上 下
3 / 11

しおりを挟む
砂と小石だらけの道に慣れていないためかなり歩きにくい。ただでさえ履き潰した靴の中に終始砂が入ってきていて足が痛いのに、やたらに強い風が向かい側からびゅうびゅう吹いている。

頭上にそびえる城は真っ白な壁で出来ており、子供に語られる御伽話のお城そのものといった風情だ。
霧に霞んでいるため、城の大きさ、規模も遠さもわからない。ドーム状になにかに囲われているように見える。幻想的ではあるが、重力という概念を無視した様相にはぞっとする。

強風に煽られながら歩き続けてようやく小さな集落に辿り着いた。

木の柵で数十件の家の周りを囲っているだけ、といったかなり原始的な町だ。

この辺には人間の脅威となるような生き物が出ないんだろう。どこかのんきそうな雰囲気がある。

町に住んでいる人に話を聞いてみると、この町は俺たちのように別の場所から連れて来られた人々が暮らしている町だそうだ。
別の場所、と言っても皆が皆日本人らしい。

今の流行から考えれば確実に時代錯誤な短ランぼんたんを見て、町番の古株だという高齢のおじさんが「懐かしい懐かしい」としきりに頷いている。

俺も生きていたらたぶんこのぐらいの年齢なんだろうと思うと不思議と親近感が湧いた。

同じ境遇のもの同士、いきなり放り出されたことに同情気味の村人たちに借りの家を借りて少しの間住むことになった。
木で作られた立派な家だった。

どうもそこは集会所の役割をしている建物らしかった。客様の布団もある。想像していたよりかなり待遇が良い。

野晒しで野宿することも覚悟していたので拍子抜けした。
一緒に来たのだから、当然楠木理人も同じ家に住む。
個別に家を借りたいなど言える雰囲気でもない。
同じ年頃に見えるため、友人だとでも思われている可能性が高い。

「おい」

「ハイッ!」

軽く呼びかけると、ぴょいっと居住いを正して俺の前に座る。黒々とした髪をはじめ、どこもかしこも砂だらけになってしまっている。ネクタイを緩めることもせずきっちりと制服を着たままだ。

「これからお前……理人と俺は一緒に住むことになっちまった」

「そうですねッ!」

返事が元気すぎて疲れる。
俺は右手でこめかみを抑えた。

「元気だな……」

俺は正直もう横になりたい。
いや、でも砂だらけだしせっかく風呂がついてるわけだし身綺麗にしてから布団に入りたい。

「そりゃ、ツガイと一緒にいるんですから、テンション爆上がりですよ」

にこにことした邪気のない笑顔で俺を見てくる。

こいつまだそんな事を言っているのか。
心底呆れてしまう。
何が番だ……




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〜異世界に行くと男の子!?〜

BL
妹に看取られてなくなったら 神の子で⁈ まさかの異世界転生で男の子に!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

早瀬くんは部活に集中したい

ベポ田
BL
バレーにかけた青春 みんな目が死んでる 道端で泣いてたイケメンに巻き付かれて、早瀬くんは鬱気味。

人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。 前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!! これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。 何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!? 本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

処理中です...