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冒険者になる
幕間 とある男と少女
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一通りこの町の人間は埋葬した。
なんと5日も掛かってしまったのだ。思った以上に死体を埋葬するのは手間がいる作業だった。
最初に死体を集めるので1日掛けた。
穴を掘る作業で3日。
焼く作業で丸1日。
穴掘り作業の後に簡単な墓石を作った。
俺でなきゃここまでスムーズにはいかなかったろう。
元の世界で母親の介護をする際、ある程度介護の勉強をしていた。資格こそ取らなかったが、その中にはボディメカニクスという体の構造を理解して操作する方法があったのだ。それが無ければ、効率よく死体を集めることができなかっただろう。
死体は全部で292人。結構な数だ。これは俺が殺した人数とほぼ同義である。
焼く作業は意外と難航した。死体を焼くのには結構な火力がいるようで、工夫を凝らさなければ燃えない。なんたって、人間の身体は7割が水分だって言うんだからそれも当然の事だったのだろう。
何も考えてなかった俺はそこに気が回っていなかった。
そのため、燃やすのは一旦あきらめて、埋めることを優先した。穴を掘るのは大変だ。なんせ死体が300体近くあるのだから。丸一日掛けて腰が埋まるくらいのところまで掘って終わった。
次の日は頭がすっぽり埋まるくらい。上に戻れなくなるので、近所の家から梯子も盗んできた。
ここまでくると掘った土が処理できなくなってくる。そのため、深さではなく広さを優先して壁を削った。そうして出来た穴は円にして直径4メートルくらいか。
深さは2メートル強と言ったところ。
これじゃこれだけの死体を入れるには不十分だが、燃やせば可能だろう。
俺はこの穴にしこたま死体を投げ入れた。そして油を撒いて燃やす。
この工程を数回繰り返してようやくほとんどの死体を処分できた。
ちなみにだが、この数日の間に何組か馬車がやってきていたためその度に死体は増えていた。
日が経つにつれて冒険者風の人たちが増えていたため、ここで馬車が襲われていると警戒し始めたのだろう。
そろそろここを経たないと、討伐軍などが来てしまうかもしれない。この人数を殺されたとなると、大規模盗賊団だって疑われかねない。実際は俺一人がやったことなんだが。
俺は小さな墓標を埋めた穴に差し込み、手を合わせた。
「すまなかったな」
せめてもの謝罪。俺がこの能力を把握していれば殺さずに済んでいたかもしれない。まあ、俺のこの後悔の念を晴らすためなら俺はなんでもしてみせるが。
「さて、これからどこに行こうか」
馬車は皆、北の方へ向かっていこうとした。よく通る道だったのか、そこだけ土が踏み固められて道のようになっている。ここを辿って進めば、どこかの町にたどり着くやもしれん。
俺はその道をひたすら歩いていくことにした。どのくらいかかるのかわからないため、冒険者の死体から拝借したリュックと、荷車を使って大量の備蓄をそろえて出発した。
道はひたすら真っすぐ進んでおり、俺はこの道を7日間で踏破した。
そして、俺はこの街に着いたのだった。
いや、街だったものか。
俺がたどり着いた街は、なぜか既に滅んでいた。人一人いない。ところどころから燃えた匂いが漂ってくるし、門は破壊され、建物も半壊しているものがほとんどだった。
俺はその街に入る。
綺麗に舗装された道だ。石畳が荷車の車輪にコツコツと音を立ててぶつかる。
「ひでえ有様だな」
ある程度進むと、焦げ付くような匂いの中に、血の匂いが混ざり始める。
色々な建物の中に原型を保てていない死体が山ほど転がっていた。どれも丁寧に殺されている。
獣か何かに襲われたような跡だ。それも熊のような大きな獣だ。
俺はそろそろ尽きかけていた食料を漁ろうと一つの家に忍び込む。この家はまだまともに建っていた。他の家より若干格が高そうだったので、この街でも権力があった家に違いない。
玄関から入って早々、そこに死体があった。
ああ、やっぱりなあ。死体は給仕服を着た女性が二人。逃げようとして扉の前で力尽きた感じだ。既に建物内に獣が侵入してきてしまっていたのだろう。無念だったろうにな。
建物は二階建てだ。一階には食堂らしきものがあったので、そこで食料を調達した。獣が襲ってきた割には、食料は無事だったんだな。不思議だ。人間しか食べない獣なのだろうか。
「これだけあれば、一先ずはいいか」
俺はそのまま出ようとして思いとどまる。ここは金持ちの家だったはずだ。
いずれこの街を出るにせよ、路銀が必要になってくる。ならばここで盗んでおく必要があるのではないか?
俺は金目の物を探して二階へあがった。二階へあがると、廊下らしきところに血の跡が続いていた。
それを辿ってみる。この血はおそらく家主のもの。家主が襲われたとしたならやることは一つ。大切なものを持って逃げることだろう。
つまりこの血の跡の先に金目のものが有るに違いない。
俺はそのまま道の続く部屋に入った。
思った通り。家主は部屋の大きな洋服箪笥の前で息絶えていた。まるで洋服箪笥の中身を隠そうとするかのようにだ。おそらくこの洋服箪笥の中に金品が隠れているのだろう。
俺は思わず、悪人のような笑みを浮かべてしまう。いや、実際は悪人であることは間違いないのだけど。
俺はその洋服箪笥に近づく。するとその箪笥の観音扉の取っ手部分に、封をするかのように札が張ってあった。
なんだろう、これは。
俺の元の世界では、漫画やアニメとかでこういうものが有った気がする。それは確か、何かを封印、あるいは隠すための札。少し前のホラー映画でもあったような気がする。
俺は構わずそれは剥がす。そして扉を開けた。
「……っ!!」
すると、ソイツと目が合った。
なんと、箪笥の中に少女が潜んでいたのだった。その少女は俺を見るとひどく怯えていた。
「だ、大丈夫かっ?」
思わず俺は声を掛けてしまった。そういえばこっちの世界の言葉って俺使えたっけ。
しかし、意味が通じたのか少女は突然泣き出して俺に抱き着いてきた。
ものすごい泣き様だ。
きっとここで一人ずっと隠れていたのだろう。
俺はそっと家主の死体に目をやる。コイツは、この少女を守るために死んだんだな。せめて見つからないように何かの札を張り付けたのだろう。
家主のその心意気に黙とうをささげた。
しばらくして泣き止んだ少女は、家主の元に座っていた。既に涙は枯れてしまっていたのか、もう泣くことはない。
俺はそれを見届けると、立ち上がって去ろうとする。すると敏感に反応した少女は俺に抱き着いてくる。
「……! ……!」
必死で何かを訴えようとしてきているが、しゃべらないので伝わらない。もしかしてこの少女、しゃべれないのか?
俺はあてずっぽうで質問してみた。
「俺がどこかに行くのが嫌なのか?」
少女はブンブンと頭を縦に振る。
まあ、そうか。この少女からすれば、唯一生き残った人間だ。実際には俺は部外者な訳だが。
「じゃあこれからお前はどうするんだ?」
「……」
少女は応えない。しゃべれないのか、返答に困っているのか、俺にはそのどちらでもあるように思えた。
「それなら、俺と一緒にこの街から出るか?」
「!!」
少女は再びブンブンと頭を縦に振る。
どうやら、ついてきたいようだ。どうせなら俺じゃないやつの方がいいのだろうけど、今のところ生存者はいないみたいだしな。街一つ消えて何もできていないところを見ると、他所の町から応援が来るのもしばらく後になるだろう。それまでにこの少女が生きている保証はない。
しかたない、少しの間だけでも一緒にいてあげるか。
俺は少女に条件を提示する。
「俺は今無一文で困っている。これからの旅にお金は絶対必要だ。もうどうせこの街に生きている人間はいない。一緒にまずは食料と金品を集めてくれ。それをしてくれるなら、一緒に行こう」
少女は頭を縦に振った後、即座にどこかに去っていった。そして数秒もしないうちに、お金の入ったズタ袋を持ってきた。これはこの家の金だろう。
「お前の家の金だろう? いいのか?」
頭を縦に振る。うん、生き抜く覚悟はあるようだな。それなら、金集めと行こうじゃないか。
俺と少女はそうして街で数多の金品を漁りまくった。
なんと5日も掛かってしまったのだ。思った以上に死体を埋葬するのは手間がいる作業だった。
最初に死体を集めるので1日掛けた。
穴を掘る作業で3日。
焼く作業で丸1日。
穴掘り作業の後に簡単な墓石を作った。
俺でなきゃここまでスムーズにはいかなかったろう。
元の世界で母親の介護をする際、ある程度介護の勉強をしていた。資格こそ取らなかったが、その中にはボディメカニクスという体の構造を理解して操作する方法があったのだ。それが無ければ、効率よく死体を集めることができなかっただろう。
死体は全部で292人。結構な数だ。これは俺が殺した人数とほぼ同義である。
焼く作業は意外と難航した。死体を焼くのには結構な火力がいるようで、工夫を凝らさなければ燃えない。なんたって、人間の身体は7割が水分だって言うんだからそれも当然の事だったのだろう。
何も考えてなかった俺はそこに気が回っていなかった。
そのため、燃やすのは一旦あきらめて、埋めることを優先した。穴を掘るのは大変だ。なんせ死体が300体近くあるのだから。丸一日掛けて腰が埋まるくらいのところまで掘って終わった。
次の日は頭がすっぽり埋まるくらい。上に戻れなくなるので、近所の家から梯子も盗んできた。
ここまでくると掘った土が処理できなくなってくる。そのため、深さではなく広さを優先して壁を削った。そうして出来た穴は円にして直径4メートルくらいか。
深さは2メートル強と言ったところ。
これじゃこれだけの死体を入れるには不十分だが、燃やせば可能だろう。
俺はこの穴にしこたま死体を投げ入れた。そして油を撒いて燃やす。
この工程を数回繰り返してようやくほとんどの死体を処分できた。
ちなみにだが、この数日の間に何組か馬車がやってきていたためその度に死体は増えていた。
日が経つにつれて冒険者風の人たちが増えていたため、ここで馬車が襲われていると警戒し始めたのだろう。
そろそろここを経たないと、討伐軍などが来てしまうかもしれない。この人数を殺されたとなると、大規模盗賊団だって疑われかねない。実際は俺一人がやったことなんだが。
俺は小さな墓標を埋めた穴に差し込み、手を合わせた。
「すまなかったな」
せめてもの謝罪。俺がこの能力を把握していれば殺さずに済んでいたかもしれない。まあ、俺のこの後悔の念を晴らすためなら俺はなんでもしてみせるが。
「さて、これからどこに行こうか」
馬車は皆、北の方へ向かっていこうとした。よく通る道だったのか、そこだけ土が踏み固められて道のようになっている。ここを辿って進めば、どこかの町にたどり着くやもしれん。
俺はその道をひたすら歩いていくことにした。どのくらいかかるのかわからないため、冒険者の死体から拝借したリュックと、荷車を使って大量の備蓄をそろえて出発した。
道はひたすら真っすぐ進んでおり、俺はこの道を7日間で踏破した。
そして、俺はこの街に着いたのだった。
いや、街だったものか。
俺がたどり着いた街は、なぜか既に滅んでいた。人一人いない。ところどころから燃えた匂いが漂ってくるし、門は破壊され、建物も半壊しているものがほとんどだった。
俺はその街に入る。
綺麗に舗装された道だ。石畳が荷車の車輪にコツコツと音を立ててぶつかる。
「ひでえ有様だな」
ある程度進むと、焦げ付くような匂いの中に、血の匂いが混ざり始める。
色々な建物の中に原型を保てていない死体が山ほど転がっていた。どれも丁寧に殺されている。
獣か何かに襲われたような跡だ。それも熊のような大きな獣だ。
俺はそろそろ尽きかけていた食料を漁ろうと一つの家に忍び込む。この家はまだまともに建っていた。他の家より若干格が高そうだったので、この街でも権力があった家に違いない。
玄関から入って早々、そこに死体があった。
ああ、やっぱりなあ。死体は給仕服を着た女性が二人。逃げようとして扉の前で力尽きた感じだ。既に建物内に獣が侵入してきてしまっていたのだろう。無念だったろうにな。
建物は二階建てだ。一階には食堂らしきものがあったので、そこで食料を調達した。獣が襲ってきた割には、食料は無事だったんだな。不思議だ。人間しか食べない獣なのだろうか。
「これだけあれば、一先ずはいいか」
俺はそのまま出ようとして思いとどまる。ここは金持ちの家だったはずだ。
いずれこの街を出るにせよ、路銀が必要になってくる。ならばここで盗んでおく必要があるのではないか?
俺は金目の物を探して二階へあがった。二階へあがると、廊下らしきところに血の跡が続いていた。
それを辿ってみる。この血はおそらく家主のもの。家主が襲われたとしたならやることは一つ。大切なものを持って逃げることだろう。
つまりこの血の跡の先に金目のものが有るに違いない。
俺はそのまま道の続く部屋に入った。
思った通り。家主は部屋の大きな洋服箪笥の前で息絶えていた。まるで洋服箪笥の中身を隠そうとするかのようにだ。おそらくこの洋服箪笥の中に金品が隠れているのだろう。
俺は思わず、悪人のような笑みを浮かべてしまう。いや、実際は悪人であることは間違いないのだけど。
俺はその洋服箪笥に近づく。するとその箪笥の観音扉の取っ手部分に、封をするかのように札が張ってあった。
なんだろう、これは。
俺の元の世界では、漫画やアニメとかでこういうものが有った気がする。それは確か、何かを封印、あるいは隠すための札。少し前のホラー映画でもあったような気がする。
俺は構わずそれは剥がす。そして扉を開けた。
「……っ!!」
すると、ソイツと目が合った。
なんと、箪笥の中に少女が潜んでいたのだった。その少女は俺を見るとひどく怯えていた。
「だ、大丈夫かっ?」
思わず俺は声を掛けてしまった。そういえばこっちの世界の言葉って俺使えたっけ。
しかし、意味が通じたのか少女は突然泣き出して俺に抱き着いてきた。
ものすごい泣き様だ。
きっとここで一人ずっと隠れていたのだろう。
俺はそっと家主の死体に目をやる。コイツは、この少女を守るために死んだんだな。せめて見つからないように何かの札を張り付けたのだろう。
家主のその心意気に黙とうをささげた。
しばらくして泣き止んだ少女は、家主の元に座っていた。既に涙は枯れてしまっていたのか、もう泣くことはない。
俺はそれを見届けると、立ち上がって去ろうとする。すると敏感に反応した少女は俺に抱き着いてくる。
「……! ……!」
必死で何かを訴えようとしてきているが、しゃべらないので伝わらない。もしかしてこの少女、しゃべれないのか?
俺はあてずっぽうで質問してみた。
「俺がどこかに行くのが嫌なのか?」
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まあ、そうか。この少女からすれば、唯一生き残った人間だ。実際には俺は部外者な訳だが。
「じゃあこれからお前はどうするんだ?」
「……」
少女は応えない。しゃべれないのか、返答に困っているのか、俺にはそのどちらでもあるように思えた。
「それなら、俺と一緒にこの街から出るか?」
「!!」
少女は再びブンブンと頭を縦に振る。
どうやら、ついてきたいようだ。どうせなら俺じゃないやつの方がいいのだろうけど、今のところ生存者はいないみたいだしな。街一つ消えて何もできていないところを見ると、他所の町から応援が来るのもしばらく後になるだろう。それまでにこの少女が生きている保証はない。
しかたない、少しの間だけでも一緒にいてあげるか。
俺は少女に条件を提示する。
「俺は今無一文で困っている。これからの旅にお金は絶対必要だ。もうどうせこの街に生きている人間はいない。一緒にまずは食料と金品を集めてくれ。それをしてくれるなら、一緒に行こう」
少女は頭を縦に振った後、即座にどこかに去っていった。そして数秒もしないうちに、お金の入ったズタ袋を持ってきた。これはこの家の金だろう。
「お前の家の金だろう? いいのか?」
頭を縦に振る。うん、生き抜く覚悟はあるようだな。それなら、金集めと行こうじゃないか。
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