転生辺境伯次男はチートが過ぎる

如月 満月

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子供時代

第15話 シルフィ、初めての旅行編⑦

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“……俺が何をしたって言うんだ”


(誰?)


“早く帰りたい……早く帰してくれよ”


(何を言ってるんだ?)


“王宮の奴らも、あのクソみたいな皇帝も、みんなみんなーーー”


(お前はいったい……)



“ぶっ殺してやる”





──────────────





「坊っちゃま、大丈夫ですか!?坊っちゃま!シルフィリア坊っちゃま!!」

大きな声に目を開けると、扉の方からドンドンと叩く音が聞こえてきた。
どうやらロッゾが起こしに来たらしい。

「……ごめん。大丈夫だよ、ロッゾ。夢見がちょっと悪かったみたい」

そう言って俺は扉の方に走り寄って部屋の鍵を開けるとロッゾを中に招き入れた。
ロッゾは心配そうな面持ちで俺を見てくる。

「夢見が悪かったとは……一体どんな夢を見たらそこまで真っ青な顔になるのですか」
「……え?僕、そんなに顔が青ざめてる?」
「ええ、それはもう倒れそうなくらい。そんなお顔でガイナス様の前に出れば心配で逆に部屋から出してもらえなくなりますよ?」

え、それは嫌だなぁ。
今日中にはトライア・ドラグーンのお城に着くって言ってたし。
どうせなら早く着いてゆっくりしたい。

「顔色がよく見えるクリーム塗ってくれる?」
「はい、もちろん。でもそれであの竜王陛下の目は騙されないと思いますけどね。なので奥様からお預かりしていたリラックス効果のあるお香を焚きますので、落ち着いたら下に降りてきてください。ガイナス様には適当に理由を話しておきますので」

そう言って俺の着替えの補助や身だしなみを整えると、自分の部屋から持ってきたお香を俺の部屋で焚いてから出て行った。


「……あの夢の、男の声って。内容からしてもたぶんそう・・だよな」

俺以外誰も居なくなった部屋でポツリと呟く。
ベッドに座っている膝の上で組んだ両手を意味もなくじっと見つめる。


(恐らくは、初代・・二代目・・・の『勇者・・』)

3人目の『勇者』は皇子に既に復讐している為、皇帝に強い恨みを抱いてるとすれば殺された初代か二代目のどちらかだ。
まぁ“帰りたい”と言っているから勇者じゃないかと結論付けただけで、実際は全く関係無い人の可能性もあるにはあるが。

「『勇者』と『聖女』の話を聞いてから何日か経ってるのに、今更こんな夢を見るなんて」

よっぽど俺の中で印象深い話だったからなのか。
それとも……何かあるのか。
それに関しては今の時点では何とも言えない。

「俺は創造神サマから貰ったチート能力で面白可笑しく暮らせればそれでいいんだけど。過ぎたる力は何とやらって言うし、一筋縄ではいかないんだろうなぁ……」

これからの自分の未来を少し憂いてしまい、はぁ~と大きな溜息を吐いた。





──────────────





ツヴェッタを予定通り朝には出発した俺たち一行は、国境でちゃんと手続きをし(ガイナス様はいつも力技で通って警備兵を泣かせていたらしい)トライア・ドラグーン王国へと入国した。

入国手続きには長蛇の列が並んでいたが、そこはさすがにこの国のトップである竜王様なので顔パスだった。
俺とロッゾもマッケンさんが何やら手続きしてくれてすぐ通してもらえたので良かった。
と言うより、俺の隣にいたガイナス様の無言の圧に入国審査官の人たちがビビりまくって即行終わらせた感があるが。

……こんなに早く手続きしてくれるのに、何故ガイナス様はいつも力技で通ろうとするのか謎だ。



とりあえず無事入国した俺たちは、そこから更に首都ユグドラシアを目指した。
ガイナス様の大きな竜の背中に乗って見るこの国の山々の景色はとても雄大だ。
眼下に広がる緑豊かな自然は命を育む力強さを教えてくれる。


「あそこに見えるのが首都ユグドラシアだよ」

ガイナス様の声に目を凝らすと前方に木々の緑色とは違う色の塊が見えてくる。

「うわぁ~もう着いちゃうんですか!?思ったより早いですね!」
「ちょっとばかりスピードを速めたからね」

やっぱり速かったんかい。
通りで行きよりもなんか流れる景色が早い気がしたんだよ。
後ろを振り返ると茶色い竜が遅れずに着いてきていて、こちらに気付くと顔を上げてその爬虫類顔でニヤリと笑った(気がした)。
その背にはしがみついているような人影も見える。

…………ロッゾ大丈夫かな。
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