38 / 77
冒険者になる
22 変化
しおりを挟む
激しい熱風は尚も私たちを包み込む。
一枚目に用意していたアイスウォールは直ぐに溶けて破壊された。
残るは土で出来たサンドウォール。しかしその壁もボロボロと崩れ始めていた。
このままだとまともにあの突風を受けてしまう。
すると隣にサンクシオンが並び立った。
「すまない。フラムにばかり力を使わせてしまった。俺も手伝う。大地魔法――アースウォール!!」
サンクシオンは地面に手をつき、魔法を唱えた。それは大地の岩盤を丸ごとひっくり返したような大きさで目の前を覆った。私のサンドウォールよりも一回りも二回りも大きい岩の壁。それが魔族の放った魔法を防いでいた。
「ぐぐ……」
しかし、その壁すらも貫かんとする突風。これが、ドラゴンブレス……。
ドラゴンの放つスキルだとでもいうのだろうか。
永遠とも思える時間は、終わりを告げる。敵の攻撃がついに止んだのだ。
ボロボロと崩れる土の壁の向こうに、魔族が笑っていた。
「クックック。やはり威力は高いな。だが、魔力の消費が激しい。今日はこのあたりで退散させてもらうかな。中央街の魔導書はいただいた。ペンタゴンの方はどうなったんだろうな」
魔族はそれだけ言うと大きな翼を広げ、飛び去って行った。
「ま、待てっ!」
もはや魔力を使い果たしたサンクシオンが止めようとするが、間に合わなかった。
「くそっ!」
私は、背後を見た。私たちが作った壁で守れたのは後ろにいた人間たちだけ。壁の外側にあった建物は見る影もなく崩れ去っており、中にいた人間たちが生きていないのははっきりと分かった。
魔族とは一体なんなのか。私もサキュバスだから魔族の一員であるはずだ。しかし、こうして人を襲ったりなんてしない。
サキュバス街の人たちはみんないい人たちばかりだった。もちろん母さんも……。
あの魔族は一体なんなんだ。「罪人」スキルを持った転生者といい、一体この世界で何が起こっているんだ。私は訳が分からなくなった。
「大丈夫? フラムちゃん」
シェリルが私を心配してくれている。今は、何も考えたくない。
魔力を使いすぎた私は、流されるままシェリルの胸に顔をうずめた。そしてそのまま意識を失った。
∇
身体が揺さぶられている。
「起きてくださいまし!」
キンキンとした声が耳元で騒ぐ。この声は……、アイリス?
「起きてくださいまし! ご主人様!」
はいはい、起きますよ……って、ご主人様?
私は重い瞼をゆっくりと開ける。すると目の前にはアイリスが私を思いっきり揺らしているのが見えた。
「あれ、アイリス。起きちゃったの?」
これはまずい。これ以上魅了の進行が早まってしまえば、アイリスの人格に影響が出てしまう。私は催眠の魔眼を発動しようとして――。
「や、やめてくださいませ! ご主人様! ほら、私大丈夫ですの!」
アイリスは全身を見せつけるようにくるくるとその場で回る。
あれ、なにか少し変わってないか?
前と違い、ローブは被っていない。その代わり、おしゃれなドレスのような服を身に纏っていた。
だが私が気にしているのはもっと別のところにあった。
頭に角が生えてる。それも見たことのある巻角。腰からは蝙蝠のような薄い膜を張った翼が生えており、尻尾もゆらゆらと生やしていた。
――私の知るサキュバスと同じ特徴だ。
「ええええ、アイリスがサキュバスになってる!?」
私は驚きに目を見張ってしまった。これは明らかにサキュバスでしょ!なんでアイリスがサキュバスになってるの?
「私、目が覚めたらこのようになっていましたの、ご主人様」
「なんでご主人様呼びなの?」
私は先ほどから抱いていた質問を口にする。
「それは私がご主人様の眷属だからですの。なぜだか知らないですけど、ご主人様の眷属になってしまったんですの。はあ……、初めての友達が、まさかご主人様になるとは夢にも思わなかったですわ。でも、これはこれでうれしいのでよいですの。うふふ」
やばい、アイリスが恐ろしい笑顔を浮かべている。私がそんなアイリスに恐れおののいていると、部屋の扉がノックされた。
「はい、どうぞお入りくださいまし」
それを聞いたアイリスがすっと扉の前まで行き、ガチャリと開ける。その優雅な動きはさすが領主の娘だ。しかし、普通領主の娘は扉開けないんじゃないか?
「うわ、アイリス姫様! わざわざ扉を御開けにならずともよいのですよ!」
「今はフラム様の眷属ですので、当然のことでございますの」
「し、しかし!」
「いいからお入りください。ご主人様が風邪をひいてしまいますの」
渋々といった表情で入ってくるのは、サンクシオン。そのあとにサンドリア、シェリルが続いた。
「目覚めはどうだ、フラム」
腰かけたサンクシオンは私を心配してくれている。
「フラムちゃん、私の胸の中で眠ってしまったんだよ。びっくりしたんだから。魔力の使い過ぎだね」
それも仕方ないけど――と、シェリルは言う。結局あの後どうなったのだろう。街に甚大な被害が出たはずだ。
「ねえあの後はどうなったの!? それにアイリスのあの状態はなんなの!? いろいろ教えて!」
「まあまあ待て。とりあえず一つずつ説明するから落ち着け」
私はサンクシオンから、あの後のことを説明してもらうことになった。
一枚目に用意していたアイスウォールは直ぐに溶けて破壊された。
残るは土で出来たサンドウォール。しかしその壁もボロボロと崩れ始めていた。
このままだとまともにあの突風を受けてしまう。
すると隣にサンクシオンが並び立った。
「すまない。フラムにばかり力を使わせてしまった。俺も手伝う。大地魔法――アースウォール!!」
サンクシオンは地面に手をつき、魔法を唱えた。それは大地の岩盤を丸ごとひっくり返したような大きさで目の前を覆った。私のサンドウォールよりも一回りも二回りも大きい岩の壁。それが魔族の放った魔法を防いでいた。
「ぐぐ……」
しかし、その壁すらも貫かんとする突風。これが、ドラゴンブレス……。
ドラゴンの放つスキルだとでもいうのだろうか。
永遠とも思える時間は、終わりを告げる。敵の攻撃がついに止んだのだ。
ボロボロと崩れる土の壁の向こうに、魔族が笑っていた。
「クックック。やはり威力は高いな。だが、魔力の消費が激しい。今日はこのあたりで退散させてもらうかな。中央街の魔導書はいただいた。ペンタゴンの方はどうなったんだろうな」
魔族はそれだけ言うと大きな翼を広げ、飛び去って行った。
「ま、待てっ!」
もはや魔力を使い果たしたサンクシオンが止めようとするが、間に合わなかった。
「くそっ!」
私は、背後を見た。私たちが作った壁で守れたのは後ろにいた人間たちだけ。壁の外側にあった建物は見る影もなく崩れ去っており、中にいた人間たちが生きていないのははっきりと分かった。
魔族とは一体なんなのか。私もサキュバスだから魔族の一員であるはずだ。しかし、こうして人を襲ったりなんてしない。
サキュバス街の人たちはみんないい人たちばかりだった。もちろん母さんも……。
あの魔族は一体なんなんだ。「罪人」スキルを持った転生者といい、一体この世界で何が起こっているんだ。私は訳が分からなくなった。
「大丈夫? フラムちゃん」
シェリルが私を心配してくれている。今は、何も考えたくない。
魔力を使いすぎた私は、流されるままシェリルの胸に顔をうずめた。そしてそのまま意識を失った。
∇
身体が揺さぶられている。
「起きてくださいまし!」
キンキンとした声が耳元で騒ぐ。この声は……、アイリス?
「起きてくださいまし! ご主人様!」
はいはい、起きますよ……って、ご主人様?
私は重い瞼をゆっくりと開ける。すると目の前にはアイリスが私を思いっきり揺らしているのが見えた。
「あれ、アイリス。起きちゃったの?」
これはまずい。これ以上魅了の進行が早まってしまえば、アイリスの人格に影響が出てしまう。私は催眠の魔眼を発動しようとして――。
「や、やめてくださいませ! ご主人様! ほら、私大丈夫ですの!」
アイリスは全身を見せつけるようにくるくるとその場で回る。
あれ、なにか少し変わってないか?
前と違い、ローブは被っていない。その代わり、おしゃれなドレスのような服を身に纏っていた。
だが私が気にしているのはもっと別のところにあった。
頭に角が生えてる。それも見たことのある巻角。腰からは蝙蝠のような薄い膜を張った翼が生えており、尻尾もゆらゆらと生やしていた。
――私の知るサキュバスと同じ特徴だ。
「ええええ、アイリスがサキュバスになってる!?」
私は驚きに目を見張ってしまった。これは明らかにサキュバスでしょ!なんでアイリスがサキュバスになってるの?
「私、目が覚めたらこのようになっていましたの、ご主人様」
「なんでご主人様呼びなの?」
私は先ほどから抱いていた質問を口にする。
「それは私がご主人様の眷属だからですの。なぜだか知らないですけど、ご主人様の眷属になってしまったんですの。はあ……、初めての友達が、まさかご主人様になるとは夢にも思わなかったですわ。でも、これはこれでうれしいのでよいですの。うふふ」
やばい、アイリスが恐ろしい笑顔を浮かべている。私がそんなアイリスに恐れおののいていると、部屋の扉がノックされた。
「はい、どうぞお入りくださいまし」
それを聞いたアイリスがすっと扉の前まで行き、ガチャリと開ける。その優雅な動きはさすが領主の娘だ。しかし、普通領主の娘は扉開けないんじゃないか?
「うわ、アイリス姫様! わざわざ扉を御開けにならずともよいのですよ!」
「今はフラム様の眷属ですので、当然のことでございますの」
「し、しかし!」
「いいからお入りください。ご主人様が風邪をひいてしまいますの」
渋々といった表情で入ってくるのは、サンクシオン。そのあとにサンドリア、シェリルが続いた。
「目覚めはどうだ、フラム」
腰かけたサンクシオンは私を心配してくれている。
「フラムちゃん、私の胸の中で眠ってしまったんだよ。びっくりしたんだから。魔力の使い過ぎだね」
それも仕方ないけど――と、シェリルは言う。結局あの後どうなったのだろう。街に甚大な被害が出たはずだ。
「ねえあの後はどうなったの!? それにアイリスのあの状態はなんなの!? いろいろ教えて!」
「まあまあ待て。とりあえず一つずつ説明するから落ち着け」
私はサンクシオンから、あの後のことを説明してもらうことになった。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる