る。
「あの男が着服した分は後ほどまた持ってくる予定になっている。その時にまた詳しい金額明細が出るとは思うが……今後はこんなことが起こらないように直接給金を渡したいと思っているんだが……」
「いえ、今後はありませんので」
担当が解雇されたからと言ってサイリは発言を撤回したりはしない。
じ、と久須木田コヨミのビー玉みたいな無機質な瞳がサイリを見つめてくる。
実に落ち着かない。
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