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サキュバスの娘
幕間 死闘(騎士)
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俺は今「魅惑の樽」という酒場に来ている。
本来ならば、俺はこんなところには来ないのだが今は任務中なので仕方がない。
各地に手配している密偵からの情報で、この近くに「罪人」がいるとの情報があった。その「罪人」は今この店の奥にいる。
俺の仕事はこの「罪人」を発見し領主に報告すること。罪を犯していた場合は捕獲、場合によっては殺害も許可されている。
先ほど男とすれ違ったときに既に判別の水晶によって調べている。
朱、つまり過去に殺人をしたことがある男ということだ。
判別の水晶は、様々な種類がある。
『ステータス』というスキルを見るものもあれば、こうして犯罪を犯したかどうかがわかるものもある。
『ステータス』を見る水晶、鑑定の水晶は数が少なくなかなか高価だ。
その反面、犯罪の有無を調べる水晶、処断の水晶は割と出回っている。
製造方法が異なったり、性能の違いがありすぎるため、|偏(ひとえ)に判別の水晶といってもピンキリだ。
この処断の水晶は、触れている人間から一番近くの人間の犯罪の有無を調べることができる。と言っても表示されるのは、犯罪を犯していない青、軽犯罪を犯した黄、重犯罪、殺人を犯した赤の三つだけだ。
そしてそれを使用した結果、あの赤痣は朱に染まり殺人か重犯罪を犯していることがわかった。
あとはここから出てくるのを待つだけだ。
素直に拘束されるとは思えないので、おそらく戦闘になるのだろう。だからこそ俺がこの任務を宛がわれているのだ。
周りに被害が出ないよう、男を人気の少ない場所まで連れて行かないといけないのだから面倒だな。
ふと、何かの気配を感じた。
誰かから見られている?
こういう仕事をしているからか、俺は「視線察知」というスキルを習得するに至っている。
見られていたらそれに気づくというものだ。
普段から発動していても、そこまで気にすることもないから常時発動しているのだが、こう長々と注視されると気になってくる。
ちらっと、そちらを見やるとそこにはこの場所に似つかわしくない少女がいた。
なんでこんなところに少女が?
サキュバス見習いなのだろうか。
それにしても俺への視線が凄い。
そんなことを考えていると、奥の扉から男が出てきた。
男はへべれけに酔っていて、見るからにだらしない。しかしこんな顔をしていても重犯罪者だ。容赦はしない。
男が店から出たのを見計らうと、俺はそのあとを気配を消して尾行をする。
ん?
俺のことを見ていた少女もあとを付いてきた?
なにやら怪しさ満点である。
しかし今はあの男をと逃がすわけにはいかない。
適当に撒きつつ、あとを追う。
人通りが少ない広場へと着く。
結局少女は撒けたのだろうか?
俺の「視線察知」でも、ちょっと離れると効果が切れる。今のところ、視線は感じないが……。
俺は腰の短刀に手を掛ける。
背後から首筋に突きつけ、拘束する。なおかつ「威圧」を使い、萎縮させる。そうすれば大概の人間は抵抗しなくなる。
だが、赤痣の男は俺が「威圧」を使った瞬間に即反応した。
しかも同じく「威圧」を放ちながら振り返ってきたのだ。
「あんた、俺っちを殺す気だな?」
さっきまであんなに酔っていたのに、なんなんだこの判断力は。
思わぬことでびっくりしたが、とりあえず強がってみるか。
「やはり、気づかれるか。その赤痣……、お前も例の『罪人』か?」
こいつに仲間がいるかどうか、カマを掛ける。これに反応すれば、芋づる式に「罪人」が釣れる。
しかし男は何も知らないようだった。これが演技だとしたら、相当なものだろう。
「ほお、俺っちの他にもこのスキル持ってるやついるんだな。そいつあ困るなあ。それじゃ俺っちだけの世界が作れねえなあ
赤痣の男は「転生教のルールがわかってきたぜ」と小さく零していた。
転生教?
「罪人」というスキルを持つものと、転生教なるものが重なるのだろうか。
今まで「罪人」スキルを持つ者を発見する例は多々あるが、捕縛できたケースは一件もない。「罪人」は軒並み強い。そこらへんの冒険者パーティを雇っても全滅させるほどだ。
発見しても逃げられるか、殺されるかというものなのだ。
だから情報が圧倒的に足りない。できたらこの男からも情報を聞き出したかった。
「『罪人』は皆、どこかに赤い痣があると聞く。そして強力なスキルを持っているとも。その力を使い、悪事を働いていなければ特に関与することではないのだが、先ほど酒場で判別の水晶を使ったところ、お前だけが朱に染まった。お前、人を殺しているな?」
暗に、お前のことはわかっているんだぞと伝える。実際はほとんど知らないのだが。
「へえ、そんな水晶があるとは驚きだ。そんな危険なモン持ってるやつは始末しなきゃならんなあ」
しかし男に話し合う気はさらさらないようで、いきなり戦闘態勢になった。
次の瞬間、その場から男が消えた。
逃げられたかっ!?
しかし俺の「視線察知」がビンビン反応している。
これは……、上か!
短刀を抜き放ち、上空に構える。
赤痣の細身のダガ―が俺の短刀と重なる。
重いっ!!
しかしなんとか受け流すことに成功した。
「あんた、やるなあ。『速度の罪人』である俺っちの攻撃を防ぐたあ、並の人間じゃできねえよ。褒めてやる」
やばい、思った以上の強敵だ。今のでわかる。
こいつはやばいぞ。
「お前のような悪人に褒められても、名前に傷がつくだけだ。反吐が出る」
「そいつはどうも、俺っちは生粋の悪人なんでね。そんじゃ、この攻撃は耐えられるかな」
再び男が視界から消失。
「視線察知」で背後にいることが分かった。
慌てて背後に短刀を構えるが、既にそこに男はいなかった。
しまった!
罠か!
男は振り向いた俺のさらに後ろに回り込んでいた。この体勢ではさらに振り向くには間に合わない。
スピードが違い過ぎる。
俺は少しでも、攻撃をかわそうと体勢を敢えて崩す。
「馬鹿めっ!」
男が俺の左肩にダガ―を切りつけた。
俺はその攻撃を受けて、距離を取る。
「やはり、厄介だな。『罪人』というやつは」
「はっはー。それは仕方ねえよ。最強の速度を誇る俺っちの前じゃ、あんたらただの人間は雑魚。俺っちの目からすりゃどんなに速く動いたところで止まって見えるもんよお」
その通りだ。こいつの速度に追いつくことは不可能だろう。
追いかけることもできない。それは逆に逃げることもできないとも言えた。
ここで殺さなければ、俺がやられる。
俺は捕獲から殺害に目標を変更した。
とりあえず、回復ポーションで左肩を癒す。これなら、まだ体は動く。
しかし全力とはいかない。
「首狙ったつもりだったが、少しずれちまったか? まあいい、その調子じゃ直ぐに俺っちの刀の錆にできる」
「ふん、そう簡単に殺されてたまるか」
俺は即座に駆けだした。鋼糸を絡ませた短刀を四本投擲。そして見えないように、いくつか地面にも差し込む。
ナイフはもちろん躱された。しかし目的はそれではない。
俺は腰のもう一本の短刀を取り出して切りかかった。そうすること、相手を壁付近まで追いやることに成功した。
「チッ。めんどくせえ。その程度で粋がってんじゃねえぞ」
俺はそのまま追い詰めるそぶりをする。そうすればきっと。
「視線察知」が動く。
そしてその動きは途中で止まった。
「……え?」
俺の思惑通り、奴は鋼糸に自ら突っ込み断裁された。
なんとか窮地を脱した。しかし情報はついぞ得られなかったな。
「……ッ!」
「視線察知」にさらなる反応。新手か!?
俺はその視線に向き直る。
そこには先ほどの少女が。
見れば少女はものすごく怯えてしまっている。この光景を目にしたのだから、それは当然だ。
俺は静かに歩み寄ろうとした。
そこで気づいた。
俺に怯えている?
あ、「威圧」をまだ解除していなかった。
俺は慌てて「威圧」を解除しようとする。
が、しかしそれよりも俺は恐ろしいものを目にした。
少女の目が、漆黒につつまれたようになる。
直後俺の身体は微動だにできなくなった。
「ッ!!」
身体が動かない。かなり強い拘束力だ。しかも力がどんどんと奪われていく感じがする。このままだと、俺の命が危ない。
あの少女、まさか「罪人」なのか?
あの年の少女がここまでの威力のスキルを放てるとは思えない。それなら「罪人」であると考えるのが妥当だろう。
俺は何とか、足を動かす。
ものすごい倦怠感だ。重力が倍になったみたいに足が重い。
俺は立っていられず、無様にこけた。
しかし俺は尚も近づこうと這いずる。
この手で止めないと……!
すると、さらに少女からの圧力が増した。なんという魔力だ。
おそらく彼女は何かしらの魔眼を発動させてると思うが、こんな非常識な威力を長時間発生させるなんて、直ぐに魔力が枯渇するに決まっている。しかし、彼女はさらにその威力を高めた。
無尽蔵の魔力を彷彿とさせた。
これは本当に俺の命が危ない。
しかし、突如その圧力は消え去った。
少女が気絶したのだ。
俺はやっとの思いで、力を抜いた。よかった。あのままだったらあの力に押しつぶされていたかもしれん。
体力はかなり消耗したが、まだ動ける。
俺はゆっくりと立ち上がると、彼女の元まで近づく。
白くて長い髪は、先に行くほど黒く染まっている。背中には歪にも大きさの違う羽、臀部からはサキュバス特有の黒い尻尾が生えていた。
見るからに謎の生物だ。なにかのハーフだろうか。
ハーピィとサキュバス?
おそらく、有翼人と淫魔の間に出来た子なのだろう。
処断の水晶を取り出し、翳す。
「青か……」
この娘は犯罪を犯していない。それだけで俺はほっとした。
こんな力を使う娘が、犯罪に手を出しているのなら大変な事態になるだろう。その前に見つけられたのだから僥倖だ。
次は「罪人」チェックだな。
俺は一言謝ると、彼女の服を剥いだ。
全身くまなく確認するが、赤い痣は見当たらなかった。
俺はもう一度軽く謝ると服を着させる。
この娘は「罪人」でも犯罪者でもない。
だとしたらこの異常なまでの力は一体……。
とりあえず、もう夜中だ。
この娘を家に帰してあげなくてはならない。
俺は少女を抱きかかえ、この娘の家を聞きまわった。
本来ならば、俺はこんなところには来ないのだが今は任務中なので仕方がない。
各地に手配している密偵からの情報で、この近くに「罪人」がいるとの情報があった。その「罪人」は今この店の奥にいる。
俺の仕事はこの「罪人」を発見し領主に報告すること。罪を犯していた場合は捕獲、場合によっては殺害も許可されている。
先ほど男とすれ違ったときに既に判別の水晶によって調べている。
朱、つまり過去に殺人をしたことがある男ということだ。
判別の水晶は、様々な種類がある。
『ステータス』というスキルを見るものもあれば、こうして犯罪を犯したかどうかがわかるものもある。
『ステータス』を見る水晶、鑑定の水晶は数が少なくなかなか高価だ。
その反面、犯罪の有無を調べる水晶、処断の水晶は割と出回っている。
製造方法が異なったり、性能の違いがありすぎるため、|偏(ひとえ)に判別の水晶といってもピンキリだ。
この処断の水晶は、触れている人間から一番近くの人間の犯罪の有無を調べることができる。と言っても表示されるのは、犯罪を犯していない青、軽犯罪を犯した黄、重犯罪、殺人を犯した赤の三つだけだ。
そしてそれを使用した結果、あの赤痣は朱に染まり殺人か重犯罪を犯していることがわかった。
あとはここから出てくるのを待つだけだ。
素直に拘束されるとは思えないので、おそらく戦闘になるのだろう。だからこそ俺がこの任務を宛がわれているのだ。
周りに被害が出ないよう、男を人気の少ない場所まで連れて行かないといけないのだから面倒だな。
ふと、何かの気配を感じた。
誰かから見られている?
こういう仕事をしているからか、俺は「視線察知」というスキルを習得するに至っている。
見られていたらそれに気づくというものだ。
普段から発動していても、そこまで気にすることもないから常時発動しているのだが、こう長々と注視されると気になってくる。
ちらっと、そちらを見やるとそこにはこの場所に似つかわしくない少女がいた。
なんでこんなところに少女が?
サキュバス見習いなのだろうか。
それにしても俺への視線が凄い。
そんなことを考えていると、奥の扉から男が出てきた。
男はへべれけに酔っていて、見るからにだらしない。しかしこんな顔をしていても重犯罪者だ。容赦はしない。
男が店から出たのを見計らうと、俺はそのあとを気配を消して尾行をする。
ん?
俺のことを見ていた少女もあとを付いてきた?
なにやら怪しさ満点である。
しかし今はあの男をと逃がすわけにはいかない。
適当に撒きつつ、あとを追う。
人通りが少ない広場へと着く。
結局少女は撒けたのだろうか?
俺の「視線察知」でも、ちょっと離れると効果が切れる。今のところ、視線は感じないが……。
俺は腰の短刀に手を掛ける。
背後から首筋に突きつけ、拘束する。なおかつ「威圧」を使い、萎縮させる。そうすれば大概の人間は抵抗しなくなる。
だが、赤痣の男は俺が「威圧」を使った瞬間に即反応した。
しかも同じく「威圧」を放ちながら振り返ってきたのだ。
「あんた、俺っちを殺す気だな?」
さっきまであんなに酔っていたのに、なんなんだこの判断力は。
思わぬことでびっくりしたが、とりあえず強がってみるか。
「やはり、気づかれるか。その赤痣……、お前も例の『罪人』か?」
こいつに仲間がいるかどうか、カマを掛ける。これに反応すれば、芋づる式に「罪人」が釣れる。
しかし男は何も知らないようだった。これが演技だとしたら、相当なものだろう。
「ほお、俺っちの他にもこのスキル持ってるやついるんだな。そいつあ困るなあ。それじゃ俺っちだけの世界が作れねえなあ
赤痣の男は「転生教のルールがわかってきたぜ」と小さく零していた。
転生教?
「罪人」というスキルを持つものと、転生教なるものが重なるのだろうか。
今まで「罪人」スキルを持つ者を発見する例は多々あるが、捕縛できたケースは一件もない。「罪人」は軒並み強い。そこらへんの冒険者パーティを雇っても全滅させるほどだ。
発見しても逃げられるか、殺されるかというものなのだ。
だから情報が圧倒的に足りない。できたらこの男からも情報を聞き出したかった。
「『罪人』は皆、どこかに赤い痣があると聞く。そして強力なスキルを持っているとも。その力を使い、悪事を働いていなければ特に関与することではないのだが、先ほど酒場で判別の水晶を使ったところ、お前だけが朱に染まった。お前、人を殺しているな?」
暗に、お前のことはわかっているんだぞと伝える。実際はほとんど知らないのだが。
「へえ、そんな水晶があるとは驚きだ。そんな危険なモン持ってるやつは始末しなきゃならんなあ」
しかし男に話し合う気はさらさらないようで、いきなり戦闘態勢になった。
次の瞬間、その場から男が消えた。
逃げられたかっ!?
しかし俺の「視線察知」がビンビン反応している。
これは……、上か!
短刀を抜き放ち、上空に構える。
赤痣の細身のダガ―が俺の短刀と重なる。
重いっ!!
しかしなんとか受け流すことに成功した。
「あんた、やるなあ。『速度の罪人』である俺っちの攻撃を防ぐたあ、並の人間じゃできねえよ。褒めてやる」
やばい、思った以上の強敵だ。今のでわかる。
こいつはやばいぞ。
「お前のような悪人に褒められても、名前に傷がつくだけだ。反吐が出る」
「そいつはどうも、俺っちは生粋の悪人なんでね。そんじゃ、この攻撃は耐えられるかな」
再び男が視界から消失。
「視線察知」で背後にいることが分かった。
慌てて背後に短刀を構えるが、既にそこに男はいなかった。
しまった!
罠か!
男は振り向いた俺のさらに後ろに回り込んでいた。この体勢ではさらに振り向くには間に合わない。
スピードが違い過ぎる。
俺は少しでも、攻撃をかわそうと体勢を敢えて崩す。
「馬鹿めっ!」
男が俺の左肩にダガ―を切りつけた。
俺はその攻撃を受けて、距離を取る。
「やはり、厄介だな。『罪人』というやつは」
「はっはー。それは仕方ねえよ。最強の速度を誇る俺っちの前じゃ、あんたらただの人間は雑魚。俺っちの目からすりゃどんなに速く動いたところで止まって見えるもんよお」
その通りだ。こいつの速度に追いつくことは不可能だろう。
追いかけることもできない。それは逆に逃げることもできないとも言えた。
ここで殺さなければ、俺がやられる。
俺は捕獲から殺害に目標を変更した。
とりあえず、回復ポーションで左肩を癒す。これなら、まだ体は動く。
しかし全力とはいかない。
「首狙ったつもりだったが、少しずれちまったか? まあいい、その調子じゃ直ぐに俺っちの刀の錆にできる」
「ふん、そう簡単に殺されてたまるか」
俺は即座に駆けだした。鋼糸を絡ませた短刀を四本投擲。そして見えないように、いくつか地面にも差し込む。
ナイフはもちろん躱された。しかし目的はそれではない。
俺は腰のもう一本の短刀を取り出して切りかかった。そうすること、相手を壁付近まで追いやることに成功した。
「チッ。めんどくせえ。その程度で粋がってんじゃねえぞ」
俺はそのまま追い詰めるそぶりをする。そうすればきっと。
「視線察知」が動く。
そしてその動きは途中で止まった。
「……え?」
俺の思惑通り、奴は鋼糸に自ら突っ込み断裁された。
なんとか窮地を脱した。しかし情報はついぞ得られなかったな。
「……ッ!」
「視線察知」にさらなる反応。新手か!?
俺はその視線に向き直る。
そこには先ほどの少女が。
見れば少女はものすごく怯えてしまっている。この光景を目にしたのだから、それは当然だ。
俺は静かに歩み寄ろうとした。
そこで気づいた。
俺に怯えている?
あ、「威圧」をまだ解除していなかった。
俺は慌てて「威圧」を解除しようとする。
が、しかしそれよりも俺は恐ろしいものを目にした。
少女の目が、漆黒につつまれたようになる。
直後俺の身体は微動だにできなくなった。
「ッ!!」
身体が動かない。かなり強い拘束力だ。しかも力がどんどんと奪われていく感じがする。このままだと、俺の命が危ない。
あの少女、まさか「罪人」なのか?
あの年の少女がここまでの威力のスキルを放てるとは思えない。それなら「罪人」であると考えるのが妥当だろう。
俺は何とか、足を動かす。
ものすごい倦怠感だ。重力が倍になったみたいに足が重い。
俺は立っていられず、無様にこけた。
しかし俺は尚も近づこうと這いずる。
この手で止めないと……!
すると、さらに少女からの圧力が増した。なんという魔力だ。
おそらく彼女は何かしらの魔眼を発動させてると思うが、こんな非常識な威力を長時間発生させるなんて、直ぐに魔力が枯渇するに決まっている。しかし、彼女はさらにその威力を高めた。
無尽蔵の魔力を彷彿とさせた。
これは本当に俺の命が危ない。
しかし、突如その圧力は消え去った。
少女が気絶したのだ。
俺はやっとの思いで、力を抜いた。よかった。あのままだったらあの力に押しつぶされていたかもしれん。
体力はかなり消耗したが、まだ動ける。
俺はゆっくりと立ち上がると、彼女の元まで近づく。
白くて長い髪は、先に行くほど黒く染まっている。背中には歪にも大きさの違う羽、臀部からはサキュバス特有の黒い尻尾が生えていた。
見るからに謎の生物だ。なにかのハーフだろうか。
ハーピィとサキュバス?
おそらく、有翼人と淫魔の間に出来た子なのだろう。
処断の水晶を取り出し、翳す。
「青か……」
この娘は犯罪を犯していない。それだけで俺はほっとした。
こんな力を使う娘が、犯罪に手を出しているのなら大変な事態になるだろう。その前に見つけられたのだから僥倖だ。
次は「罪人」チェックだな。
俺は一言謝ると、彼女の服を剥いだ。
全身くまなく確認するが、赤い痣は見当たらなかった。
俺はもう一度軽く謝ると服を着させる。
この娘は「罪人」でも犯罪者でもない。
だとしたらこの異常なまでの力は一体……。
とりあえず、もう夜中だ。
この娘を家に帰してあげなくてはならない。
俺は少女を抱きかかえ、この娘の家を聞きまわった。
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