上 下
44 / 77
冒険者になる

27 試験会場

しおりを挟む
「冒険者登録の方ですか?」



入って直ぐ隣にカウンターがあり、そこから受付嬢が訪ねてくる。前回と同じ動きだ。

私は前回とは違う。今回はギルド長と話がついているんだからねっ。

今の私はかなり強気だよ!



「ギルド長より手続きを済ませられるよう手配されたフラムです」

「ギルド長っ! かしこまりました」



受付嬢は、カウンター奥へと引っ込む。ギルド長と聞いて、慌てて出て行ったね。そういえば、前回の時の受付嬢とは違う人みたいだった。



しばらくすると受付嬢は戻ってきた。若干息が切れているように見えたが、私は気にしない。



「お待たせいたしました。確認が取れましたので、奥の部屋にどうぞ。そちらで書いていただくものがございます」



私は受付嬢から紙を二枚貰った。あれ、どっちも同じ用紙みたいだけど。



「それは私のですの、ご主人様」



振り返れば、扉の前で別れたはずのアイリスが浮いていた。シェリルはおそらく外で待っているのだろう。



「アイリスは領主の娘なんだから、冒険者になる必要はないんじゃないの? というか成れるの?」

「それは問題ありませんの。私こう見えて光魔法は得意ですのよ。もうすでにサキュバスとしてご主人様の眷属になってしまったのですもの。ご主人様から離れることなどできないのです。つまり、旅には私も付き添いますわ」



な、なんだってぇー!

てっきり、アイリスは中央街に残るものだと思っていた。だって領主の娘だよ?

連れ出したらやばいんじゃないの?

やばいからこそ、騎士団長を含む騎士団がアイリスを追っかけていたわけなんだし。



「いえ、ご主人様が寝ている間に、騎士団長とギルド長には話が通しておきましたの。しかも二人経由でお父様にもね。淫魔の眷属になったって言ったら、泡を吹いて倒れてしまったそうですの。しばらくは起きませんわね」



それは大丈夫じゃないんじゃないのかっ! お父さんが可哀そうすぎる!

というか、しばらく見ないと思ったら娘が淫魔の眷属になったって聞いたら、そりゃショックだよね。うわー、なんかごめんなさい。



「いいんですの。いい加減お母様と仲直りして、新しいお子を産む絶好の機会ですの。そもそも淑女のわたくしが領主になれば、近いうちに婿を取ることになるのですからいてもいなくても変わりありませんわ」

「そうなの……か?」



私たちは、受付嬢に案内された奥の部屋に向かう。

部屋の中は広くなっており、闘技場のような雰囲気を醸し出していた。

床は、一定のところから土に変わっている。天井はかなり高い位置にあった。この建物の天井じゃないかな、これは。

見れば、2階、3階部分に相当する高さのところにそれぞれ入り口らしき扉があり、闘技場を囲むように観客席が設置されていた。

私たちが入ってきた扉から正面奥の観客席、その3階部分にはVIP席のようなものも設置されていた。とはいっても、軽く豪奢な柵がしてある程度だけど。



「大きいね、このフロア」

「そうですわね」



私たちが関心していると、別の扉から男が入ってきた。

やたら筋骨隆々りゅうりゅうな男だ。武器らしきものは持っていないようだが、金属プレートを体の一部に巻いている。ちなみに上半身はほぼ裸だ。

寒くないのだろうか。

『耐寒』を持つ私でも、ここの世界の冬は寒く感じるぞ。今は冬じゃないけどさ。



「よく来たな。俺は試験官兼教官のジェネルだ。早速だが、貰った紙に必要事項でも書いとけ。そこの台を使いな。終わったら、俺のところまで持ってこい。俺は向こうで待ってるからよ」



それだけ言うとジェネルは闘技場の中央の方まで歩いて行った。

必要事項か。

私たちは紙に記された項目を記入していく。

記入と言っても名前と種族、得意なスキルを三つ書くというものだ。



私はこの時少し悩む。私の種族って淫魔でいいのか?

同じようにアイリスも悩んでいた。



「私、もともと人間でしたけれど、今は淫魔ですしどうすればよろしいのでしょう」



まあ、確かにそうだね。今、淫魔だもんね。

迷った末二人とも淫魔と記入する。

サキュバス二人が冒険者登録をしに来る絵面ってなんだか滑稽だな。

あとは、得意なスキルかあ。



私は一応火魔法が得意になるのかな? 唯一、その上の火炎魔法のスキルまでになってるし。

淫魔魔法も火魔法の系統らしいし。

ということで、火魔法・火炎魔法・淫魔魔法の三つを記入しておいた。



アイリスの方はというと。

私はこっそり記入用紙を覗いた。そこには光魔法・空間魔法・眷属魔法が書かれていた。



「あ、ご主人様! 見ないでくださいませ。恥ずかしいですの」

「あー、ごめん」



アイリスは私に気付いて、照れたように紙で顔を隠した。その姿は可愛らしいものだけど、なぜ照れるんだろ。書かれてるものって名前と種族とスキルだよね。

そういえば、眷属魔法ってのは初めて聞いたな。一体どんなものなんだろう。あとでそれとなくアイリスに聞いてみるか。



書き終わった私たちは、中央で剣の素振りをしているジェネルのところへと向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...