サキュバスの娘だって冒険したい 〜転生したら淫魔の娘だったので、魅了や触手を駆使して世界を堕とします〜

三文小唄

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幕間 とある男の最初の町

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馬車に揺られ始めて半日が過ぎた頃だろうか。
目的地に着いたらしく、馬はその足を止めた。

俺の身体は半ば憔悴していた。もちろんこの馬車に乗る他の焼印の刻まれた人たちもそうだ。今まで、どこかに収容されていたのだろう。
俺自身も、おそらく同様に収容されていた。

俺は前世で少女を殺して自害した。そして気が付いたらこの辛気臭い雰囲気の漂う馬車の中にいた。
前世で母を見殺し、少女を殺し、自分の命を絶った俺の業は計り知れない。

だからこうして意味の分からない状況でも俺は特に抵抗もなく受け入れる。
全ては、亡き母への償いだ。自分の手で殺せなかった後悔と未練を払拭したい。

教祖らしき男は言った。この世界へと転生すればその後悔と未練は消えると。
しかしどうだろう。
男は転生と言ったが、どちらかというと憑依に近い気がする。
生まれ変わっているわけではないし、この身体は俺の知る自分の身体ではない。

左肩に焼印を入れられた覚えもなければ、手枷足枷をされた記憶もない。
そしてこの左手の大きな赤い痣。火傷のようなそれは、意識すると命を持ったかのように脈動する。

そしてそれと同時に脳内に浮かび上がる『罪人』の文字。

俺はさらに強くその不思議な現象に意識を向ける。

『見殺しの罪人』

たどり着いた暗闇に浮かんだのはその一文字だった。
まるで魂の深いところに刻まれたそれは、今の俺を支える柱に思えた。

俺は意識を別に向ける。目の前に足を組んで座るおじさんがいた。前世の俺と同年代くらいだろうか。しかし、不衛生なその恰好のせいか、前の俺よりも十歳くらい老けて見えた。

「……ッ!!!」

唐突にその男は苦しみ始めた。自身の首に縋るように手を伸ばすも、顔色がさらに悪化するだけで苦しみは取れない。
俺は思わず凝視してしまった。
おそらく他の人たちもこの異常事態に驚いて男を見つめている。

男は明らかによくない状況になっていた。
口からは泡を吹き、白目を剥いて身体をびくびくと痙攣させている。
やがて、男はその動きを止めた。

見れば、男は絶命していた。

毒でも盛られたのだろうか。しかし、俺たちはその現場を見ていない。ならば、もとから毒を口に含んでいたのか?
状況がさらに意味不明なことに陥る。

俺が周りを見渡すと、見える範囲の乗客が全員、同様に苦しみだしたのだ。
老若男女すべて、だ。

そしてそのすべてが最初の男と同じ末路を辿る。

流石にこの異常に気が付いたのか、馬車の外から幌がめくられる。

「おい、どういうことだ。これは! なっ貴様――ぐふッ!」

幌をめくった憲兵らしき男が俺を見た途端、この死体と同じ状態に変わった。
いや、ここまでくるとさすがに分かった。

俺を見た・・・・から死んだのではない。
俺が見た・・・・から死んだのだ。

この騒動にほかの憲兵も集まってくる。
だがそのどれも外傷の無いきれいな死体に変化していく。
中にはゲームの冒険者風の人間たちも混ざっていたが、感慨に耽る間もなく死体の一つとなる。

俺は馬車から降りた。
どうやらここは小さな町のようだ。

俺はあたりを見回す。
見たところから、町の住人がどんどんと倒れていく。

視界の端に、馬車で逃げ出そうとする一行が見えた。
俺は、それをつい視界の中央に据えた。
先ず、馬が死んだ。
次に御者が死んだ。
そして倒れた馬車から這い出た人たちも死んだ。

みんなみんな死んだ。

俺は大きくない町をゆっくりと散策する。それだけで、ここは人一人いない無人の町へと変わった。

「腹が空いたな」

数多の死体を見ていた俺は、空腹のため近くの家に入ろうとする。
じゃらりと手枷の鎖が音を立てた。

そうだ、俺は今手枷と足枷が施されていた。

馬車に一度戻った俺は、憲兵の服を漁り中から鍵を取り出す。
開錠した俺はそのまま近くの家に入り、食べ物を物色する。

冷蔵庫というものはなかった。その代わり、テーブルの上に置かれたパンと果物があったのでそれをいただいた。床下のちょっとした暗室にもいくつか食べ物があったので袋に詰めた。
暗室から出ると、視界に女性の遺体があったが俺は素通りした。

パンは味がぱさぱさしていてとても美味しいとは言えなかった。しかし空腹だった俺はそれを貪りつくす。

「さて、この状況をどうするか」

町一つが壊滅した。
俺がただ視界に入れただけなのに。
このままだと、俺は視界に入れた生物すべてを殺しつくしてしまう。

これが俺の後悔を消すことに必要なのか?
違う。
俺は。

「俺は……。この手で殺したいんだよ」

そう、見ただけで殺すだなんて、そんなのはまやかしに過ぎない。
俺は家の棚にあった包帯で目を覆う。
これで人を殺さずに済むだろう。

視界を封じた俺だが、なぜか景色が見えていた。ほんの少し暗く感じるが、目を塞いでいても俺は視界を確保できるらしい。なんだか本格的にファンタジーになってきたな。
よし、このままで行こう。

俺は、そのまま家を出た。

「さすがにこの恰好は嫌だな」

俺は今ただの麻布をかぶったような恰好をしている。

うーん、さっき冒険者風の男がいたよな。あいつから衣類をはぎ取っておくか。
俺はまた馬車に戻り、男からすべての衣類をはぎ取った。
使い古されたその装備は、これからの生活にも使えそうだ。

そうしてはぎ取った服を着た俺は、遠くから馬の走る音が近づいているのに気づく。
慌てて俺は近くの家に身を隠す。

「なんなんだ、これ」

馬車から降りた人がこの光景を目の当たりにして驚いていた。そりゃ当然だろう。すべての人間が殺されつくしているのだから。

その一行は、近くの死体を検分している。

「おい、こっちに馬車があるぞ!」

一行のうちの一人が、俺が先ほどいた馬車のところで叫んでいた。

「この馬車は……、直前に出発した護送車だ」

一行の中に一際白さが目立つ少女が気持ち悪そうに口を押えていた。それを筋肉質な女性が支えている。子供に嫌なものを見せてしまったな。少しの罪悪感がよぎったが、その女子供を町ごと殺した俺が抱く感情じゃないなと思い直した。

やがて検分を終えた一行は、直ぐにこの町を後にした。

「去ったか……」

誰もいなくなった場所に俺一人また残される。
一先ず、やることもない俺は生活できるうちにここの死体を埋葬することにした。
それからのことは、それから考えよう。
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