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サキュバスの娘、大罪を断罪す

7 勢力図

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「アイリス―、そっちの方はどう?」
「ぼちぼちやれていますの」

私たちは今ヘプタ盗賊団によって牢獄の中に閉じ込められていた。そんな私たちは、ここからの脱出を図るために一計を案じていた。そして閃いたのが、鉄格子ではなく壁を破壊するというものだ。

私とアイリスはどうやら隣の牢に入れられているらしい。それを隔てているのは石で出来たレンガだけ。このレンガを両脇から削ることによって一先ずアイリスと合流しようと画策したのだ。削るのは、右足に括り付けられた足枷の先にある鉄球。

この鉄球でひたすらぶつけて削る。なんとも地味だが、やらないよりはマシだ。正直、いつサンが戻ってくるかはわからないが、バレないうちにさっさと削りきってしまおう。
私たちが、ガンガンと石レンガを叩いていると牢の向こうから突然声が掛けられた。

「おい、何してんだ」
「ひえっ!!」
「きゃっ!」

余りにも突然のことに悲鳴を上げてしまった。しかしそれよりも私の悲鳴だけ可愛くないことに驚いた。
声を掛けてきた主は、サンと同じような恰好をした男だった。無精髭を生やしてはいるが、そんなに歳は取っているように見えない。実際年齢は若いのだろう。

「お前らも冒険者か?」
「お前らも……ってどういうことですか? もしかしてあなたは元冒険者か何かですか?」

どうやら私の予想は当たっていたようだった。男は、周りを伺いながら静かに首を縦に振った。

「俺の名はキュイールと言う。まだ冒険者だ。今は冒険者ギルドの仕事でこの盗賊団に潜入してるんだ。俺の持つスキルはこういうの得意だからな。既に一週間はこの団に所属している」

それはすごい……。潜入が得意な冒険者もいるんだな。

「今お前らを助けることはできないが、いずれ解放してやる。だから今から話すこの状況だけを知っておいてくれ」

キュイールはそう前置きをして語る。

「今俺はヘプタ盗賊団に諜報員としてこの街を調べているが、現状のペンタゴンは緊迫した状況下にある。ここペンタゴンではたくさんの盗賊団が我先にとここへ集まってきているんだ。その中でも一際大きい勢力が三つ。ヘプタ盗賊団と、ディゴン盗賊団、そして謎の第三勢力だ」

そんなたくさんの盗賊団が既にここで争っているのか。
しかしそれよりも気になるのが一つあった。

「その謎の第三勢力ってのは一体なんなんですか?」

ここまで出てきたのは盗賊団だ。しかし、その第三勢力というのは盗賊団ではない勢力なのだろうか。もしかして、ペンタゴンで生き残った住民が奮起した勢力なのではないのか?
だとしたら、私たちはその勢力を何としてでも守らなければならない。

だが、キュイールは神妙な面持ちをしていた。どう伝えればいいのかわからないといった風だ。

「それが全く分からないんだ。構成員も名前も一切不明。そもそも人間なのかすらわからん。何かの自然現象なのかもしれない。わかっているのは、その勢力が残す跡だけだ」
「その跡って一体なんですか?」
「変死体だよ、人間のね。それはそれは恐ろしい死に方をしていたよ。まるで恐怖を張り付けたようにショック死しているんだからね。俺もその死体を見たが、しばらく吐き気が止まらなかったよ」

そんなに恐ろしい死に方をした人がいるのか。それをやってのける勢力とは一体どんなやつらなのか。できれば出会いたくない。

「もうじきヘプタ盗賊団とディゴン盗賊団はぶつかりあう。おそらくそこに第三勢力も加わると考えるとかなりの混乱が起きるだろう。お前らを助けるのはその時になってからだ。それまで辛抱していられるか?」
「はい、わかりました!」

もちろんだ。そんな絶好のチャンスがあるのなら、使わない手はない。

「それじゃ、俺は盗賊団の方に戻る。ここには見回りで来ているだけだからな。あまり長居すると怪しまれる。それと一つだけ忠告しておく。族長の娘のサンには気をつけろよ。あの子は特別なスキルを持っているらしい。彼女だけが盗賊団の中でも殊更に優遇され過ぎている。……それじゃ、健闘を祈る」

キュイールはそれだけ言うと、ひとつにこやかに笑みを浮かべて去っていった。
随分と話しやすい印象を受けた。もしかしたら、あれも何かのスキルを使っていたのかもしれない。
そのスキルでもって潜入出来たのだろう。

「アイリス、今のちゃんと聞こえてた?」
「もちろんですの。私の耳はいいのですわ!」

それじゃ、待つとしますか。先ほどまで一生懸命石を叩いていたが、その必要もないとわかると一安心だ。
気が抜けたせいなのか、私のお腹が鳴った。

「お腹すいたね」
「そうですわね……」

もし次に誰か来たら、食べ物でも要求しないとね。それまで少し寝てごまかすとしますか。
私は硬い床の上で寝転がり、惰眠を貪ることに決めた。
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