サキュバスの娘だって冒険したい 〜転生したら淫魔の娘だったので、魅了や触手を駆使して世界を堕とします〜

三文小唄

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サキュバスの娘、大罪を断罪す

14 族長会議②

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「ウァンは未帰還だ。このことから考えるに、既に死亡していると思われる。しかし、敵が襲撃してこないことを見るに奮戦したのだろう。今何人かをそちらに送り、調査しているところだ。アイツが無事に戻ってくることをここで祈ろう」

族長は悲しげに告げる。実に盗賊団の頭領らしくない表情だ。今この顔だけを切り取れば、とても盗賊団とは思えなかっただろう。哀愁漂う族長からは皆の父親のような人柄を見出してしまった。
思えば私には前世の父親の記憶しかない。

こっちの世界の父親は私が誕生した時点で既に故人だ。前世の父だって、最後に見たのは十年以上も前だ。記憶はセピア色に染まり、輪郭ははっきりとしない。
だけれど、この族長は間違いなく皆の父親のような存在なのだと確信した。

それは先ほどサンが族長に向けていた笑顔からもわかる。愛し愛されているのだな。
そのことが少し羨ましく思えた。

「さて、次はギルド待機組だ。サン、頼む」
「はい、アタイはここ冒険者ギルドにて最終防衛線を張ってたよ。さっきファバダが言っていたように、押されて撤退した北チームの応援に入った。ギルド待機組の被害は怪我人が10名ほど。そのうちが遠距離攻撃によるものだった。このままだと押し切られると思ったアタイは、地下牢に捉えていた捕虜二名に協力してもらった。コイツらは、遠距離攻撃してくる奴を撃退してくれたって、みんな言ってたぜ。一先ずはこんなところかな」
「よくやった、サン。お前のおかげでファバダ率いる北チームを失わずに済んだ」
「へへっ」

父親に褒められたのがうれしかったのか、サンは無邪気な表情で笑って見せた。そこだけ見ればまだまだ少女然としているんだけどなあ。同年代の少女とは比べるべくもない程逞しいんだよね。
そして間違いなく近接戦闘が強い。あの荒縄捌きを見れば誰もが畏怖の念を抱くだろう。

そこで族長が初めて私たちを見ていることに気付いた。

「お前らがフラムとアイリスとかいう冒険者か。お前の仲間にこっちも四人やられてんだ。初めはお前らもぶち殺してやろうかと思ったが、サンが止めたんだ。だが、今回役立ってくれたようだな。ギルド待機組の何人かが、俺に報告してきてたよ。まだお前らを信頼するつもりはねえが、一先ず感謝しておこう」
「あ、ありがとうございます?」

その凄味のある顔で感謝されても、正直怖いんですけど。私のことはいいから、さっさと元の話題に戻ろう?

「それじゃあ、最後だ。遊撃隊のルルイエはいるか?」
「ここに」

何処からともなく声がした。辺りを探すと、部屋の隅にあった燭台の影が不自然に揺らぐのが見えた。
影はにゅるりと形を変え、波紋を立たせるように中から人が出てきた。
これは闇魔法……? 三年前に洞窟で見た闇スライムの使っていた魔法だ。

しかし闇魔法の影潜伏は、一定の光量で照らされて出来た物質の影しか侵入できない。別の物質の影には移れないし、別の大きな影に重なると自動的に解除されてしまう。
非常に使い勝手の悪い魔法だ。

だが、今出てきたこの人間はどう見ても初めから燭台の影に潜伏していたとは思えない。影から影の移動が出来ていた。つまり闇魔法じゃなく、その上の魔法なのだろう。

声の主は、族長の隣に立った。
長身で細身な女性だ。動物の毛皮で出来た服で隠れてしまっているがかなりプロポーションは良い。世が世ならモデルさんになれただろう。目立ったところと言えば、右目に眼帯を付けているところだろうか。

「遊撃隊の報告です。私は主に北と北西にいる敵を掃討しておりました。北が後退したのを確認したため、後方から襲撃を行いました。その時、ギルド待機組にいたそちらの冒険者二人の援護もあり非常に円滑に対処できました。被害は無しです」

以上、と一言告げた彼女は再び自身の影に潜って移動してしまった。なるほど、自身の影にも潜れるのか。それは非常に使い勝手のよさそうな魔法だな。私も使えるかな。闇魔法の上級魔法になるだろうから大変だと思うけど……うーむ。

さて、これで一先ずの状況報告が出来たわけだ。私はこの会議にどこまで参加してればいいのかな。キュイールが真面目に参加している手前、一人だけ抜け出すわけにもいかないよね。
はっきり言って、このヘプタ盗賊団から抜け出す算段は既につけてある。

しかし、抜け出すにも慎重を期す必要があるし、この首の荒縄だって取れるかどうかは賭けになるだろう。荒縄が解けたとしても、敵地のど真ん中では逃げようがない。出来る限り油断させるのが大事になってくるのだ。

「これで戦況報告は以上になるな。皆、疲れただろう。しかしまだ気を緩めるには早い。今後の方針を決めようと思う。今回は敵の奇襲が早く来たために防衛線になってしまったが、人数の関係上俺らがすべきは敵の本陣を叩くことだ。だからここから反撃に打って出る必要がある。それもできるだけ早い方がいいだろう。怖いのは第三勢力の介入だが……」

族長がそう言いかけたところで、突然会議室の扉が勢いよく開けられた。

「族長!! 大変でやす!」
「何事だ」

ぜえぜえと息を切らして入ってくる団員。どうやら、北東チームの様子を窺いに行ったメンバーらしい。

「俺ら、北東チームの方へ見に行ったんでやすが……。やっぱりウァンさん含め全滅でやした」
「やはりそうか……」

族長の顔は暗くなる。だが話はそれだけに終わらなかった。

「ただ、ディゴン盗賊団も同様に全滅していやした。死体は全部で250体。そのうちの100体程が、以前発見した変死体と同様の状態になったやした!」
「……第三勢力が動き出したってことか」

族長が深く考えるそぶりを見せた。ついに第三勢力が介入を始めた。これは波乱の戦いが巻き起こる予兆だ。

「その第三勢力はどっちの方へ進んだか足取りはわかるか?」
「おそらくですが……、北側かと。死体は北の方へ向かって増えて言ってやした。俺たちは身の危険を感じて途中で引き返してしまいやしたが」
「いや、それでいい。よく戻ってきてくれた。少し休め」
「はい! 失礼しやす!」

団員はその報告だけ終えると、会議室を去った。
北か……、つまりディゴン盗賊団の拠点側へ行った可能性が高いという事か。
族長はどう判断するんだろうか。

「…………。明日の朝、北東方面を経由してディゴン盗賊団を狩る。あわよくば漁夫の利を得るぞ! ここが勝負時だ。お前ら、行くぞぉぉぉ!!!」

族長が大きな声で発破をかけると、会議室の全員が大声でその声明に賛同を示した。
明日、大規模な戦いが決行される。
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