ぬい【完結】

染西 乱

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「お、あのぬい誰かが持って帰ったんだ?」

机の上に不安定に座らされていたぬいが無くなっているのに気づいたのは、仕事が終わった時だった。
今日出て来てたのは馬路まじさんと、あと二人だ。

二人ともぬいには興味なさそうに思っていたけれど、そうでもなかったのか。
もしくは某フリマアプリで二束三文で売り払う予定でもらっていった、と言う可能性も無きにしもあらず、だ。なんでも売れる可能性は秘めてるからな……

ロッカーから中身のほとんど入ってないリュックを取り出して、水筒のお茶をがぶがぶと飲む。
野球少年が持ち歩くようなでっかい水筒だ。

最近妙にのどが渇く。
それにめちゃくちゃお腹も減る。

遅れて来た成長期、ではないだろう。
もうとっくに身体は成長を止めている。あとは横幅にのみしか伸びしろは残されていまい。

上着を引っ掛けるようにして羽織はおり、制服のシャツを申し訳程度に隠した。

後ろで一つにまとめていた髪も取り払えば、ゲームセンターの中にいても店員と思われることはない。
これを怠ると、もうタイムカードを押して仕事は終わっていると言うのに客から「すいません~」と話しかけられてしまう。

自分も客の一人ですよ、と言う顔をして店内を歩く。

ゲームセンターは様々な音が合わさって騒音に成り果てている。

子供の滞在できる時間は過ぎているため、必然的に大人の姿が目立つ。案外ゲームセンターにはお年寄りが多い。
そろそろお年寄りも帰宅していく頃合いだ。

さて私も帰るかとクレーンゲームの筐体きょうたいの間をのろのろ歩いていく。

何かいつもと違う。
なんの違和感なのかわからないが、何か……視線を感じる。

肩越しに振り向いて目玉だけを動かして、周囲を見渡す。柱の影や、ゴミ箱の影、筐体のよこなど忙しなく
チェックしていく。
そうしている間にもまだ見られているような感覚は続いている。

しかし、なにもいない。

気のせい、なのか。

これほどまでに絡みつくような視線を感じるのに……
君が悪くなって、視線から逃れるように俯きがちになってしまう。

私は足早にゲームセンターを後にしてショッピングセンターを出た。
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