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子供時代
第18話 『勇者』
しおりを挟む「いいかい?シルフィ。絶対にこの部屋から出てはダメだ」
「はい。大丈夫です」
「ロッゾも居るし大丈夫だとは思うが、俺が戻るまで部屋には他に誰も入れないように。ロッゾもいいな?」
「はい、承知しました。シルフィリア坊っちゃまは私が命に代えてもお守り致します」
先程から同じようなやり取りをもう3回以上はしてると思う。
子供に「知らない人にはついて行っちゃいけないよ」と言い聞かせるかの如く、何回も繰り返し親のように言われるといい加減うんざりしてきた。
確かに見た目はまだ幼い子供だが、中身はこれでも前世合わせればいい大人だし。
「ガイナス様、分かっております。ここからは出ません」
「シルフィ……」
そんなうるうるおめめで見ないで欲しい。
すっごく心配してくれているのは分かっているのだ。
だが何も分からない子供ならともかく俺は中身はいい年なのである。
「僕の事なら大丈夫です。それよりガイナス様こそ気を付けてくださいね」
「……ああ」
そこまで『勇者』や『聖女』の何に気を付けるのか分からないが、彼らがここまで警戒しているのだからきっと何かあるのだろう。
それならこの部屋で篭もる俺なんかより直接会う事になるガイナス様たちの方が危険が高い。
……まぁ、この世界でほぼ最強である竜人族がそうやすやす負けるとも思わないが。
「……はぁ。名残惜しいが仕方ない。シルフィ、行ってくる。ロッゾ、シルフィの事を頼んだぞ」
「はい」
ガイナス様は俺を緩く抱きしめると離れていった。
その背中を見つめる。
(何事もありませんように……)
──────────────
ガイナス様たちと勇者たちが会談している間、言われた通り部屋の中で俺は過ごしていた。
だが部屋に娯楽になるものは何も無く、俺は暇を持て余していた。
「何か本でもお借りすれば良かったですね。そこまで気が回らず……申し訳ございません」
「いや、僕も昨日今日と慌ただしくてそこまで気が回らなかったし」
ロッゾが申し訳なさそうにしながら空のカップに紅茶を注ぐ。
お茶のおかわりも何杯目だろう。
そろそろ俺のお腹は水分だけでだいぶ膨れた気がする。
「ガイナス様たち、大丈夫かな……」
そう呟きながら窓の外を頬杖をつきながら見ていた時、窓の外から小さな青い小鳥がこちらに向かって飛んで来るのが見えた。
そしてその小鳥は窓のところまで飛んでくると窓ガラスの縁に止まり、小さな嘴でコンコンと窓ガラスを叩いてくる。
「なんだろ、伝書鳥かな?」
俺がこちらに居る間は俺への連絡は俺じゃなくガイナス様宛に送ると父様は言っていたはずだが、兄様あたりが俺に飛ばしてきたのだろうか?
首を傾げながらも俺は窓を開けて青い小鳥を部屋の中へ招き入れようとした。
「坊っちゃま、不用意に窓を開けてはなりません。ガイナス様からも言われましたでしょう?」
「え?いや、でも……」
その時、小鳥が窓枠の縁に移動したのでその小さな体が半分見えなくなったと思ったら、嘴を閉まっている窓の僅かな隙間に差し込み器用に窓をこじ開けた。
そうして小鳥1羽分入れる隙間を開けるとそのまま中に入ってくる。
俺でも硬くて手こずる窓のロックはいつの間にか外れていた。
「坊っちゃま!あの小鳥に近付いてはなりません!」
そう叫んでロッゾが俺の腕を掴むより早く、小鳥が俺の頭に止まった。
「ピィピィ!」
頭の上に乗った可愛らしく鳴き声を上げる小鳥を気にしながら、俺はロッゾにどうしたら良いかと目を向ける。
だがロッゾは俺の腕を掴もうと手を伸ばした体勢で中途半端に止まっていた。
「ロッゾ……?」
「………………。」
「ロッゾ?どうしたの?」
俺がロッゾのおかしな様子に戸惑っていると、どこからか聞き慣れない声が聞こえてきた。
《なるほどなぁ......やべぇ結界が幾重にも張ってあると思ったら黒竜の番なのか。通りで壊すのに苦労したはずだ》
それはまるで機械を介して出されたような少し雑音とノイズの混じる若い男性の声だった。
この部屋の中には俺とロッゾ以外誰も居ないはずので、必然と俺の頭の上に止まっている小鳥に意識が向く。
《お前は邪魔だから眠ってていいぞ》
その言葉に目の前で腕を伸ばしたまま不自然に固まっていたロッゾは膝から崩れ落ちるように床に倒れた。
「ロッゾ!?」
今すぐにでもロッゾの元に駆けつけて様子を見たいが、頭の上に乗っている得体の知れない小鳥に恐怖心が増してなかなか体が動かない。
すると小鳥は機嫌良さげに「ピピピッ!」と鳴いた。
そしてーーー
《アイツらの予想も惜しかったな。アウクシリアの聖女に会いたかったのは勿論だが……》
頭上からその声が聞こえてきたと同時に辺り一面が眩い光に包まれた。
俺は思わず目を瞑り両腕を持ち上げて顔を庇う。
合わせて光だけでなくキュイーンという不快な耳鳴りのような音も聞こえる。
「…………?」
暫くすると眩しさや音が無くなったように感じたので、顔を庇っていた腕を下ろし恐る恐る目を開ける。
すると俺の前には窓を背にして立っている、黒い髪に青い瞳をした涼し気な美貌の青年がいた。
右目の目元には泣きボクロがありそれがどこか色っぽい。
着ている服が黒いジャケットに黒いパンツ、そして黒いブーツなのでパッと見はスラッとした長身の全身黒い人という感じだ。
「初めまして、シルフィリア・ワーマイアくん。俺は竜胆 昴。一応これでも今代の『勇者』だぜ?」
そう言って自分の事を『勇者』と告げた青年は親しげな笑顔を浮かべ、ガイナス様とはまた違った熱の孕んだ瞳の中に俺を映した。
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