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サキュバスの娘、大罪を断罪す
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そうだ、私は相生憂だ。日本に生まれ、普通の女の子として人生を謳歌していた。
そんな私はある日通り魔に刺されて殺されて……。
そしてサキュバスに生まれ変わった。
そうだ、私はフラムだ。淫魔の母リュミエールと天使の父との間に生まれた淫魔と堕天使の子。
そんな私は淫魔の人生が嫌になって家を飛び出して……。
そして冒険者になった。
『銀の鎧』のメンバーと出会って別れて。
アイリスに出会ってともに冒険者として働いて。
気づけば私は一つの街の危機を救ってて。
ペンタゴンの調査をギルド長のロバートに頼まれて。
そこでヘプタ盗賊団に捕まって。
気づけばその盗賊団の一つの街を巡った抗争に巻き込まれていた。
だけどその抗争は始まる前に既に終わってしまっていた。
ヘプタ盗賊団が相手取っていたはずのディゴン盗賊団は謎の第三勢力によって壊滅していたのだ。
その第三勢力は一つの怪物であった。
能面のような白い顔は眼窩が黒く吹き抜けているおり、巨大な肢体は赤黒く脈打ちながらその太い手足による四足歩行で私たちを追い回した。かつて人であったと思われるその怪物は、まるで恐怖を体現したかのような容貌であった。
そう、私はこの怪物と戦っていた。
怪物を塔に閉じ込めた私は、塔を倒すことによって怪物を倒したかと思いこんでいた。しかし死したはずの怪物はその超再生をもって死を超克してきた。
そのことに気づけなかった私は目の前でサンが薙ぎ払われるのを見ているしかできなかった。
すぐさま臨戦態勢になった私は、アイリスや駆け付けたヘプタ盗賊団幹部たちとの協力を得て、なんとか善戦するも決定打が打ち込めずにいた。どんなに攻撃をしても、その超再生力ですぐに傷がふさがってしまうのだ。
そこでとっさに思いついたとある作戦を皆に伝えるのだけれど、そこで私は油断をした。
目の前に怪物の放つ黒球。
その直撃を受けた私は、そのまま意識を失ったのだ。
そうだ、全部思い出した。どうして忘れていたのだろう。長い間、それを忘れてしまっていた気がする。
いや、実際長い間忘れていたのだろう。突拍子もないが、私はそれを確信している。
私は長い長い時を過ごしたのだ。それこそ人間にとっては永劫ともいえる時間を。
そういえばここはどこだ。何も見えない。
……いや。
見える。
私は上を見上げた。するとそこにはゆらゆらとゆらめく光が見えた。まるで海面のようだ。
ここは海の中……?
バタバタと足をバタつかせると、体はやがて上へ上へ浮上し始めた。間もなく私はそのゆらめく光に手が届く。
ザバンッ!!
私は海面に浮上し、顔を出す。やはりここは海のようだった。そこで私は視界いっぱいに広がった空に目を開く。
空が……。
暗く、そして赤かった。
朝方とか夕方とかの光の加減などでは決して現れないだろうドス黒い赤。まるで乾いた血のような赤さだ。漂う雲はその空の赤さを強調するかのように黒くくすんでいる。一体全体どういう状況なのだ。
再び辺りを見回す。すると、遠くの方に陸地が見えた。よし、そこまで泳いで向かおう。
小一時間ほど泳いだら、大きな陸地に到着することができた。遠目から見ても陸地は水平線の向こうまで続いていたから、ここは小さな島などではないだろう。もしかしたらどこかの大陸の一部なのかもしれない。大陸であるならば、誰かがきっと住んでいるはずだ。まずはこの状況を整理できる情報が欲しい。
何か情報を得るため私は砂浜の上を裸足で歩き出した。
あれ……、裸足? 靴は履いていた気がするのだけれど。
しかし私はそれどころではない格好だった。見下ろした視線で自身見る。なにこれ素っ裸じゃん!
ひえぇ。
あわてて近くの木に隠れる。どこかで誰かに見られていませんように。
しかしそれは杞憂であった。周りには人どころか生物そのものがいないように感じられる。
やばい。このままでは私の羞恥心がはじけてしまいそうだし、なにより風邪を引いてしまうから、何か羽織るものでも探さなければ。
視線の先にやたら大きな葉をつけた木を見つける。その葉は人一人を巻けるほどの大きさだ。
……いいだろう、それを巻いてみようではないか。ちょっと原始人っぽくなってしまうかもしれないけど、背に腹は代えられない。私はその葉っぱをひっつかんだ。
ひょいっと……ってあれ?
驚くことに私はその葉っぱを引き抜くことができなかった。
いや、表現が間違っているな。
私はそもそもその葉っぱを掴むことすらできなかったのだ。
いざ掴もうとするその間際、私の手はその葉っぱをすり抜けてしまったのだ。これはどういうことだ?
この葉っぱの特性というやつなのか?
私はあたり一帯の木に触れようと試みる。
しかしダメだった。触れるものすべてがすり抜ける。木も石も砂もすべて。
私の脳裏に嫌な想像が過る。
こういう時確認すべきことがあるんだよね。
手のひらを空にかざしてみる。
……うん、透けてるね。私の手のひらにはうっすらと黒い雲が漂って見えた。
想像が当たってるわ、これ。
うん、たぶん私、死んでるわ。
……は?
そんな私はある日通り魔に刺されて殺されて……。
そしてサキュバスに生まれ変わった。
そうだ、私はフラムだ。淫魔の母リュミエールと天使の父との間に生まれた淫魔と堕天使の子。
そんな私は淫魔の人生が嫌になって家を飛び出して……。
そして冒険者になった。
『銀の鎧』のメンバーと出会って別れて。
アイリスに出会ってともに冒険者として働いて。
気づけば私は一つの街の危機を救ってて。
ペンタゴンの調査をギルド長のロバートに頼まれて。
そこでヘプタ盗賊団に捕まって。
気づけばその盗賊団の一つの街を巡った抗争に巻き込まれていた。
だけどその抗争は始まる前に既に終わってしまっていた。
ヘプタ盗賊団が相手取っていたはずのディゴン盗賊団は謎の第三勢力によって壊滅していたのだ。
その第三勢力は一つの怪物であった。
能面のような白い顔は眼窩が黒く吹き抜けているおり、巨大な肢体は赤黒く脈打ちながらその太い手足による四足歩行で私たちを追い回した。かつて人であったと思われるその怪物は、まるで恐怖を体現したかのような容貌であった。
そう、私はこの怪物と戦っていた。
怪物を塔に閉じ込めた私は、塔を倒すことによって怪物を倒したかと思いこんでいた。しかし死したはずの怪物はその超再生をもって死を超克してきた。
そのことに気づけなかった私は目の前でサンが薙ぎ払われるのを見ているしかできなかった。
すぐさま臨戦態勢になった私は、アイリスや駆け付けたヘプタ盗賊団幹部たちとの協力を得て、なんとか善戦するも決定打が打ち込めずにいた。どんなに攻撃をしても、その超再生力ですぐに傷がふさがってしまうのだ。
そこでとっさに思いついたとある作戦を皆に伝えるのだけれど、そこで私は油断をした。
目の前に怪物の放つ黒球。
その直撃を受けた私は、そのまま意識を失ったのだ。
そうだ、全部思い出した。どうして忘れていたのだろう。長い間、それを忘れてしまっていた気がする。
いや、実際長い間忘れていたのだろう。突拍子もないが、私はそれを確信している。
私は長い長い時を過ごしたのだ。それこそ人間にとっては永劫ともいえる時間を。
そういえばここはどこだ。何も見えない。
……いや。
見える。
私は上を見上げた。するとそこにはゆらゆらとゆらめく光が見えた。まるで海面のようだ。
ここは海の中……?
バタバタと足をバタつかせると、体はやがて上へ上へ浮上し始めた。間もなく私はそのゆらめく光に手が届く。
ザバンッ!!
私は海面に浮上し、顔を出す。やはりここは海のようだった。そこで私は視界いっぱいに広がった空に目を開く。
空が……。
暗く、そして赤かった。
朝方とか夕方とかの光の加減などでは決して現れないだろうドス黒い赤。まるで乾いた血のような赤さだ。漂う雲はその空の赤さを強調するかのように黒くくすんでいる。一体全体どういう状況なのだ。
再び辺りを見回す。すると、遠くの方に陸地が見えた。よし、そこまで泳いで向かおう。
小一時間ほど泳いだら、大きな陸地に到着することができた。遠目から見ても陸地は水平線の向こうまで続いていたから、ここは小さな島などではないだろう。もしかしたらどこかの大陸の一部なのかもしれない。大陸であるならば、誰かがきっと住んでいるはずだ。まずはこの状況を整理できる情報が欲しい。
何か情報を得るため私は砂浜の上を裸足で歩き出した。
あれ……、裸足? 靴は履いていた気がするのだけれど。
しかし私はそれどころではない格好だった。見下ろした視線で自身見る。なにこれ素っ裸じゃん!
ひえぇ。
あわてて近くの木に隠れる。どこかで誰かに見られていませんように。
しかしそれは杞憂であった。周りには人どころか生物そのものがいないように感じられる。
やばい。このままでは私の羞恥心がはじけてしまいそうだし、なにより風邪を引いてしまうから、何か羽織るものでも探さなければ。
視線の先にやたら大きな葉をつけた木を見つける。その葉は人一人を巻けるほどの大きさだ。
……いいだろう、それを巻いてみようではないか。ちょっと原始人っぽくなってしまうかもしれないけど、背に腹は代えられない。私はその葉っぱをひっつかんだ。
ひょいっと……ってあれ?
驚くことに私はその葉っぱを引き抜くことができなかった。
いや、表現が間違っているな。
私はそもそもその葉っぱを掴むことすらできなかったのだ。
いざ掴もうとするその間際、私の手はその葉っぱをすり抜けてしまったのだ。これはどういうことだ?
この葉っぱの特性というやつなのか?
私はあたり一帯の木に触れようと試みる。
しかしダメだった。触れるものすべてがすり抜ける。木も石も砂もすべて。
私の脳裏に嫌な想像が過る。
こういう時確認すべきことがあるんだよね。
手のひらを空にかざしてみる。
……うん、透けてるね。私の手のひらにはうっすらと黒い雲が漂って見えた。
想像が当たってるわ、これ。
うん、たぶん私、死んでるわ。
……は?
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