ぬい【完結】

染西 乱

文字の大きさ
上 下
5 / 10

しおりを挟む
バイト先のゲームセンターはかなり騒がしい。
全国展開している大手ショッピングセンターの3階にあるこのゲームセンターはそこそこ賑わっている。
広場面積は少し小さめだと思う。
ベビーカーとか、ショッピングセンターのカートとかを入れると通路の狭さはかなりギリギリだ。

定番のコインゲームと、クレーンゲーム、小さな子供向けの乗り物やまなびゲームが主になっている。
並べられた筐体から各々音声が響いている。
休みの日には更に人で溢れかえるが、今は平日の夕方であることから、客の数はまばらだ。
しかし客の数はまばらでもゲームセンターの騒音は対して変わらない。
バイトを始めた頃はあまりに音がうるさいため、すぐにやめてやると思ったのだが、これが不思議なことに一週間もすればその騒音に慣れてしまった。
気づけば一年もこのゲームセンターでバイトしている。
毎日くるコインゲームおばあちゃんも、太鼓ゲームをやり続ける大学生風の男の子も、クレーンゲームでぬいぐるみをごそっと取っていく匠のおばさんたくみも見慣れたものだ。
店長となかなかタイミングが合わずに、辞めたいと思った時に辞めると言えなかったがゆえの、怪我の功名こうみょうってやつだった。

クレーンゲームの景品の補充をしながら、ポジショニングを整える。
赤ちゃんぐらいの大きさのビッグぬいぐるみをバランスよく座らせて透明のガラスに鍵をかける。
子供や大人の女性に人気の癒し系のくりっとした目が印象的なぬいぐるみだ。先日から映画が上映されていて、その映画に出てくるオリジナルキャラクターなんだという。今日はまだ見てないが、匠おばさんが狙いそうな景品だ。
見回りが終わったところで、カウンターに戻ると私よりも1時間遅いシフトの男の子がちょうどタイムカードを押している。耳にピアスが6個もついていて金髪で気だるそうだが、子供には優しいあまりこのバイトの現場で見かけないタイプの子だ。
ちなみによくいるのはオタクタイプの陰気な感じの毛がもさもさわかめみたいになるのを必死にワックスで押さえつけてる感じの子。私もどちらかというと陰気に見えるだろう。長い前髪を左右に流して、鎖骨より下ぐらいの長さの髪は黒い髪ゴムで低い位置で一つに束ねている。
それに加えて顔半分ぐらい隠れるんじゃないか問い合わせゴツめのメガネをしている。
このバイト先は地元なので、うっかり知り合いに声をかけられるのを防止するためにメガネを掛けている。
でかいメガネはいい認識阻害装置だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

糠味噌の唄

猫枕
ホラー
昭和60年の春、小6の町子は学校が終わって帰宅した。 家には誰もいない。 お腹を空かせた町子は台所を漁るが、おやつも何もない。 あるのは余った冷やご飯だけ。 ぬか漬けでもオカズに食べようかと流し台の下から糠床の入った壺をヨイコラショと取り出して。 かき回すと妙な物体が手に当たる。 引っ張り出すとそれは人間の手首から先だった。

ぐろりあ

karon
ホラー
骨董市で買い取ったアンティークドール。なぜか主人公の夫がやたらと気にしだす。そして徐々に人形の異常性が明らかになった時、人形の魔力の取り込まれた夫は主人公を裏切って。

逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。 夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。 「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」 陽介の何気ないメッセージから始まった異変。 深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして—— 「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。 彼は、次元の違う同じ場所にいる。 現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。 六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。 七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。 恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。 「境界が開かれた時、もう戻れない——。」

「こんにちは」は夜だと思う

あっちゅまん
ホラー
主人公のレイは、突然の魔界の現出に巻き込まれ、様々な怪物たちと死闘を繰り広げることとなる。友人のフーリンと一緒にさまよう彼らの運命とは・・・!? 全世界に衝撃を与えたハロウィン・ナイトの惨劇『10・31事件』の全貌が明らかになる!!

『忌み地・元霧原村の怪』

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は月森和也(語り部)となります。転校生の神代渉はバディ訳の男子です》 【投稿開始後に1話と2話を改稿し、1話にまとめています。(内容の筋は変わっていません)】

格安のホテルにて

ツヨシ
ホラー
あるホテルに泊まった先輩が、会社の出勤しなくなった。

規則怪談:漆黒の山荘

太宰菌
ホラー
温泉山荘の規則は以下の通り、厳守してください。規則を守らない者は、それに同化され、永遠に山荘から離れることができない!

十一人目の同窓生

羽柴吉高
ホラー
20年ぶりに届いた同窓会の招待状。それは、がんの手術を終えた板橋史良の「みんなに会いたい」という願いから始まった。しかし、当日彼は現れなかった。 その後、私は奇妙な夢を見る。板橋の葬儀、泣き崩れる奥さん、誰もいないはずの同級生の席。 ——そして、夢は現実となる。 3年後、再び開かれた同窓会。私は板橋の墓参りを済ませ、会場へ向かった。だが、店の店員は言った。 「お客さん、今二人で入ってきましたよ?」 10人のはずの同窓生。しかし、そこにはもうひとつの席があった……。 夢と現実が交錯し、静かに忍び寄る違和感。 目に見えない何かが、確かにそこにいた。

処理中です...