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サキュバスの娘、大罪を断罪す
16 幽鬼のごとく
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北に歩き出して一時間。私たちはディゴン盗賊団の拠点らしきものを発見した。
どうしてこうも簡単に拠点を発見したのかと言うと、道中にひたすらに山積みされたディゴン盗賊団の死体が目印になったからだ。
おそらく第三勢力の攻撃によるものだろう。死体は全て、恐怖で顔を歪めた変死体だった。
「まるで地獄絵図だな」
団員の誰かがそう言った。これを表現するならまさにその言葉は相応しいだろう。
この死した人間たちは今もなお恐怖に怯えているのだろうか。死んだ後にすら希望を残さない、そういった殺され方だ。
ディゴン盗賊団のアジトは、ペンタゴン北部にある領主の別荘らしき場所だった。別荘は広大な庭と大きな白い建物で構成されている。正面ゲートから見れば左右対称にきっちりと整備されており、とても素敵な場所だったんだろうと思わせた。
しかし、今はその庭には死屍累々と遺体が転がっており、別荘の入り口には血の跡が奥まで続いていた。
「気を付けろよ、お前ら。まだ敵が残っているかもしれねえ」
族長はそういうが、建物内から音が一切聞こえない。きっともぬけの殻だろう。
しかし私たちは身長にその建物に入っていった。
入って直ぐの部屋は大きなホールとなっていた。目の前に階段が左右に分かれて降りてきている。
赤いカーペットは、盗賊団が走り回ったのか泥で汚れていた。
血の跡は階段を上り、右側に続いていた。
族長は団員を何組かに分けてこの建物を捜索することにしたらしい。私たちのグループは、サンと共にその血の跡を追うよう指示された。
「妙に静かで怖いですの。ご主人様」
「確かに怖い。まだ敵が潜んでいるかと思うと逃げ出したくなっちゃうよ」
「逃げんなよ~アンタら。勝手に逃げて勝手に首吊るなんて、アタイ見たくないんだからよ」
そうしていると、キュイールが近くの遺体に触れているのが見えた。
「その遺体、どうかしたんですか?」
「いや、まだこの遺体。温かいんだ。死んでからまだそんなに時間が経っていない」
え、っていうことはまだ敵が近くに潜んでいる可能性があるっていうこと?
私たちはさらに緊張を高めて血の跡を追いかけた。
血の跡は、一番奥の部屋まで続いていた。
すると、別方向から誰かが叫ぶ声が聞こえた。
「おい、みろよ!!! この別荘、めちゃくちゃ金が落ちてるぞ!!」
「本当か! もっと探せばあるかもしれねえな!」
その歓声にも似た声に当てられた私たちのグループの何人かが、こぞって先頭を追い抜き部屋を調べようとし始めた。
「おい、お前ら! 勝手に動くんじゃねぇ! まだ危険が――」
サンがそう叫ぶや否や、目の前の団員たちが突然漆黒の闇に包まれた。
血の跡の続く部屋から漏れ出た真っ黒の瘴気。
その瘴気が晴れ、視界が開いた時には目の前に団員達の変わり果てた姿が転がっていた。
どれも、
眼球を真っ白に染め、恐怖でやつれた顔をしていた。
「あのたった一瞬で殺されたのかっ!?」
キュイールが即時判断して抜刀する。それに続き、私たちも臨戦態勢に応じる。
「な……、なんてことだ」
サンが目の前で殺された団員たちを見てショックを受けてしまっている。先ほどまで共にいた仲間。サンにとっては家族同然の存在だったはずだ。
しかし、今はそうは言っていられない状況。私はサンを叱咤する。
「サン! 立ち上がって! 今立たなかったら、死んじゃうよ! ここで死んだら、誰がこの人たちを弔うの!」
「……ッ!」
サンは直ぐに立ち上がった。少女とはいえ、盗賊として命を削ったこともある子だ。気持ちの切り替えは早かった。
「わりい、突然のことでビビっちまった。そうだよな、こいつらのためにも生きてこの街を奪わないとな」
先ほど黒い瘴気が出た扉が、ドンっと吹き飛ばされた。中から、赤黒く染まった長い長い人間の腕のような何かが這い出てきた。
全身が扉から出てくると、ソイツはこちらを見渡した。
「まだいたんだね」
眼球の無い、黒い空洞のような目はとてつもない恐怖感を煽った。辛うじて人間のような形をした顔は生気が無い幽鬼のようだ。その長い髪の毛は、某ホラー映画を想起させた。
身体は肥大化しており、四足歩行でしか動けないような恰好だ。形だけで言うなら蜘蛛に近い。
その怪物は私たちを見据えていた。
「あなたがここの人たちを殺したの?」
「いいや、オレは殺してないさ。勝手に生きるのをやめられたんだよ。オレはオレの恐怖を共有してほしかっただけなんだ。オレの怖さを知ってほしいだけなんだ。みーんな、この恐怖を知っちゃうと生きるのを放棄してしまう。それならオレはなんなんだ。オレはオレの恐怖を知っているのになぜ生きているんだ? なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ?」
背後から、私たちの様子を伺いに来た団員達がやってきた。その団員たちは、目の前の化け物を見ると恐怖で叫び出した。
「ひやああああ!」
「なんだこいつはあああ!」
その声にピクリと目の前の怪物が反応した。
「お前らも怖いのか。オレの恐怖とどっちが怖いかな」
怪物から先ほどと同じような黒く禍々しい瘴気が漏れ出る。
「まずいっ! 窓から飛び降りろ!」
「……えっ?」
キュイールはサンを、アイリスは私を抱き寄せて右側の窓をぶち破り飛び降りた。そのすぐ横を黒い瘴気がとんでもない速さで通り過ぎるのを感じた。間一髪だ。
窓から飛び降りられなかった団員達が、その瘴気に飲まれていくのを私は見た。
どうしてこうも簡単に拠点を発見したのかと言うと、道中にひたすらに山積みされたディゴン盗賊団の死体が目印になったからだ。
おそらく第三勢力の攻撃によるものだろう。死体は全て、恐怖で顔を歪めた変死体だった。
「まるで地獄絵図だな」
団員の誰かがそう言った。これを表現するならまさにその言葉は相応しいだろう。
この死した人間たちは今もなお恐怖に怯えているのだろうか。死んだ後にすら希望を残さない、そういった殺され方だ。
ディゴン盗賊団のアジトは、ペンタゴン北部にある領主の別荘らしき場所だった。別荘は広大な庭と大きな白い建物で構成されている。正面ゲートから見れば左右対称にきっちりと整備されており、とても素敵な場所だったんだろうと思わせた。
しかし、今はその庭には死屍累々と遺体が転がっており、別荘の入り口には血の跡が奥まで続いていた。
「気を付けろよ、お前ら。まだ敵が残っているかもしれねえ」
族長はそういうが、建物内から音が一切聞こえない。きっともぬけの殻だろう。
しかし私たちは身長にその建物に入っていった。
入って直ぐの部屋は大きなホールとなっていた。目の前に階段が左右に分かれて降りてきている。
赤いカーペットは、盗賊団が走り回ったのか泥で汚れていた。
血の跡は階段を上り、右側に続いていた。
族長は団員を何組かに分けてこの建物を捜索することにしたらしい。私たちのグループは、サンと共にその血の跡を追うよう指示された。
「妙に静かで怖いですの。ご主人様」
「確かに怖い。まだ敵が潜んでいるかと思うと逃げ出したくなっちゃうよ」
「逃げんなよ~アンタら。勝手に逃げて勝手に首吊るなんて、アタイ見たくないんだからよ」
そうしていると、キュイールが近くの遺体に触れているのが見えた。
「その遺体、どうかしたんですか?」
「いや、まだこの遺体。温かいんだ。死んでからまだそんなに時間が経っていない」
え、っていうことはまだ敵が近くに潜んでいる可能性があるっていうこと?
私たちはさらに緊張を高めて血の跡を追いかけた。
血の跡は、一番奥の部屋まで続いていた。
すると、別方向から誰かが叫ぶ声が聞こえた。
「おい、みろよ!!! この別荘、めちゃくちゃ金が落ちてるぞ!!」
「本当か! もっと探せばあるかもしれねえな!」
その歓声にも似た声に当てられた私たちのグループの何人かが、こぞって先頭を追い抜き部屋を調べようとし始めた。
「おい、お前ら! 勝手に動くんじゃねぇ! まだ危険が――」
サンがそう叫ぶや否や、目の前の団員たちが突然漆黒の闇に包まれた。
血の跡の続く部屋から漏れ出た真っ黒の瘴気。
その瘴気が晴れ、視界が開いた時には目の前に団員達の変わり果てた姿が転がっていた。
どれも、
眼球を真っ白に染め、恐怖でやつれた顔をしていた。
「あのたった一瞬で殺されたのかっ!?」
キュイールが即時判断して抜刀する。それに続き、私たちも臨戦態勢に応じる。
「な……、なんてことだ」
サンが目の前で殺された団員たちを見てショックを受けてしまっている。先ほどまで共にいた仲間。サンにとっては家族同然の存在だったはずだ。
しかし、今はそうは言っていられない状況。私はサンを叱咤する。
「サン! 立ち上がって! 今立たなかったら、死んじゃうよ! ここで死んだら、誰がこの人たちを弔うの!」
「……ッ!」
サンは直ぐに立ち上がった。少女とはいえ、盗賊として命を削ったこともある子だ。気持ちの切り替えは早かった。
「わりい、突然のことでビビっちまった。そうだよな、こいつらのためにも生きてこの街を奪わないとな」
先ほど黒い瘴気が出た扉が、ドンっと吹き飛ばされた。中から、赤黒く染まった長い長い人間の腕のような何かが這い出てきた。
全身が扉から出てくると、ソイツはこちらを見渡した。
「まだいたんだね」
眼球の無い、黒い空洞のような目はとてつもない恐怖感を煽った。辛うじて人間のような形をした顔は生気が無い幽鬼のようだ。その長い髪の毛は、某ホラー映画を想起させた。
身体は肥大化しており、四足歩行でしか動けないような恰好だ。形だけで言うなら蜘蛛に近い。
その怪物は私たちを見据えていた。
「あなたがここの人たちを殺したの?」
「いいや、オレは殺してないさ。勝手に生きるのをやめられたんだよ。オレはオレの恐怖を共有してほしかっただけなんだ。オレの怖さを知ってほしいだけなんだ。みーんな、この恐怖を知っちゃうと生きるのを放棄してしまう。それならオレはなんなんだ。オレはオレの恐怖を知っているのになぜ生きているんだ? なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ?」
背後から、私たちの様子を伺いに来た団員達がやってきた。その団員たちは、目の前の化け物を見ると恐怖で叫び出した。
「ひやああああ!」
「なんだこいつはあああ!」
その声にピクリと目の前の怪物が反応した。
「お前らも怖いのか。オレの恐怖とどっちが怖いかな」
怪物から先ほどと同じような黒く禍々しい瘴気が漏れ出る。
「まずいっ! 窓から飛び降りろ!」
「……えっ?」
キュイールはサンを、アイリスは私を抱き寄せて右側の窓をぶち破り飛び降りた。そのすぐ横を黒い瘴気がとんでもない速さで通り過ぎるのを感じた。間一髪だ。
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