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サキュバスの娘、大罪を断罪す
10 遠距離の戦い
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私たちがたどり着いたのはここの建物の三階だ。
冒険者ギルドというのはどこも大きいのだろうか。ペンタゴンの元冒険者ギルドであるこの建物は、アブリル中央街の冒険者ギルド本部程ではないが大きい。
それだけペンタゴンという街が巨大だということだろう。
三階のバルコニーにはたくさんの盗賊団が下に向かって魔法や矢を放っていた。
その中の一人にサンは混ざっていた。
あんな小さな少女なのに、大人と混じって戦っている。それは異様な光景に見えた。
「やっときたかアンタら」
サンは背後にいた私たちを視界に捉えると話しかけてきた。しかしその手が緩むことはない。
サンの右手には長い縄が握られていた。その縄の先はバルコニーから下に垂れ下がっており、やってくるディゴン盗賊団を蹴散らしていた。
まるで生き物のように動く荒縄は、そのしなる勢いで盗賊を吹き飛ばす。触れればざらざらとした表面で皮膚が抉られ、捕まれば振り回される。実に恐ろしい攻撃手段だった。
「私たちはどうすればいい?」
「アンタらのやりやすいようにすればいいさ。どうせアンタらはここから逃げだせない。遠距離が得意ならこのバルコニーから。近距離が得意ならこの真下で手伝いな。ただ、いつこの防衛線が崩れるかわからねえ。敵にも強大なスキルを持った奴がいるかもしれねえから精々油断するなよ。仮にも冒険者なんだから、バカな死に方はすんなよな」
そういうと、サンはバルコニーから飛び降りてしまった。地面に着地する瞬間、荒縄をバルコニーにひっかけてその衝撃を和らげる。そして、空いた手で持つ荒縄が伸縮自在に伸びて落ちていた剣を絡めとった。
その後の光景は凄惨なものになった。先端が剣という凶器に変わったそれは、遠心力の力でサンを中心にして盗賊を切り刻んでいった。荒縄にはああいう使い方があるのか……。
『荒縄の服罪』……、恐ろしすぎる。
もし私の『屈服の服罪』と戦ったらどうなるのだろう。正確に縄へ屈服の重力場を当てられたら無力化できるかもしれない。しかし、変幻自在に動くあの縄を正確に捉えられるか甚だ怪しいところだった。
ハイドがシェリルに向かって使っていた精神的な『屈服』はまだ使ったことがない。あれは、相手が何かしらの敗北感を精神的に負っていないと発動できないみたいだ。それもその敗北感の強さに応じて屈服の強さが変化する。
相手を意のままに操るような圧倒的『屈服』は、それ相応の敗北感を与える必要が生じる。
そう簡単にそこまで都合よくいかないだろう。
「アイリスはどうする? バルコニーから攻撃する? それとも一階に向かう?」
「うーん、私はどちらでもかまいませんわ。近距離攻撃として鞭は持っておりますし、魔法も遠距離のホーリーアローがありますもの」
鞭を持ったアイリスが可愛らしく小首をかしげる。その姿は本当にかわいいのだが、いかんせん鞭を持っているせいかドSな小悪魔にしか見えない。いや実際にアイリスは淫魔なのだから、悪魔といえば悪魔なのか?
どちらにせよ、逃げるという選択肢は私たちにはない。私は基本的に武器を使ったことがないからなぁ。せいぜいお母さんから護身術としてナイフの扱いを受けた程度だ。
『――男が腹ばいになって襲ってきたらこう!』みたいな護身術だから、あんまりあてにならないけど。
私がそんなことを思っていると、突如バルコニーがざわついた。今は協力関係にあるヘプタ盗賊団が空を見つめて叫んでいたのだ。その視線の先には、数多の火矢と魔法。
ディゴン盗賊団の攻撃だ。火矢と魔法がバルコニーを襲う。
私とアイリスは慌てて建物内へと避難したが、中には逃げきれずに攻撃の餌食となる者も出た。
このままでは一階の方への支援攻撃ができない。攻撃が止んだタイミングで私は再びバルコニーへと走った。
どこだ。どこから撃ってきている……。あそこだ!
前方の崩れた建物。その屋上から数人の男たちが魔法を放ってきていた。火矢はその向かいの建物からだ。私が出てきたのが見えたのか、直ぐに攻撃を開始しようとするのが見えた。場所を把握した私は、敵の攻撃から一旦退く。
「私は左側の魔法を打ってくる集団に攻撃する。アイリスは右側の弓集団をお願い」
「わかりましたの」
魔法と火矢が降りやんだ隙を見て、私たちは再び駆けだす。場所は覚えている。この距離なら牽制程度には効くだろう。
「「光魔法――ホーリーアロー!」」
私とアイリスはほぼ同時に光の矢を放つ。無数に放たれた光の矢は、遠方にいた男たちに何本か命中した。速度が通常の弓矢よりも速いせいか、意外と当たった。
我ながら凄いのでは……。おっと、遠距離攻撃してくる相手をしていても相手の思うつぼだ。一階の援護も並行して行わなければ。
「おーい、ヘプタ盗賊団さん! 火矢と魔法は私たちに任せてください。その代わり下にいる人たちの援護をお願いします!」
ヘプタ盗賊団たちは、最初こそ戸惑っていたが私たちの首に巻かれた縄を見て何かを察したのか、直ぐに加勢してくれた。
なるほど、皆この縄の事知っているんだね。つまり、本当に裏切ったら首が吊るされるのか……。
これが発動したらと思うと怖気が走る。しかし、今はやることやらないと……!
勢いが若干戻ったヘプタ盗賊団は、防衛線を押し返していった。
この調子なら第一波は凌げそうだ。私がそう思っていると、後ろの建物の方で動く気配がした。
気になって目をやると、こそこそと隠れているキュイールが目に入った。
キュイールは私が気づいたことに安心すると、くいっとこちらに来るように指示する。
なんだろう。何かあったのかな。
私はアイリスと共に、キュイールの方へと向かった。
冒険者ギルドというのはどこも大きいのだろうか。ペンタゴンの元冒険者ギルドであるこの建物は、アブリル中央街の冒険者ギルド本部程ではないが大きい。
それだけペンタゴンという街が巨大だということだろう。
三階のバルコニーにはたくさんの盗賊団が下に向かって魔法や矢を放っていた。
その中の一人にサンは混ざっていた。
あんな小さな少女なのに、大人と混じって戦っている。それは異様な光景に見えた。
「やっときたかアンタら」
サンは背後にいた私たちを視界に捉えると話しかけてきた。しかしその手が緩むことはない。
サンの右手には長い縄が握られていた。その縄の先はバルコニーから下に垂れ下がっており、やってくるディゴン盗賊団を蹴散らしていた。
まるで生き物のように動く荒縄は、そのしなる勢いで盗賊を吹き飛ばす。触れればざらざらとした表面で皮膚が抉られ、捕まれば振り回される。実に恐ろしい攻撃手段だった。
「私たちはどうすればいい?」
「アンタらのやりやすいようにすればいいさ。どうせアンタらはここから逃げだせない。遠距離が得意ならこのバルコニーから。近距離が得意ならこの真下で手伝いな。ただ、いつこの防衛線が崩れるかわからねえ。敵にも強大なスキルを持った奴がいるかもしれねえから精々油断するなよ。仮にも冒険者なんだから、バカな死に方はすんなよな」
そういうと、サンはバルコニーから飛び降りてしまった。地面に着地する瞬間、荒縄をバルコニーにひっかけてその衝撃を和らげる。そして、空いた手で持つ荒縄が伸縮自在に伸びて落ちていた剣を絡めとった。
その後の光景は凄惨なものになった。先端が剣という凶器に変わったそれは、遠心力の力でサンを中心にして盗賊を切り刻んでいった。荒縄にはああいう使い方があるのか……。
『荒縄の服罪』……、恐ろしすぎる。
もし私の『屈服の服罪』と戦ったらどうなるのだろう。正確に縄へ屈服の重力場を当てられたら無力化できるかもしれない。しかし、変幻自在に動くあの縄を正確に捉えられるか甚だ怪しいところだった。
ハイドがシェリルに向かって使っていた精神的な『屈服』はまだ使ったことがない。あれは、相手が何かしらの敗北感を精神的に負っていないと発動できないみたいだ。それもその敗北感の強さに応じて屈服の強さが変化する。
相手を意のままに操るような圧倒的『屈服』は、それ相応の敗北感を与える必要が生じる。
そう簡単にそこまで都合よくいかないだろう。
「アイリスはどうする? バルコニーから攻撃する? それとも一階に向かう?」
「うーん、私はどちらでもかまいませんわ。近距離攻撃として鞭は持っておりますし、魔法も遠距離のホーリーアローがありますもの」
鞭を持ったアイリスが可愛らしく小首をかしげる。その姿は本当にかわいいのだが、いかんせん鞭を持っているせいかドSな小悪魔にしか見えない。いや実際にアイリスは淫魔なのだから、悪魔といえば悪魔なのか?
どちらにせよ、逃げるという選択肢は私たちにはない。私は基本的に武器を使ったことがないからなぁ。せいぜいお母さんから護身術としてナイフの扱いを受けた程度だ。
『――男が腹ばいになって襲ってきたらこう!』みたいな護身術だから、あんまりあてにならないけど。
私がそんなことを思っていると、突如バルコニーがざわついた。今は協力関係にあるヘプタ盗賊団が空を見つめて叫んでいたのだ。その視線の先には、数多の火矢と魔法。
ディゴン盗賊団の攻撃だ。火矢と魔法がバルコニーを襲う。
私とアイリスは慌てて建物内へと避難したが、中には逃げきれずに攻撃の餌食となる者も出た。
このままでは一階の方への支援攻撃ができない。攻撃が止んだタイミングで私は再びバルコニーへと走った。
どこだ。どこから撃ってきている……。あそこだ!
前方の崩れた建物。その屋上から数人の男たちが魔法を放ってきていた。火矢はその向かいの建物からだ。私が出てきたのが見えたのか、直ぐに攻撃を開始しようとするのが見えた。場所を把握した私は、敵の攻撃から一旦退く。
「私は左側の魔法を打ってくる集団に攻撃する。アイリスは右側の弓集団をお願い」
「わかりましたの」
魔法と火矢が降りやんだ隙を見て、私たちは再び駆けだす。場所は覚えている。この距離なら牽制程度には効くだろう。
「「光魔法――ホーリーアロー!」」
私とアイリスはほぼ同時に光の矢を放つ。無数に放たれた光の矢は、遠方にいた男たちに何本か命中した。速度が通常の弓矢よりも速いせいか、意外と当たった。
我ながら凄いのでは……。おっと、遠距離攻撃してくる相手をしていても相手の思うつぼだ。一階の援護も並行して行わなければ。
「おーい、ヘプタ盗賊団さん! 火矢と魔法は私たちに任せてください。その代わり下にいる人たちの援護をお願いします!」
ヘプタ盗賊団たちは、最初こそ戸惑っていたが私たちの首に巻かれた縄を見て何かを察したのか、直ぐに加勢してくれた。
なるほど、皆この縄の事知っているんだね。つまり、本当に裏切ったら首が吊るされるのか……。
これが発動したらと思うと怖気が走る。しかし、今はやることやらないと……!
勢いが若干戻ったヘプタ盗賊団は、防衛線を押し返していった。
この調子なら第一波は凌げそうだ。私がそう思っていると、後ろの建物の方で動く気配がした。
気になって目をやると、こそこそと隠れているキュイールが目に入った。
キュイールは私が気づいたことに安心すると、くいっとこちらに来るように指示する。
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