25 / 77
冒険者になる
9 到着、中央街
しおりを挟む
ほどなくして馬車は山を越え、目的地の中央街近くまで差し掛かっていた。
御者が前方へ覗きに来るように促す。
私は言われた通りに、荷物をかき分けて御者台まで向かった。
「わあ……」
私の視界には、巨大な城壁が円形の形をして街一つを丸ごと覆っているのが見えた。
この光景は山の中腹という高さからでなければ見られなかっただろう。この山を完全に下りきってしまえば、その高すぎる城壁で街の中まで覗けなかったはずだ。
「大きいですね」
語彙力を持ち合わせていない私は、それだけ言うのが精いっぱいだった。御者は満足そうに笑っている。
「いい景色だろう? 本当はあっちの道から通るはずだったんだけどね」
御者は山から見て左側にある道を指さす。その道はよく踏み固められており、遠くからでもはっきりとその形を主張していた。
本来、私たちはあそこを通る予定だった。それを変更したのは、故郷のラーストから出発して一日も経たずについた町の様相が原因だった。
その町には誰一人として生存しておらず、死体だけが積み重なっていた。その死体も不自然なほど原型が留められており、死因が全くの不明という恐ろしさがあった。
そのため私たち一行は道を変更し、山を越えるルートを採択したのだ。
そしてハイドの裏切り。『銀の鎧』たちの傷は、未だ完全には癒えていないだろう。しかし、このパーティはしっかりやっていけると私は確信していた。
風が結構当たる。御者台は私が思う以上に過酷な場所だなあと思いつつ、私は馬車に戻った。
馬車の中には、目を瞑ったまま腕を組むテラスと、窓の外を覗くアダマン。
涙で目許を赤くしたシェリルとアンバーは、肩を寄せ合いながら眠っていた。
御者台から戻ってきた私を見たアダマンは、私に話があると告げる。
「なあ、フラム。もし中央街で冒険者になったらさ、俺たちとパーティを組まないか?」
なんとパーティのお誘いだった。驚きだよ。
「え、なんで私なんかを……?」
アダマンは理解できないといった表情でこちらを見る。私はまだ十歳の子供だよ?
ぶっちゃけパーティに入っても、足手まといにしかならない。穀潰し確定コースだ。
正直、他人に迷惑を掛けないレベルにまで自分のペースで成長したいと思っている。
「俺が言うのもなんだが、フラムは既に強い。それは単純なステータスだけじゃなくて、その精神力も買ってるんだ。並の人間なら、あのハイドに正面から太刀打ちできなかっただろうよ。あとこれは打算的な話になるんだが、俺たち『銀の鎧』はただでさえ人数が少なかったのに、一人欠けちまった。それを補填したいと思うのは当然だろう?」
確かにそれもそうだ。私がハイドを殺めてしまったがために、『銀の鎧』は三人だけのパーティになっている。ハイドを殺したことは悔いてはいない。そうでなければ私自身が殺されていたことは明白だったからだ。それに、シェリルを恐怖で支配していたのは許せることじゃない。
でもやっぱり私はまだ一人でやりたいことがいっぱいある。
「ごめんなさい。誘ってくれるのはうれしいんですけど、私はまだ半人前なんです。これから自分のペースで経験を積んでいって、その先にもし私が『銀の鎧』に釣り合うことが出来たなら、また誘ってくれますか?」
これでいいだろう。私には、このパーティを立ち直らせる力を持ち合わせていない。一人欠けたばかりなのだ。最低でも彼らには癒す時間が必要だ。そこに、一人欠けた原因である私がいるのは良くないことだ。
「いや、フラム。君は今のままでも十分――」
「そこまでにしときなよ、アダマンとやら」
今まで口を閉ざしていたテラスが話に入ってきた。
「三人になって心細いと思って焦ってるのかもしれねえが、今は時間を置いておいた方がいい。今お前らのパーティを支えなければならないのはアダマン、お前だろう。決して嬢ちゃんの役目なんかじゃねえよ。それによ、嬢ちゃんは釣り合うパーティじゃないと誘いを蹴るって言ってるんだぜ?」
「……そうか、そうだな。俺たちがフラムに釣り合うパーティにならなきゃいけないってことだよな
……」
「……ふん。やっぱり若いってのはいいな。懐かしくなるぜ」
なんだか二人が謎の掛け合いをして納得してしまった。私の発言が曲解されてるようだったけど、まあでもお誘いを断れたんだから、それで良しとしよう。
御者から声が掛かる。
「魔獣が出たから追っ払ってくれねえかー」
馬車はその動きを止めた。それを聞いたテラスとアダマンが馬車から降りて魔獣を倒すのに十分も要しなかった。戻ってきた二人はお互いの健闘を称え合う。
馬車はこうして時折、魔獣と遭遇する度にその進みを遅くしたが、ついに中央街の門が見える場所まで到着した。
「長かったですなー」
御者から声がかかる。
皆その言葉に頷く。シェリルとアンバーはその言葉に目を覚ます。
「あー、よく寝た。久々に眠っちまったよ」
「ごめんなさい、アンバー。私の涎が服に……」
「いいってことよ。なんか今まで他人行儀だったとこもあるし、シェリルのこの可愛い顔見れてあたしはうれしいもんさね」
シェリルがアダマンの胸に顔をうずめて泣いた後、アンバーもそこに身を寄せ合って泣いていたのだ。彼女も何か思うところはあったのだろう。二人して号泣して寝入ってしまったのだから。
馬車が門の前まで近づくと、馬はその足を遅くする。
やがて馬車は止まった。どうやら門の検閲が始まったらしい。
門番らしき人が二人、御者と話をしている。いくつか話し終えた所で、門番の一人が馬車の幌をあけた。
「一人、二人……、ん? 魔族もいるのか。えーと……、御者含め六人だな」
人数を確認したあと、荷物を確認される。私は肩さげ鞄一つしかないので、直ぐに終わった。
ほどなくして入場に許可が下りた。
カツコツと石畳を打つ蹄の音、先ほどとは違う馬の足音を聞きながら、私たちは中央街へと踏み入れたのだった。
____________________________________________________
テラスもかつてはパーティを組んだ冒険者だった。歳のせいもあってか、派手な行動が出来なくなったため、用心棒として独立をしている。かつての友の一人は、中央街で働いていたりする。
御者が前方へ覗きに来るように促す。
私は言われた通りに、荷物をかき分けて御者台まで向かった。
「わあ……」
私の視界には、巨大な城壁が円形の形をして街一つを丸ごと覆っているのが見えた。
この光景は山の中腹という高さからでなければ見られなかっただろう。この山を完全に下りきってしまえば、その高すぎる城壁で街の中まで覗けなかったはずだ。
「大きいですね」
語彙力を持ち合わせていない私は、それだけ言うのが精いっぱいだった。御者は満足そうに笑っている。
「いい景色だろう? 本当はあっちの道から通るはずだったんだけどね」
御者は山から見て左側にある道を指さす。その道はよく踏み固められており、遠くからでもはっきりとその形を主張していた。
本来、私たちはあそこを通る予定だった。それを変更したのは、故郷のラーストから出発して一日も経たずについた町の様相が原因だった。
その町には誰一人として生存しておらず、死体だけが積み重なっていた。その死体も不自然なほど原型が留められており、死因が全くの不明という恐ろしさがあった。
そのため私たち一行は道を変更し、山を越えるルートを採択したのだ。
そしてハイドの裏切り。『銀の鎧』たちの傷は、未だ完全には癒えていないだろう。しかし、このパーティはしっかりやっていけると私は確信していた。
風が結構当たる。御者台は私が思う以上に過酷な場所だなあと思いつつ、私は馬車に戻った。
馬車の中には、目を瞑ったまま腕を組むテラスと、窓の外を覗くアダマン。
涙で目許を赤くしたシェリルとアンバーは、肩を寄せ合いながら眠っていた。
御者台から戻ってきた私を見たアダマンは、私に話があると告げる。
「なあ、フラム。もし中央街で冒険者になったらさ、俺たちとパーティを組まないか?」
なんとパーティのお誘いだった。驚きだよ。
「え、なんで私なんかを……?」
アダマンは理解できないといった表情でこちらを見る。私はまだ十歳の子供だよ?
ぶっちゃけパーティに入っても、足手まといにしかならない。穀潰し確定コースだ。
正直、他人に迷惑を掛けないレベルにまで自分のペースで成長したいと思っている。
「俺が言うのもなんだが、フラムは既に強い。それは単純なステータスだけじゃなくて、その精神力も買ってるんだ。並の人間なら、あのハイドに正面から太刀打ちできなかっただろうよ。あとこれは打算的な話になるんだが、俺たち『銀の鎧』はただでさえ人数が少なかったのに、一人欠けちまった。それを補填したいと思うのは当然だろう?」
確かにそれもそうだ。私がハイドを殺めてしまったがために、『銀の鎧』は三人だけのパーティになっている。ハイドを殺したことは悔いてはいない。そうでなければ私自身が殺されていたことは明白だったからだ。それに、シェリルを恐怖で支配していたのは許せることじゃない。
でもやっぱり私はまだ一人でやりたいことがいっぱいある。
「ごめんなさい。誘ってくれるのはうれしいんですけど、私はまだ半人前なんです。これから自分のペースで経験を積んでいって、その先にもし私が『銀の鎧』に釣り合うことが出来たなら、また誘ってくれますか?」
これでいいだろう。私には、このパーティを立ち直らせる力を持ち合わせていない。一人欠けたばかりなのだ。最低でも彼らには癒す時間が必要だ。そこに、一人欠けた原因である私がいるのは良くないことだ。
「いや、フラム。君は今のままでも十分――」
「そこまでにしときなよ、アダマンとやら」
今まで口を閉ざしていたテラスが話に入ってきた。
「三人になって心細いと思って焦ってるのかもしれねえが、今は時間を置いておいた方がいい。今お前らのパーティを支えなければならないのはアダマン、お前だろう。決して嬢ちゃんの役目なんかじゃねえよ。それによ、嬢ちゃんは釣り合うパーティじゃないと誘いを蹴るって言ってるんだぜ?」
「……そうか、そうだな。俺たちがフラムに釣り合うパーティにならなきゃいけないってことだよな
……」
「……ふん。やっぱり若いってのはいいな。懐かしくなるぜ」
なんだか二人が謎の掛け合いをして納得してしまった。私の発言が曲解されてるようだったけど、まあでもお誘いを断れたんだから、それで良しとしよう。
御者から声が掛かる。
「魔獣が出たから追っ払ってくれねえかー」
馬車はその動きを止めた。それを聞いたテラスとアダマンが馬車から降りて魔獣を倒すのに十分も要しなかった。戻ってきた二人はお互いの健闘を称え合う。
馬車はこうして時折、魔獣と遭遇する度にその進みを遅くしたが、ついに中央街の門が見える場所まで到着した。
「長かったですなー」
御者から声がかかる。
皆その言葉に頷く。シェリルとアンバーはその言葉に目を覚ます。
「あー、よく寝た。久々に眠っちまったよ」
「ごめんなさい、アンバー。私の涎が服に……」
「いいってことよ。なんか今まで他人行儀だったとこもあるし、シェリルのこの可愛い顔見れてあたしはうれしいもんさね」
シェリルがアダマンの胸に顔をうずめて泣いた後、アンバーもそこに身を寄せ合って泣いていたのだ。彼女も何か思うところはあったのだろう。二人して号泣して寝入ってしまったのだから。
馬車が門の前まで近づくと、馬はその足を遅くする。
やがて馬車は止まった。どうやら門の検閲が始まったらしい。
門番らしき人が二人、御者と話をしている。いくつか話し終えた所で、門番の一人が馬車の幌をあけた。
「一人、二人……、ん? 魔族もいるのか。えーと……、御者含め六人だな」
人数を確認したあと、荷物を確認される。私は肩さげ鞄一つしかないので、直ぐに終わった。
ほどなくして入場に許可が下りた。
カツコツと石畳を打つ蹄の音、先ほどとは違う馬の足音を聞きながら、私たちは中央街へと踏み入れたのだった。
____________________________________________________
テラスもかつてはパーティを組んだ冒険者だった。歳のせいもあってか、派手な行動が出来なくなったため、用心棒として独立をしている。かつての友の一人は、中央街で働いていたりする。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる