魔法具屋の孫娘が店長代理として働くことになったが、お客様から言い寄られて困っている話

くじら

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おじいちゃんが転倒して骨折をした。

モンスターに噛まれたとか、敵に斬られたのなら治癒する魔法もあるのだけど。
高齢者の骨折のような老化現象を完治させる魔法は、今のところない。

僧侶の治癒魔法で骨はなんとなくくっついたみたいだけど、しばらくは安静に過ごしてもらう事にした。

おじいちゃんが復帰するまでの間、『プレーダッド魔法具店』は孫の私が店頭に立つことになった。

まだ学生なので、営業は夕方から夜までと休日のみ。

おじいちゃんに「学校は行け」と言われているので営業時間は短めに設定された。

冒険者のお得意さんが多いお店だし、王国騎士団御用達のアイテムも多い。完全に休むと色々と問題があるのだ。

私、アルールは今日から店長代理。

制服のまま預かった鍵を持ってお店へ向かう。

するとお店の前に人影を見つけた。

ロングコートのフードをかぶった冒険者風のワカモノだ。足元からブーツが見える。
ワカモノが私に気づき、こちらを向いた。

垂れ目で泣きぼくろがある、色っぽいイケメンだな、という印象だ。

「今開けますのでお待ち下さい」
そう声をかけて鍵をカチャリと回す。

「あれ?店長は?」
ワカモノにそう問われ
「しばらくは孫の私が店長代理です」
と答えると
「お孫さんなんだ、可愛いね」
なんてニコニコと笑っている。軽そうだ。

「どうぞ」
私はお店の扉を開けた。ギィと、古めかしい音がなる。

店内の照明をつけて、レジカウンターに入る。そしておじいちゃんから引き継いだ手帳をパラパラとめくった。

「頼んでいたものを受け取りに来たんだけど、分かるかな?」
ワカモノがカウンターに肘を付いて私の顔を覗き込んだ。

「お名前教えていただけますか?」
「カイ。カイ・タイラント」
「カイさまですね」
パラパラと手帳をめくり名前を探す。
あった、剣に装備する魔法具のお渡しだ。

カウンター背後の棚を開けると、箱がギッシリと詰まっていた。そこから一つの箱を引き出す。

「中身をご確認ください」
カイは箱から魔法具を取り出した。それをじっくりと検品して、ニッコリと頷く。

「バッチリ」
「ではこちらに受け取りのサインをお願いします」
受領書とペンを渡す。カイはサラサラとサインを入れた。

「ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする私を、カイはキョトンと見ていた。

そして
「ハハハッ!君イイね!」
などと突然明るく笑い出す。

こちらがキョトンとする側だ。

「オレが顔を近づけると、若い女の子なら結構照れたり赤くなったりするんだけど、君はちゃんと距離を置くんだね」
「はぁ…」
はぁとしか言えない。

「店長代理さんのお名前は?」
カイはまたカウンターに肘を付いて、顔を近づけできた。いたって冷静にカイの顔を見て返事をする。

「アルールです。アルール・プレーダッド」
「本当にお孫さんなんだ。こんな可愛いお孫さんがいるなんて知らなかったな。これから毎日来ちゃおうかな」
「どうぞご贔屓に」

私はナンパには応じない。

なぜなら、同級生に王子やら貴族やらイケメンがいっぱいるので見慣れているのだ。

「ねぇ、その制服、王立魔法学院のだよね。何年生?」
「2年です」
「2年って、同学年に王子さまとかいるんじゃなかったっけ?」
「ソウデスネ」
だんだん応対が面倒になってきた。

「楽しそうだよね、学校。いいなぁ異性との交友。話すきっかけがいっぱいあって」
「…」
返事をするのも面倒になってきた。

このイケメンはチャラいな、と思った。
チャラい奴は苦手だ。どう反応すれば正解なんだろう。

それにさっきから微妙に香りもする。男性がつける香水だろうか?

「アルールちゃん、これから毎日いるの?」
「放課後と休日にいます」
「オッケー、また来るね」

もう来るなとはお客様には言えず、自分の顔をかくすようにペコリとお辞儀をすると、カイはヒラヒラと手を振ってお店を出て行った。

(はぁ、やっと帰った)

口には出さず、肩を下ろす。

そして私は雑巾を取り出し、まずカウンターを拭いた。そんなに汚れてはいないが一通り掃除をすることにした。

その後ポツポツとお客様が来店した。

みんな、学生服の私を見て声をかけてくれた。

イカツイ鎧を着た人、美人な露出の多いお姉さん、生活を楽にする魔法具を求めてくる高齢者…魔法具は様々なニーズに応えるものなので、お客様も様々だ。

ここ最近の人気商品は『魔法瓶』と呼ばれるもので、中に入れた液体がずっと同じ温度で新鮮なまま保存できるものだ。冒険に出る者の必須アイテムとなっている。

翌日もまた放課後に店を開ける。

お店に入り、学校のバッグを置いてカウンターに座るとすぐにお客様が来た。

カイだ。

「ヤッホー、アルールちゃん」
「いらっしゃいませ」

結局このやり取りを、その後も毎日続けた。

カイが何者なのか少し分かった。

冒険者ギルドに所属していて実戦経験もあり、剣とナイフの使い手だという。

ギルドからモンスター退治の依頼を受けたり、お店から薬草をとってきて欲しいなどの依頼を受けたりと、仕事の範囲は広い。退治したモンスターの名前を聞く限り、実践経験値は高そうだ。

カイは色々な道具を買っていく。仕事で使うのだろう、薬草などにも詳しかった。
時々スイーツの差し入れもしてくれた。
女の子には基本優しいのだろう。

知り合って1ヶ月ほど経ったある日。

カイはいつもより多めに魔法具をカウンターに乗せた。
「会計お願いね。ちょっと山岳部までアイテムをとりに行かないといけなくなってさ。しばらく来れなくなるけど、寂しくても我慢してね。また来るからさ」
「はぁ…」
「そうだ、君にもお土産とってくるよ。良いのが見つかるといいな」
カイはニコニコと笑いながらいつものようにカウンターに肘をついた。

「お客様、私のために危険は犯さないで下さい。必要ございませんので」
「もうそろそろカイって呼んで?」
突然の提案に、はぁ、とため息をつく。

「カイ様」
「えーっ、呼び捨てがいいな」
「カイ様」
「クラスメイトだと思って、カイって呼んで?でないと帰らないよーん」
ジト目でカイを睨む。

「お客様を呼び捨てなど」
「アルールちゃん何歳?俺25歳」
「えっ」
素で驚いた。

「ん?俺のこと何歳だと思ってたの?」
「同じ17くらいかと…」
若くみえたのだ。

「えーっ、なんかそれ複雑だな~。大人の魅力出てない?」
出てない。

カイはわざとらしくむくれた。
「何その沈黙!ひどいなー。ってゆーかアルールちゃんは17歳かぁ~。誕生日は?」
「…黙秘します」

カイになんでもかんでも喋ってしまうのはシャクだ。

カイがニヤリと笑う。垂れ目がさらに垂れ目になった。
「当てようか、じゃあ~6月生まれ!」
「当てないでください、時間の無駄です」
「違う?じゃあ5月」
「違います」
「じゃあ7月」
「そんな事言ってたら、いつかは当たるじゃないですか…」
「うん、じゃあオニーサンに素直に言ってみ?」

はああああ、とため息を大袈裟につく。
正直に誕生日を喋ると、カイは驚いた。

「来週じゃん!えーっ、すぐに戻ってこれるかな俺」
「いや、あの、別に何も……」
「さっさと仕事して帰ってくるから、待っててね。お土産も頑張って探してくるからさ」
「いや、結構で……」
「アルールちゃんの為に、張り切っちゃお~」

カイは元気に握り拳を上げた。
「人の話を聞いてください!」
「アハハ」
カイは私をからかって楽しそうだ。

私はまた、はあああとため息をついた。
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